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”正直”という期間限定商品

 宝物はいつも手の中。眠る時、遊ぶ時、ご飯の時。いつでも手のひらの中にある。

例えば、

・色の違う石

・何かのバネ

・銀のエンゼル

・ミニカー

・どこかの国のコイン


そして

キャラクターのカード。


今回はそのカードのお話しです。




 少し寒い青空。日なたにいれば少し太陽を感じる季節。この地域では比較的大きめの公園に家族と行った。楽しい雰囲気でうちの子供も奥さんも、もちろん僕も笑顔。

 その公園の遊具のひとつに『トーマス』の乗り物がありました。コインを入れて一定時間電動で動くというもの。
 懐かしいトーマスのテーマとともに2歳の息子は大はしゃぎ。そして動きが止まるとキャラクターカードが出てきて「また遊んでね」と言ってくれる。

 大はしゃぎの息子。カードは『ヒロ』。カードをもらえることを知らなかったこともあり喜び爆発。「もう一回!」と言われ親バカコンビの僕たちは言われるがままもう一回トーマスと出発。そして次に出たカードは『ニア』。息子の大好きなキャラクターが出てテンション急上昇。

「しっかり手で持ってるんだよ?」
うん
「パパ、持ってようか?」
やだ

そんなやり取りをしていると

♫ 13時より 大道芸人 BoxMan のショーを行います ♫

大道芸か。あまり間近で観たことないなとみんなで観ることに。

BoxManはその日の突風に苦戦しながらも数々の大技(らしい)を何度か挑戦し、成功の暁には拍手の強要(演出ね)をして盛り上がっていました。

なるほど、話術と技術の融合ですなと感心。


 その間、息子はカードを眺めてニヤニヤしていました。まぁ、なんと微笑ましい光景。それでも何度も不注意でカードを落とす息子。
大事なものはギュッとしてたら無くならないよ」と注意を促す。


手から離れたカードはパラパラと強い風に流され飛んでいく。あっちに飛んで行ったよ、ここにあるよと息子に伝えて、息子はそれを焦って拾う



そんな時、また息子がカードから手を放し風に流され飛んでいく。



その時



近くに小学生(3年生くらい?)がサッと拾いポケットに




息子は一生懸命探している。



その小学生は親に言う。「ねぇ、パパ、トーマスのカードが落ちてたよ」
親、あのBoxManに夢中なのか”フーン”と無関心。どうする親。

それを見ていた息子、ついに泣き出す。

お友達が盗ったぁぁぁぁぁぁ

小学生はそれを見て見ぬふりなのか知らん顔


まだ盗ったわけではない。



息子叫ぶ「カードなくなっちゃ~」

BoxManは演技を終える。


僕は息子を抱きかかえ一緒にカードを探す。(僕は小学生からカードを返すという行為を待っていた)

『お友達が盗った~』

うちの奥様はえええ?お友達って誰?覚えてる?と問いかけるが息子はそれどころではない。

*奥様にこのことを言うと第三惑星を真っ二つに破壊する恐れがあるのと、その親子が一瞬で炭になる可能性があるため言わなかった。



息子に「ゾウさんの声でさ、ニア、どこにいるの?って聞いてみたら?」と言う。
息子は泣きながら「ニア、どこ?」「トーマシュー、どこ?


 小学生、そそくさと近くの遊具に遊びに行った。
こいつ返す気ないな。怒鳴り散らかそうかと思ったが、まだ善意を信じていた。それにお互い子どものいる親ということもあるため、僕は少し子供に任せてみようと思っていた。


まずは小学生の親に聞こえる距離(50㎝)で
「トーマスのカードないねぇ」
「ニアのカード飛んでったのかな」
「誰か拾ってくれたのかな」
「トーマスのカード、大事だもんね」
と、連続でたたみかけるも、その親、知らん顔

息子も引き続き『ニアー!!!トーマシュー!!!
と泣き叫ぶ。

 おぃおぃ、舐めんなよ。トーマスのカードの話をした瞬間、こっちを急いで見ただろ。目を見開いた。そして前髪、眉毛を触る。体を背ける足の先は小学生の方向。ポケットに手を入れる。どうした、指の先が急に冷えたのか?それとも相手に手の平を見せるのが怖くなったのか?はいはい、ほぼほぼ嘘確定の演出微表情研究家(自称)のこの僕を騙せると思ってんのかこのクソ親が。と思ったが、小学生に罪はない(多分)


むむむ、仕方ない。

「あそこにいるお兄ちゃんたちに聞いてみようか」

『うん…』鼻水、涙。




トーマシュカード知りませんか?」と息子。

知らない』と小学生。

カエルの子はカエルだな。もう一回チャンスを差し上げよう。


ニアのカード知りませんか?」と頑張って呟くように言う息子。

一瞬戸惑いの表情を浮かべたがスルーしてやろう。



カード…知りましぇんか?

しぶしぶなのか『落ちてたよ』と右ポケットから取り出す。

そうだろうね。見てたからな、持っているのは知っていたさ。

「拾ってくれて、良かったね」と言おうとした瞬間。





ダメだよ」と息子。





小学生、逃げるように滑り台の向こう側へ。


遠巻きで小学生の親が心配そうにこっちを見ている。安心しな、子どもには手を出さねぇよ。


鼻水と涙でグシャグシャになった顔を、硬いポケットティッシュでぬぐいながら歩く。


小学生の親の横を通る時に、

人の物を盗ったらダメだよね、よく言えたね」
「パパ、嬉しいな。よく頑張ったね」

と、これまた聞こえるように言う。

謝罪なし

まぁ仕方ない。子どもがやったことだ。家に帰ってしっかりと注意してくれたまえ。


『ママァ、カード、あったよ~』とママに見せる笑顔は晴天に合う笑顔だ。

「あったの?良かったね~」とママも笑顔。





 宝物はいつも手の中。眠る時、遊ぶ時、ご飯の時。いつでも手のひらの中にある。

遊び、泣き疲れて息子はチャイルドシートの中で丸く眠っている。その手の中にはカードがある。今度こそ落とさないように、大事そうに握りしめて、そして、折り曲がっている。


それでも大事な宝物だ。


宝物はいつでも手のひらの中


そのことを大人になると忘れてしまう。





追記:

帰り道、そのことを奥様に話した。
息子がカードを落として、小学生が拾った。それをポケットに入れたことと小学生が親に報告をしたこと。全部見ていたが親は子どもを叱るわけでもなく知らん顔。その時に言うべきか悩んだけど、子どもがどうするかを見たかったし、先に親に注意すればよかったかなぁと言うと、

奥様「おぃ、今すぐ引き返せ、八つ裂きにしてくれるわ」
僕「そこは息子氏の寝顔で勘弁してくだせぇ」
奥様「いいや、勘弁ならぬ。そのはらわたを喰らいつくしてくれるわ」
僕「まぁまぁ小学生がやったことですし」
奥様「子どものことを言ってるのではない」
「その親を血祭りにしてくれるわ」


そんなこんなで息子はチャイルドシートに埋もれて宝物と一緒に寝ています。



追記の追記:

今回は”不登校”とは全く関係ない内容だったな。しかしながら毎回思うのだが、学校へ行っていても、素晴らしい大学を出ていても性根が腐っていると手に負えないな。道徳の時間がいかに大切か痛感した。

 未だに分からない。正直に生きる方が得なのか、嘘で塗り固められた方が得なのか。
 このカードの件、もし僕が見ていなかったら”小学生”はかなりの得をしたことになる。そして手を離した息子は”自分が手を離したから”と自分を責めることになる。この場合、小学生の方が道徳的にNGだが人生としてOK。息子は損しかしていない。力が強く、ズル賢い方が得なのが世の中だ。僕は認めたくないがこれが”世の中”だ。なんて息子に言えるわけもなく…





 その夜、大きい人に勇敢に立ち向かって正しいことをしたね。パパは誇りに思ったよ。拾ったら正直に返すこと。おてんとさんは見ている。誰も見ていなくても、良い行いは必ず継続してすることと伝えた。寝ている息子には届いていないだろうけど。






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