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1-13 誓い

 通知表なんてただの数字。そうは言ってもそれが人生の基準となってしまう。数字が低いとその人間の価値も低いと思われる。通知表での最低のポイントは9(当時は相対評価。現在は絶対評価)。そう、これ以下はない。これ以下はありえない。

 見直すたびにため息が出る。どうしたらいいんだろう。考えても考えても答えは出ない。
 もともとうちの家柄はいわゆる”お堅い”家庭で。父親は大手保険会社、母親は専業主婦、祖父は両家とも開業社長だ。おじは銀行員ときてる。もう敷かれたレール以外は人生ではない、曲がったことをするやつは人間ですらないという雰囲気だ。

 つまり僕ははみ出し者で厄介の種だった。種のうちはまだいい。そのうち厄介な芽が出たら刈り取られてしまうだろう。今のうちに何とかしなくては殺される。本気でそう思っていた。


僕は誓う


心機一転。やってみよう。
三学期から追いついて、前みたいな自分に戻るんだ。
きっとまだ間に合う。そう先生も言ってくれた。
やるぞ。やれるやれる

誓うことは誰にでもできる。簡単だ。誓うと言うだけでいい。
動くことは誰にでもできる。ただ、複雑だ。これが非常に難しい


 早速、教科書を開いて見たこともないページから始めてみる。驚いた。ここまで学校の教科書が片側一車線の一方通行だとは思ってもいなかった。

 数学。ほんの少しの解説はあるものの、解き方、FAQ(よくある質問)、理由は書かれていない。先生がその部分を説明するのだろう。困った。。。問題の解説が雑で作った人は国語を習った方が良いんではないかと思う。

うん、次。

 社会。眠い。ひたすら眠い。それぞれに調べれば面白いだろうことをわざわざ難しい言葉と見づらい文字で表現している。いまだに文明開化の音のしない教科に感じる。

うん、次。

 English.Oh,no.Anatano itteirukotoga wakarimasen.sumimasen.
Why do not you study English conversation?
umm,I do not know about that.

うん、次。

 国語。国語は好きだ。面白い。本を読むのは好きだ。想像しているだけでワクワクする。そんな素敵な物語に僕は思わずくしゃみをした。しかし国語の勉強とはどういう意味なのか分からない。胃がネリリし、キリリし、ハララしている。

うん、次。

 理科。理科はね。得意なんですよ。実験が。って家じゃ実験は出来ないよ。葉緑体とかそういうのは苦手。記憶するやつ辛い。役に立つのだろうけど、どのように役に立つのかも教えていただきたい。

結局、この30分でやったことは教科書を引っ張り出して、並べて鑑賞して国語の教科書で詩を読んでワクワクしただけだ。何も前進していない


絶望というか自分への情けなさで、僕は窓際の椅子から外を見る。同じように悩んでいる火星人がいるのではないかと妄想にふけ自分を慰める。

 追いつくどころか追い詰められていくような気分になって不安になる。
たった110日の間に周りの人たちと大きな溝が出来てしまい、二度とそこには戻れないのではないかという現実が押し寄せてきた



僕の誓いは短命で、儚く、そして、脆い


しかもたいして美しくない。


心の中ではこう思っていた。


学歴なんか関係ない。中卒でいいや。なんとかなるだろう。


新年の誓いなんてくだらない。


その思いが、暗い思いが、全身を包む


僕はみんなが寝静まったリビングに行きTVにスイッチを入れた。



現実逃避をしていた。自分でも分かる。



自分からも、家族からも、友達からも逃げ出し始めた。



外は寒い。こたつの低いノイズだけがリビング響いた。








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元最先端不登校児@僕と周りの苦悩の差
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