詩「最後に意味を付け足させてください」
檻から放たれた2匹のモルモット、まだ見ぬ世界へ
2匹のモルモット、それぞれ性格が相反する
一匹は寡黙で何を考えているのか分からず、孤独を恐れず、されど立ち振る舞いは優しく
一匹は多弁で何も考えておらず、独りを恐れて、あらゆる敵をなぎ倒す
価値観、距離感、責任感、他にもあるものの思想や生き方がそれぞれ異なる「茄子」と「唐辛子」の2匹は仲が良いと言う
旅を続けて辿り着いた華やかな大都市
都会は夢が叶うと励ますかのように2匹に追い風が吹く
けれども、「茄子」は夢よりも社会を観察しようと決意を固め
2匹はここで一旦別行動への道のりへ
再会したら夢を叶えようと約束を残して
自己研鑽、毎日が上手くいくと限らず
涙と汗が必ず出るような生き物ではないから
人間に想いを馳せつつも約束の日が到来
ここから夢を叶えようと決心した時は色鮮やかだったかもしれない
夢を追う中、2匹が手に入れたのは地位やお金だけでなく掛け替えのない仲間
戦友であり宿敵でもある彼らとは長い付き合い
今でもその絆は破綻していない
たとえ遠くに別離しても
そんな種類も性格も異なる彼らとは
だけど、この夢への果てしなき闘い
日に日に陰りが2匹を追い掛ける
「茄子」は孤独が苦ではない、故に地位やお金なんて気にしない
とどのつまり夢が叶うなら何も成せなくてもいいと悟る
けれども、夢が叶う才能は煌めく宝石その物
「唐辛子」は独りではなくいつの間にか家族が出来た、だから一定の地位やお金を求める
しかし暴れ回る生き方しか出来ず、男も女も傷付けて悲しませていく中
おまけに、夢が叶う才能は風に舞う塵だが、程よい距離感はあった
そうだ、この2匹は正反対だと忘れていたのかい
この関係性は壊れないのか、気にするな
「唐辛子」は「茄子」の頭脳に追い付くので手一杯だから
ある日、「茄子」は他の都会に行こうと決心
「唐辛子」も家族を連れて同行する
だけど、地位とお金は直ぐには上がらなかった
それだけでなく、変えられない過去を暴かんとする猛獣がこの地で活発になってきた
そんな中、2匹は変わらなかった
それが、夢を閉ざす元になるとは思わず
ある時、仲間の誰かが「唐辛子」の数少ない才能を引き出した
思わぬ形で開花したその生命力、その才能が世間に認められ他の仲間も歓迎する
一方、「茄子」は不変のスタンス
アスパラガスに興味を抱くが、小さな幸福を貫こうとしてばかりの日々
そうして、猛獣の足音が少しずつ大きくなる中、少しばかりの夢心地
幸せの日々は突然崩壊するものだと、目が耳が鼻が肌が舌が牙で攻撃されて物が分かる
栄華は儚く散り、辛辣な言葉に埋め尽くされ、業火に焼かれるのを恐れ、逃げようとしても身も心も炎が覆い尽くす
取り返しのつかない過去が自らの首を絞めて、災いの渦中に墜ちる
許しを請うために覚醒したはずが、止まらぬ業は全てを荼毘に付す
そうして、「唐辛子」は重体になった
ここで2匹の幼き頃へ移ろう
決して擁護している訳ではなく、事実確認の為に話したい
聞いてくれよ
かつて、別々の所で暮らしていた2匹
「茄子」は幼き頃、孤独でも大丈夫と気が付き
「唐辛子」は幼き頃、虐げられる日々を壊そうと暴力で返す
ある日、2匹は同じ檻に入れられた
初めのうちはお互いに興味がなかったが、ある時「唐辛子」が「茄子」の魅力を見出し、仲間に入れる
しかし、荒れ狂う集団にいた「唐辛子」に「茄子」はそれでも傷付きたくないあるいは傷付けたくないと我を通す
その誓約は今でも守られている
けれども、過去は全て美しく綺麗なものだけで構成されていない
「茄子」に哀れみや慰めの言葉はいらない
「唐辛子」の愚かさを含めてずっと一緒だったから
新しい檻に閉ざされた2匹
別離の檻で2匹に保たれるソーシャルディスタンス
「茄子」は相変わらずアスパラガスを食べ続ける変わらぬ日々を繰り広げる
「唐辛子」は今も目を覚まさず、今も意識不明
社会復帰の目処が立たない
しかし、回復したとて彼を歓迎してくるのだろうか
ここまでお読みくださりありがとうございます
この話は聞き流してもいいくらい意味はありません
でも、最後にどうしても付け足したい「意味」を言わせてください
どうか、この2匹がこの悪夢から覚めることを願い、私は彼らに同じ名前の花を贈ります