原書感想文③「とにかく、書斎」(아무튼,서재)
今回の引っ越しにおいて一番気を使ったのが「机」「椅子」「本棚」という3つで構成された空間、書斎(もどき)の空間だった。持てる予算と睨めっこしながら今自分の持ちうる知識を書斎に反映させようと努力した。
そんな時期に丁度読んでいた本が『아무튼 서재(とにかく、書斎)』だ。
私のNote2回目の登場になる「とにかくシリーズ(아무튼 シリーズ)」は、一人出版社3社が集まってできたシリーズで、ある人が愛好してきたものに対しての遍歴を描いたエッセイシリーズだ。現在まで52巻刊行されており、日本では現在「とにかく、トッポギ」が刊行されている。
このシリーズの妙味はその著者がどの視点で物事を見ているかということだと思う。どんな職業を持っていても、その職業を通して得た経験(もしくは個人の経験)から対象物に接近していく方法が毎回新鮮で気づきを与えてくれる。
『아무튼 서재(とにかく、書斎)』の著者キム・ユングァン(김윤관)さんは「大工」というキーワードから「書斎」という空間を紐解いていく。著者の職業は大工で、主に家具の製作を生業にしている。
例えばこうだ。(以下抜粋)
それまで自分の部屋を構成するために家具屋をはしごして、うんうんと悩んでいたが一回も使っている木材を気にしたことはなかった。もちろんホワイトオークなんて天然の木材そのまま使った机など予算に収まるわけがなく、最初から除外していたからでもあると思うが例え100万円予算があってもきっと同じことだっただろう。「机」「椅子」「本棚」同じ物体を目の前にしているはずなのに見ているものの違いの大きさに驚き、著者がその視点を得るまでの時間を想像した。
”彼はどうして机と言ったらホワイトオークとまず思い浮かぶようになったんだろうか”
そして、その後その方向を自分に向けた。
”私は書斎をどのように捉えているのだろうか。”
その像を捉えるのに鍵になったのが、川上映美子のPremiumのこの一節だった。
そうだ、私は1人の時間を持って、もっと言えば1人で考える時間を確保する時間が必要だったのだ。十分な広さの机、必要なものがすぐ取り出せること(そして、それが私にとって必要なものに囲まれていること)、座るのが嫌にならない椅子。つまり思索の時間を邪魔しない空間。
日々を過ごす中で通り過ぎてしまった方が楽なような出来事も、自分の言葉で考えて自分の言葉で捉えることができる十分な思索の時間、それを書斎という場所で過ごしたい。
バージニア・ウルフの「女性が小説を書こうとするなら、お金と自分だけの部屋を持たなければならない」という一節は様々なところで引用されているように、自分だけの部屋を持つということは完全に1人の時間を持つこと、そしてその完全に1人の時間でこそ「考える」ということが可能であり、その考える行動こそが”自分である”状態の第一歩だと信じるようになった。
最後にこの本の最後に以下のような文章があったので引用して文を終わろうと思う。
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