原書感想文⑤「かっこよければ、みんなオンニ」(멋있으면 다 언니)
「멋있으면 다 언니(かっこよければ、みんなオンニ)」は「女ふたりで暮らしています」の著者、ファンソヌ(황선우)さんが様々な分野で独歩的な活躍を見せる9名のインタビューをまとめた一冊だ。
「文明特急(문명특급)」の司会、ジェジェ(재재)
映画「はちどり」の監督、キムボラ(김보라)
日本でも翻訳された日刊イスラの発行人、作家イ・スラ(이슬아)、犯罪心理学者、イ・スジョン(이수정)、その他にも「Korea Grandma」のPD キム・ユラ(김유라)、ピアニストのソン・ヨルム(손열음)、バリスタのチョン・ジュヨン(전주연)、ウェブ小説作家ジャヤ(자야)、国会議員チャン・へヨン(장혜영)など、日本でも知られている顔ぶれも含め職業も年齢も多種多様な9人のインタビュアーたち。
彼女たちの共通点は「若い女性に対して閃きと参考になる話を聞かせて欲しい」という提案の言葉に動かされた人たちだ(多分、あくまで著者の推測に過ぎない)しかしその言葉が妙に説得力があるのは本書に登場するインタビューアー皆、女性に力を与えてきた人たちだからかもしれない。
連帯として「オンニ(언니)」
「かっこよければみんなオンニ(멋있으면 다 언니) 」という本のタイトルにあるオンニという言葉は女性が年上の女性に対して使う呼称で女性同士の連帯、親しみやすさという言葉を表す言葉だ。
オンニ(언니)という呼称は韓国の厳格な年齢秩序を表す言葉でもあるため、年齢による厳しい序列を固定化してしまう側面も強い。その点に問題意識を持ってる友人に「オンニ(언니)」と呼ぼうとした時に一度拒否されたことがある。彼女は韓国社会で生きてきてオンニ(언니)という言葉が年齢を固定してしまう文脈を数万回と体験しているために出てきた言葉だった。このような側面がある言葉だが、結果的にオンニ(언니)という言葉を女性の連帯の意味としても使われている場面を昨今の映像作品等でよく目にする。
本書の「オンニ(언니)」は、ただ歳上を呼ぶ呼称の「オンニ(언니)ではなく、連帯するというニュアンスに基づいてそれを押し出した一冊に近いと思う。
多様な分野で独歩的な活躍を見せる彼女たちの叙事をインタビューを通して読むことで彼女たちの言葉を通して私たちに届く。私たちはその言葉を得て私たちの日々の叙事を紡いでいく。
インタビューを読むこと
インタビューを読むことにそんな魅力を感じてきたが、著者は以下のように述べている。
最近本を読む時に、表紙を開いて、読み終わったところがゴール点ではなく、気になった部分に線を引き、読み終わったら線を引いた部分をノートにもう一度書いて記録するまで行うという習慣を育てているところだ。
もう一度線を引いた部分を集めて振り返ると毎回思うことが自分のその時の生活状況、思った感情、置かれた境遇が反映されているということだ。当たり前と言えば当たり前なのだが、毎回、毎回同じように統一的に同じ感情が生じるため感嘆の域まで達していたところにこの文章に出会った。
この本もその原則に従って下線を引いた部分をノートに書き写した。それをを見直してみると目下の不安、悩み、考えがそのまま目の前に差し出されたようだった。不思議と目に入ったのは今をときめく業界で一目置かれている人が、今の場所を見つける前の部分だった。
インタビューを受ける人は何者かになったという保証をされたことと同義のように思えるからだ。事実、この本に出てくる人は独歩的な成果を上げてラブコールが絶えない人たちで、私でも見る機会が多い「よく知られている」人たちだ。
しかし、「今とても堂々とした存在感を放つ誰かも今まで安定的できちんと一歩一歩踏み固めてきただけではないという当たり前の事実を忘れてしまう。」
(지금 아주 단단한 존재감을 갖고 있는 누군가의 지난날도 안정적으로 탄탄하게 다져져온 것만은 아니라는 당연한 사실을 잊게 된다“ 本書p440,l2-l4より引用)
自分ではどう解決しようもない立場だけど。頭ではわかっていても。頭を支配をする「不安」が頭の中を走り回り何もできずにただ座り込んでしまうとき。
どうしても取れない漠然としたどすっとしたものを心を支配されてしまっていたときに飛び込んできて、急いで鉛筆をカバンから出して線を引いた。
こういう言葉の効能は一生は続かず、必ず色褪せるものだと思っていても、それでも今を踏み出す一歩の力になる。少なくともそこからこの文句に出会い、この文章を完成させるまで走らせる力を与えてくれた。