トップガンマーヴェリックの謎を解け‼ #13
第4章 最終章
4.1 Talk to me GooseはTalk to me Goose
劇中の印象的なセリフに“Talk to me Goose”がありますよね。
「グースどうすりゃいい?」とか、「やるぞグース」とか時々によって訳が異なっていたり、同じシーンでも字幕と吹替で訳が違ってたりしますので、ネット上でもこれに関する議論を結構見かけます。
私は亡くなったグースに向かって言っているので初めは“talk” にスピリチュアルな意味があるんじゃないかと、辞書で調べたのですが、talkはどこで切っても、表から見ても裏から見ても ”話す。会話する“ これ以外ないですね。どうにもない。
でもあるとき気づいたんです。トップガン'86では“生きている”グースにTalk to me Goose.と言っているし、トップガンマーヴェリックでは実はボブがTalk to me BOBって何回も言われている。フェニックスからだけでなくて、別の機体に乗っているコヨーテからも。
フェニックスは作戦の経過時間を知りたいので、訳は「時間は?ボブ」、コヨーテはマーベリックの位置が知りたいので、Talk to me BoB, Where is he?で「どこに行った?」 ”Talk to me BOB. には意訳すらなし。
と状況に応じて意味が変わります。
というか軍隊で報告を求めたり状況を確認するための呼びかけで良く使われる言葉らしいです。したがって軍隊での日常の言葉であって、特別な意味はないと思われます。
死者であるグースに軍隊で日常使う掛け声をかけるというのは、特定の意味があるというよりは、心が整理されていない、吹っ切れていないということなのではないかと思います。
どういうことかわかりにくいと言うのであれば、サザエさんで考えましょう。
磯野波平は日ごろ奥方であるフネさんに、『かあさん、お茶!』とよく言っていますが、仮に波平がフネに先立たれたとして、少し薄暗い部屋のちゃぶ台にすわって、一人『かあさん、お茶…』とつぶやくシーンがあったとすると、これを全米で公開するときに“Hey Fune、green Tea、Please”(時代を反映してPleaseを付けときました)と訳すでしょうか?
おそらく“Fune…”で十分なのでは?これは故人の面影を心中で引きずっているということだと思います。
心の整理がつけば、『かあさん、お茶…』とつぶやくことはもうなくなり、心の中の磯野フネに話しかけるにしても、『かあさん、カツオがもう大学に入学したぞ、花沢さんから逃れるために関西の大学なのだが』とかになるのだと思います。
したがってTalk to me Gooseは ”Talk to me Goose”であり、どのような訳が適しているというよりは、Gooseが死んだことに心の整理がついていないということなのではないかと思います。
4.2 マーベリックにとってのWorkとは(マーベリックの章)
そういえばトップガンマーヴェリックの終盤のシーンで、びっくりしたマーベリックのセリフがありました。
F-14に乗った後、UHF-2のブレーカーについてもっと詳しく教えてくれというルースターに、「それは親父さんに聞け」とさらっと言うんですが、えっ!それ言っちゃうの?という感じです。
でもルースターも、もうこだわりはなかったようです。
2人ともどこで過去を水に流したのでしょうか?
この考察も終章まで来ており、今更言うのもなんですが、この映画は演出が独特で次のシーンのセリフが早めに流れたり、シーンのつなぎ部で多少時間的に前後させる入れ替えがあったりします。
作戦説明と実際の訓練の映像が交互に映ったりするところなんかそうですよね。テンポの良さにもつながっていますが、少し混乱するところもあります。
空母が出動したあとすぐに、空母のデッキでマーベリックがTalk to me Gooseと呟き、その後で自分のウイングマンにルースターを選ぶシーンになるのですが、服装等をよく見るとおそらく二つのシーンは時間が前後しており、Talk to me Gooseのシーンのほうが、ウイングマンにルースターを選んだ後であって、出撃直前に飛行甲板に上がる場面だと思われます。
このことから、ルースターをウイングマンに選んでからもマーベリックの迷いは消えていないというかグースの事故(大切な人を失う恐怖)を引きづっていることがわかります。
その後、飛行甲板でのダガーズ出撃準備中にルースターがマーベリックに話かけようとするのですが、マーベリックは「帰って話そう」というんですね。無事帰還することが当たり前のように。
しかしマーベリックは自分の飛行機に乗ってからホンドーさんに、”もう会えないかもしれない”ということで、世話になったと言うわけです。しかもその前に例の“好きじゃない顔”をして。
これはおそらく自分の命に代えてもルースターを守る、とか考えていたのではないでしょうか?
マーベリックにとってはルースターから話しかけられたことで、ミッションの成功どころか、出撃すらしないうちに彼の“Work”は完了し、グースについても吹っ切れていたのでしょう。
マーベリックの“Work”はアイスマンと同じく、“ミッションでルースターを一人前にすること“ であっても、同時にそれは家族(同然の人)との絆を取り戻すことだったのだと思います。
―――17回目鑑賞での発見にもとづく加筆――――
一方でルースターはいつマーベリックへのわだかまりを“水に流した”のでしょうか?
ミッションでマーベリックが自分を認めてウイングマンに選んでくれたから?
最後の最後まで私もそう思っていました。でもそんなことを言うと、ルースターがアムロだったらきっと『僕はそんなに安っぽい人間ですか?』と言った事でしょう。
最後に命を懸けて、いや命を捨てる覚悟でマーベリックを助けに戻ったルースターですから、どうもそんなに簡単なことではなさそうです。
ルースターの態度がわずかに変わったと推定されるのはマーベリックの2分15秒爆撃への挑戦のシーンです。
シンプソンさんを除いてトップガンパイロットメンバーは俄然色めき立ち、お手並み拝見とばかりの見物気分ですが、ルースターは無言でなにやら心配そうな顔をしています。
そして爆撃が見事成功すると、みんなヤッターと沸き立っているのに、ルースターは微妙な表情。
この表情はおそらく、教本にしたがって考えるとマーベリックの言う事は絶対に成功しない下策と思っていたのに、教本通りでなく閃きで飛ぶマーベリックが満足に練習してもいないのにこれを成功させたことで、自分の考えが間違っていたと悟った表情ではないかと思います。
思えば、一番最初にトップガンパイロットとマーベリックが顔合わせするシーンで、マーベリックはF-18戦技マニュアルをゴミ箱に捨てるのですが、その時のウォーロックとシンプソンが苦虫をかみつぶした表情で目線を合せ、ホンドーが『始まった』というシーンが面白過ぎて、そしてその後のハチャメチャドッグファイトの迫力に度肝を抜かれることで、その本当の意味について、それ以上思考が進んでいなかったようです。
改めて考え直してみるとこのシーンは2分15秒爆撃成功シーンへの伏線でもあると思えます。
5000フィートの最低下限高度が重力のごとく普遍の法律であるとされている軍において、100フィート以下の高度で狭い渓谷を660ノット抜けていくなんて、絶対に戦技マニュアルに、片鱗たりとも書かれているとは思えません。
単位がフィートやノットで感覚的にわかりにくいですが、30m以下の高度で、時速1222km/s(=約マッハ1)で飛ぶということですから、戦技マニュアルに書かれていないどころか、もし戦技マニュアル編集部へ問合せしたら「絶対にやってはいけません。」という答えが返ってくるはず。
シンプソンがこの作戦に対して乗り気ではなかったのも宜(むべ)なるかな、ですよ。
それをわかってあえてこの作戦をトップガンパイロットにやらせるためにマーベリックは一番最初にマニュアルを捨てるパフォーマンスを見せたのでしょうが、ルースターにとってはそれ以上のインパクトがあります。
マーベリックは若い時からマニュアル通りに操縦しないことは誰でも知っており、それでトップガン教官も2か月でクビになったのですが、ルースターは父親の事故死は普段のマーベリックの無謀な操縦が原因ではないと頭ではわかっていてもどうしても、教範に背くことに嫌悪感や恐怖感をもっていたのだと思います。
それが目の前でマニュアルを捨てたのですから、たとえ願書の事がなくても反抗的な気持ちになるに違いありません。
マーベリックはそんなルースターの気持ちには気づいていませんでしたが、マーベリック自身が、この作戦は可能であることを身をもって示したことで、ルースターの考えを改めるきっかけになったのです。
ではこのときに願書を破棄された恨みも捨てたのでしょうか?それではマーベリックが2分15秒を成功させる前の、挑戦開始の時の心配そうな顔は説明がつきませんね。
とはいえ、その前にあるエピソードとしては、フェニックス機のバードストライクをきっかけとする”マーベリックとの口論”と”アイスマンの死”だけですし、口論でいままで言えなかった願書のことについて、マーベリックを問い詰めてスッキリしたということでもなさそうです。
一番納得できる答えは、肩透かしをするようですが、“最初からマーベリックを恨んではいなかった”ということではないでしょうか?
フェニックスにマーベリックに願書を破られたことを話した時、「何で?」と問うフェニックスに対して、ルースターは無言です。
あのときのルースターの顔は、マーベリックも母親同様自分の身を案じていることには薄々気づいていながら、それを言うのは自分が子供みたいで恥ずかしいという表情に見えなくもありません。
父親代わりになろうとしてきたマーベリックのことはルースターもちゃんとわかっており、願書のことについても息子が偉大な父親に対して持つ反抗のようなものだと私は思いたいのです。
結局ルースターは、マーベリックが自分の身を危険に晒してまで、最適な作戦パラメータを死守しようとしたことでマーベリックを認め、マーベリックはミッションメンバーに選ぶことでルースターを認めることができたため、この親子間の通過儀礼のようなものは解消したのではないかと思いますが、ルースターをミッションメンバーに選ばなくとも、(少し和解は遅れるでしょうが)マーベリックが心配したように、”ルースターを永遠に失う”ということは無かったのだろうとなんとなく感じています。
もしかしてアイスマンもそれをわかっていたのかな?
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結局ミッションではマーベリックとルースターがお互いに命を救い合ったことで、無事全員が生還できました。
マーベリックはあの砂漠のガレージで気ままに過ごす日々に戻りましたが、今度は写真の中のグースやルースターと過ごすだけではなさそうです。
傍らにはP51Dムスタングを一緒に修理する息子同然のルースターがいるからです。
いつまでルースターといっしょに過ごすのかはわかりませんが、今後マーベリックが心の中に住むグースに話かけることがあったとしても、Talk to me Goose.ではないのだと思います。おそらくこんなんじゃないかな?
『グース、ルースターが髭を剃ったよ。実はフェニックスは髭面が好きじゃなかったんだそうだ』。