映画「ダークナイト ライジング」-ユング心理学の視点から
香港のカウンセラー、チン とクリストファー ノーラン監督のバットマン三部作の最終章「ダークナイト ライジング」についてユング心理学の視点から対談しました。
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今回の対談は、
#チンさんが映画をどのように体験し、
#過去の自分の人生経験と行動パターンをどのようにより深く理解したのか、
という話題からはじまり、
#ブルースウェインが心理的にどのように変容していき、行動に変化が生まれたか、
という事について話しています。
項目
1.映画のストーリーライン、キャラクターに自分を見つけ感情を掘り下げる効用
2.過去のトラウマの繰り返し
3.変容のきっかけ
4.Egoの成長
5.親としてのアイデンティティー
6.バットマンとしてではない旅の始まり
7.私たち自身の物語を作る,見つける、知る意味
映画のストーリーライン、キャラクターに自分を見つけ感情を掘り下げる効用
映画の登場人物を特定し、強い感情的な反応を示す自分を見つめてみると、過去の自分に何が起こったのかを視覚化することができます。誰もが日常生活の中で困難に直面しますが、多くの場合、私たちは自分がどれほどトラウマを抱えているかに気づいていません。さらに言うと、私たちは、過去の困難な経験の後、同じ有害な力学/状況や関係を無意識のうちに何度も自ら再現していることに気づいていないことがとても多いです。
強調したいのは、自分たちが繰り返し、事象的な経験をしている、と言うことに気づいていないということです。つらい感情は私たちの精神の無意識の層に押しやられます。これは正当で時にとても有効な防御メカニズムですが、残念ながら、この戦略は長期的な観点からは機能しません。神経を麻痺させ、目が見えなくさせ、耳が聞こえなくなった状態で、殴られたり、引き裂かれたりしても、痛みを感じません。ですから、心が死にそうになっていても、その状態を続けることができるのです。
過去のトラウマの繰り返し
ブルースは、子供の頃に目の前で両親が殺され、怒り、と同時に両親を守れなかった、という無力感を体験したことで生じた心理的構造が、その後の彼の思考、行動パターンに大きな影響を与え続けてきました。大人になったブルースは、地位も影響力も実力も経験実績もあるのに、元彼女を救えなかったこと、自分が思ったように街を救えなかった経験がトリガーとなり、気力を失い、家に引きこもり、社会との関わりを断ちます。
両親を無くした直後の、”無力な子ども”の心理状態が彼を支配している状態です。それはあたかも、当時聞こえてきた内なる自己批判的な声が、数十年の時を超えて聞こえ続けている状態です。子どもの頃から図とサポーティブでありメンター的な関係性である執事のアルフレッドの支えや励ましでは、彼の心理状態は変化しません。
変容のきっかけ
ブルースを長い長い引きこもり生活から脱出させたのは、キャットウーマンとの出会いでした。彼女は彼が開催したパーティーにウエイターとして忍び込み(彼の心の領域に入り込み)、さらに、彼にとって大事なもの母親の形見のパールのネックレス(彼がセキュリティーボックスに入れて完全な闇に放り去った彼の一部を象徴するもの)を日の当たる所に持ち出します。一度外に出たパール(自分の繊細な側面、ソフトな側面、)を取り戻したい、キャットウーマン(彼のAnima、彼の内面に存在する女性的側面が投影された対象)についてもっと知りたい(自分の中の知らない自分を、彼のEgoはもっと知りたい)と思い、導かれるように、彼女の事を調べ、追いかけ、と行動の変容が始ま理、再びバットマンのスーツを着るに至ります。
この、いてもたってもいられなくなる、その感情体験こそがブルースを再び呼吸させ始め、闇から抜け出させたのです。
Egoの成長
街を救うプロジェクトのクライマックスで、キャットウーマンは、私と一緒にトンネルを破壊して、向こうに抜けて、この街を離れましょう、と誘います。それをバットマンは、まだやることがあるから一緒にはいけない、と断ります。それは、その厳しい状況下ではキャットウーマンにとって、街とともに心中する、と言っているにも等しいセリフでした。キャットウーマンは、Save yourself と言って、走り去ります。
この会話が示すのは、ブルースは、このプロジェクトを生きてやりきるんだ、というEgo、強い意志、自信が育ったのだ、という事を象徴しているともいえます。無意識のメッセージとしては、今は行けない、だけど、See you later、また全てが終わってから会おう、と言っている、ともとれます。
Egoの概念:例えるなら、車輪、です。どんなに素晴らしいアイデアや方法を持っていても、実行して最後までやり切る力が必要です。物事を進めていく過程で、道に障害物があっても、悪天候があっても、乗り越える、諦めない、自分を信じ続け、やりぬく方法を模索し続け、ゴールまで走り切る, 車輪を動かし続け走り切る要素です。
親としてのアイデンティティー
ブルースの過去の慈善活動で自分は救われた、という元々孤児であるジョセフという、バットマンに憧れる若い警官とのやりとりが、ブルースが自己肯定感を再び取り戻すきっかけを作ります。ブルースも両親を失ったことで孤児のような状態でした。実親以外の誰かに愛され、志を持つ大人に成長したブルースそのものをジョセフの成長の過程で象徴的に示します。過去に自分が植えた種(慈善活動=自分の一部)が花開いていることを、ジョセフの姿を通じて見ることで、ブルースは自分の価値を再確認し、自分をTrustし始めます。
同時に、かつて孤児だったジョセフは、ブルースが間接的に親がわりでした。言い換えれば、ジョセフとの会話を通して、ブルースは、自分自身が自分の保護者、親であったのだと気づきます。ジョセフの成長を嬉しく頼もしく思う親心も体験します。
バットマンとしてではない旅の始まり
Cityのことはジョセフが象徴するものに任せる、Let it goすることで、バットマンとしての仮面を永久に脱ぐことが可能になります。この時ジョセフが象徴するものは、自分の若い時のトラウマと、そこからのヒーリングです。
また、Cat womanという自分自身の女性性との象徴の発見とUnionは、ブルースを一人の人間として陥没していた要素を埋め、(例えるなが、ボコボコな形の車輪が綺麗な円になる様子)、新しい生き方が始まるのです。
終わりに
私たち自身の物語を作る,見つける、知る意味
神話、小説、映画、などの中に自身の物語を見つけることは、個人の成長、立ち直り、人生における意味などを実感し気づく大きな助けになります。
主人公の旅の原型には、多くの場合、課題に直面し、変容を遂げ、より強く賢くなっていく主人公が含まれます。このレンズを通して自分自身の人生を見ると、自分自身の成長、課題、変化をより有意義な方法で理解するのに役立ちます。
自分の人生、今の状態を物語の中に見出すと、自分の経験に目的とや意味が見えてくることがあります。自分を主人公の旅の枠組みにマッピングすることで、無意識にある感情に気づき、それらから自由になるきっかけをもくこともあるでしょう。
文化や時代、地位、価値観の違う人たちを超えて共有されている物語の中に自分自身を見出すことで、同じテーマを抱える他の人々とのつながりも生まれます。他者との共感や連帯感が築かれることで、自分の物語を作っていく肯定感、後押しを自分の中に見出すことができるのです。
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