ナボコフ 詩抄 (19) Translated by Toshiya Kawamitsu
おもちゃ箱
わたしの旅は 夜行性
船も 電車も いらなくて
盤上 月は かがやいて
チェックメイトと かたむいて
窓をあけたら 静寂で
静謐 いつもの トムキャット
フェンスを 飛んで 校庭へ
わたしも 国境 小川 こえ
わたしの影は 小川 こえ
土手にかかって 知らん顔
壁も つづいて 影 すべる
ふしぎで 不死身で 無重力
過去の わたしに 防人の
カラシニコフの 弾 はずれ
横切る 草原 踊る 影
こんなに ひろい国にいて
ひとりの 命 ひとりの 死
しあわせなこと 誰が 知る
岸壁 そって 川 ゆらぎ
静謐である 歩行者は
さみしい四角のなかにある
わたしの影を 踏みしめて
自分の夢を しいたげて
わたしの知らない建物が
だけど わたしは知っていて
暗い部屋では 姿 変え
すべてのものが 姿 変え
わたしの影を こまらせた
眠れ やすらか 子供たち
まくらの上で 身を かがめ
のぞきこむ 夢 おもちゃ箱
わたしが遊んだ 船 電車
(Untitled)
Translated by Toshiya Kawamitsu
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