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【ネタバレ感想】『光る君へ』第39回「とだえぬ絆」

人様の感想を拝見していると、自分とはちがう見方や、見落としていたポイントを発見して、時間が経って理解が深まる新たな楽しみがありますね。

前回のサブタイトル「まぶしい闇」のことを、「ベストセラーとなって輝く『源氏の物語』がもたらす闇のこと」と読み解いている感想を読んで、おおなるほど! と思いました。

私は漠然と「光が濃くなるほど闇も強くなる」「成功したがゆえに闇深くなった道長」のように、光と闇の対比でとらえていたのですが、確かにしっくりきます。


フィクションがリアルに及ぼす闇

ベストセラーとなって輝く『源氏の物語』がもたらす闇」が前回のテーマだったと考えると、描かれたドラマも、よりくっきりしてきます。

ききょう「私は腹を立てておりますのよ、まひろ様に! 源氏の物語を恨んでおりますの」

第38回「まぶしき闇」

ききょうの恨みは『源氏の物語』という作品に向かっている。
これは、作品を生み出したまひろにとって、自分が恨まれるより強烈だったかもしれません。

また、『源氏の物語』で光る君が藤壺を慕う話から、道長は彰子を慕う敦康親王を見て、二人の関係を懸念します。

これも、フィクションが現実に悪い影響を及ぼしているエピソードともとれます。

それが、今回(39回)のまひろの表情に表れていました。

道長「敦康様は、お前の物語にかぶれすぎておられる」
まひろ「は?」
道長「中宮様のお手を取って、もはや危うい。光る君のまねなぞされては一大事である」
まひろ「……つまらぬことを……」
道長「つまらぬことであろうか?」

ここの、終始「何を言ってるんだこの人は……」というまひろの呆れ顔がおもしろかったです。

まひろは作品を書いた本人ですから、『源氏の物語』が自分の想像、妄想、空想の産物だということを、誰よりよくわかっている。
道長が真顔で言うのに、あきれたでしょう。

笑い話で済めばいいのですが、フィクションに慣れない人ほど、フィクションを本当の話のように思って誤解することは、現実にもしばしばあるので、怖いところでもあります。
道長は敦康親王への圧迫をここから本格的にしていくことになりそうです。『源氏の物語』がきっかけの一端を担っているというのは怖い話でもありますね。

弟・惟規との突然の別れ

ドラマで「●●ロス」なんてあまり感じたことなかったのですが、今回の弟・藤原惟規(これのり 演:高杉真宙)の死はガンときました。

予告である程度覚悟していたはずなのに、見終わったあとからじわじわきましたね。

その前の、家族での幸せシーンや姉弟の語り合いなどからあのラストに続く流れがうますぎました。制作陣の手のひらの上で踊っています。

惟規が「従五位下(じゅごいのげ)」になったことに対するいとの喜びようといったら。
このような日に備えて、惟規のために、赤い束帯を用意していたとのこと。
乳母(めのと)としてずっと仕えて育てあげてきた惟規への愛と、「必ず出世して大成するはず」と信じていたことを、ひしひしと感じます。

そんないとが惟規の死を知らされて、全身で号泣。悲しみが切々と胸にせまり、観ていて涙ぐみそうになりました。

なんで子どもが親や乳母より先に死ぬのか。ひどい。
しかし、史実には勝てません。

惟規の死を悲しむまひろに、賢子が寄り添ってくれたのが、せめてもの慰めでした。まるで惟規が、母娘の仲をつないでくれたようです。
サブタイトルの「とだえぬ絆」は、ここにかかっていたのかな……と思いました。

いつもまひろと現代のホームドラマのように、砕けた口調で遠慮なく話をする惟規。
夜の池のほとりで、昔のこと、これからのことを話す姉弟の語らいに、しみじみしました。

惟規「親子って、変わらないようで変わるんだなあ」
まひろ「賢子と私の仲もいずれよくなるってこと?」
惟規「たぶんね。だって賢子の母上は姉上だけなのだから。(中略)きっと、みんなうまくいくよ」
まひろ「何それ?」
惟規「よくわからないけど、そんな気がする」
まひろ「調子のいいことばっかり言って……」

第39回「とだえぬ絆」

姉弟のこの調子の会話がいつもあったから、私たちは、雅な口調で彰子や天皇と会話し、漢詩を読み、和歌を読み、道長に「好き! 行かないで!」なんて言わないまひろの心情を、現代に生きる私たちと同じ生き生きとした女性として感じることができたんだよなあ……なんて思います。

その惟規が退場して、もうあんなざっくばらんな会話が聞けないことに、寂しい喪失感を感じます。

「姉と弟」の絆

思えばこのドラマには、くりかえし「姉と弟」が登場してるんですよね。

定子と伊周も姉と弟でした。
伊周が死の間際に思い出したのは、定子の声。
「皇子を産め!」なんて鬼の表情で迫ったり、かなり定子を悩ませてくれた弟でしたが、その中には姉弟の情も確かにあった。
そんな悲しさを感じさせる、伊周の最期でした。

そういえば、詮子(演:吉田羊)と道長も「姉と弟」でした。
詮子は、ぼーっとして野心のない弟の三郎を認め、信頼していましたね。
家のためならなんでもする父親の藤原兼家(演:段田安則)に反発する詮子にとって、道長は信頼できる家族であり、頼れる相談相手でしたっけ。

忘れそうになるけれど、一条天皇は道長にとって、姉の詮子の一人息子。
定子や伊周は、兄の道隆(演:井浦新)の子どもたち。
敦康親王(演:片岡千之助)は、甥と姪の間に生まれた子。

みんな血縁の親戚同士なのに、親戚同士だからこそ、自分の子を守るためには追い落とさねばならなくなる。
なんともシビアで、悲しく、おそろしいことです。

賢子の出生の秘密はいつまで伏せられる?

今回から大きい役者さんに、賢子(演:南沙良)と敦康親王(演:片岡千之助)が変わりました。
あっちもこっちも成長著しくてびっくりします。

賢子は心の準備ができていたけれど、それでも大きい娘に「母上と同じ道を行きたくはございませぬ」とそっけなく言われると、ドキッとしますよね。

敦康親王は……ごめんなさい、アウトでした(笑)。
こんな大きい男の子(?)が藤壺で中宮と一緒に暮らすなんて、見つめあって手を握ってるなんて、道長でなくてもアウトですよ!
おかげで、道長の不安にもちょっと説得力がありました。

しかし道長は、自分の娘の彰子のことはあれこれ心配するのに、一方で賢子の出生のことはいまだにまったく気づいていない様子です。

亡くなる前に惟規が最後の仕事に、父親の藤原為時(演:岸谷五朗)に「賢子の父親が道長であること」をうっかり話して、ダイナマイトを投げ込みました!

為時も呆然としていましたが、まひろと道長が以前つきあっていた、というのと、実は賢子の父親は道長だった、というのでは、問題の大きさが違います。(でもこの時代ならまあまああることなのかな……?)

何より、賢子自身はどう感じるのか。そして、ぎくしゃくしている賢子とまひろの仲はどうなるのか?
いつかは明らかになるのだろうと思いますが、家の中も外も、トラブルが広がる予想しかありません。
このあとの展開で、一番のドキドキポイントですね。

こうした波もある中で、まひろはまだ『源氏の物語』を書きつづけています。作家のドラマとしては、書き終えたらどうなるのか? はひとつの見どころとして楽しみにしています。

次回のタイトルが「君を置きて」なんですが、さらに別れの予感がする内容にしんみりしてしまいます。
大河ドラマの終盤は、別れや退場が多くて、寂しくなっちゃいますね。
つづく!

 


STAFF・CAST

『光る君へ』(2024年)NHK 大河ドラマ
脚本/大石静
音楽/冬野ユミ
ナレーター /伊東敏恵
出演/ 吉高由里子、柄本佑

STORY

大河ドラマ「光る君へ」(2024年)。主人公は紫式部(吉高由里子)。 平安時代に、千年の時を超えるベストセラー『源氏物語』を書き上げた女性。彼女は藤原道長(柄本佑)への思い、そして秘めた情熱とたぐいまれな想像力で、光源氏=光る君のストーリーを紡いでゆく。変わりゆく世を、変わらぬ愛を胸に懸命に生きた女性の物語。(NHK公式サイトより)

大河ドラマ「光る君へ」 - NHK 


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