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「人生が変わるくらい苦労する」という占いが当たった話
あなたにとっての「人生の転機」はいつでしたか?
人生という物語があるとして、大きな変化をもたらす「転機」は、そのときその場ではわからないものです。
あとになってから「あのときの、あの出会い、あの出来事が転機だったんだ」とふりかえるものでしょう。
だって、大きな変化の渦中にいるときは、なかなか客観的になんてなれません。必死にもがきながら、道を探したり、藁をつかんだり、ただただ目の前のことに向き合ったりするばかりです。
そうやってやっと落ち着いてからふりかえると、未来はいつだって、想像していない方向に行くものではないでしょうか?
「#想像していなかった未来」という投稿コンテストのお題を見て、私の失敗した就職のことを思い出しました。
大学を卒業した私は、安定を求めて公務員の道を選びました。「公務員なら、給料が安くても、安定して長く働ける」。そう信じていたのです。
時代はバブルの末期で、男女雇用機会均等法が成立してまだ数年目。
給料が安いので、
「稼ぎたいなら公務員にはなるな」
「一般企業に行った友人と、給料の話は絶対しちゃダメだよ」
なんて言われていた頃でした。
ところが、研修が終わって働きはじめてすぐ、私は現実に直面しました。
「この仕事は自分に合わない。定年まであと30年、こんな仕事を続けるなんて自分には無理だ」
何よりも自分自身の心の「安定」が危うくなったのは、意外なことでした。
事務仕事が苦手で、「組織はこうだから」「仕事はこういうものだから」も苦痛で、自分がやっていることに興味も意義も感じられない。
「仕事はそこそこで趣味を充実させたい」と思っていたのに、虚無の時間のダメージが、夜になっても週末になっても心身から抜けない。
まるでゾンビのように青白い顔をして、ふらふらと通勤していました。
やればできる、がんばればできる、と思っていた。でも、そうじゃなかった。
学生時代に、自分の未来や就職、自分が一生やる仕事のことを、本気で考えぬかなかったツケが回ってきたんですね。
そんなふうにひどく弱っていたころに、街の占いコーナーに立ち寄ったことがあります。
占い代の数千円は、当時の私には思いきった無駄づかいに思えました。数千円あればCDが1枚買える。それをポンと出しちゃっていいの? と思い悩みました。
それでも何か、言葉を聞きたかった。
「今、仕事で苦労しています。自分には合わないのではないかと思うんです。この先の私がどうなるか、占ってください」
そんなことを言ったと思います。
どんな占いだったかなあ? 占星術? 四柱推命? タロット? それすらも覚えていません。
占ってくれた占い師は、うーん……と考えてから、重々しくこう言いました。
「あなたはこの先、人生が変わるくらい苦労するね」
えーっ!? と思いました。
何か救いになるような、これからがんばれるヒントになるような、なんでもいいから「いい言葉」を聞きたかったのに。
その言葉は、ちょっとないんじゃないですか……!?
「そうか……今もしんどいのに、まだこの先そんなに苦労するんだ……」
本当に、夢も希望もない。
ガックリして、そのほか何を言われたのかほとんど覚えていません。
ところが、転機は思わぬところで訪れます。
仕事で取材の現場に立ち会う機会がありました。
そこにやってきたのが、取材ライターさんです。
ちょっと年上の、30代ぐらいの女性の方でした。
にこやかに場をとり仕切り、取材相手から話を引き出し、いい雰囲気で取材を終え、「原稿は書き上げたら送りますので」と去っていきました。
「いいなあ。かっこいい。あんな仕事があるんだ。あれをやりたい!」
ゾンビだった私の中に、ひらめきがありました。
まず、限られた時間ですが取材の場を任されているのがすごい、立派だと感じました。彼女はとても立派で、「プロ」に見えました。
話を聞いて、書いてまとめるという作業も、魅力的に感じました。
それから、こうして無から「インタビュー記事」が出来上がり、形になって残るんだということを知りました。
(世の印刷物は、すべてこうやって、「誰か」が書いてできあがってるんだ……!)
この「形にする仕事」を自分の手と頭でやってみたいと、心の底から思ったんです。
それは、長い間眠っていた創造性が目覚めたような感覚でした。
そう、私は決まったことを決まったとおり言われたとおりにやるよりも、自分であれこれ考えて作ったりかたちにするのが好きで、楽しいんだ。
そういうことを仕事にしてもいいんだ……!
その後、「せめて3年は」とがんばってから公務員をやめた私は、出版社に就職した先輩に相談し、アルバイトからスタートして雑誌のフリーライターになりました。
まさにあの時のライターさんのように、私は取材して、インタビューして、雑誌記事にまとめる仕事をたくさんたくさんすることができました。
あるとき、ずっと忘れていた「占い」のことを思い出しました。
「あなたはこの先、人生が変わるくらい苦労するね」
……確かに!
私は思わず笑っていました。
まちがいなく、苦労した挙句に「人生は変わっていた」のです。
なあんだ。
人生が変わるって、悪いことじゃないね。
たとえば大谷翔平みたいに、若いころから自分の目標を持って、大きな山に一歩一歩、しっかりと登っていく人もいる。
それとは別に、小さなせせらぎから始まって大河を流れくだるように、いろんな流れにもまれながら、広い地域を旅して遠い海までたどりつく人もいる。
私は、まちがいなく後者の、流れに流されていくタイプです。
何事もなければ、滝に落ちたり遠くまで流されたりするけれど。
「しまった、このままじゃいけない」と思ったら、そのポイントでだけはがんばないといけません。
時間をかけて、自分の向き不向き、幸せ不幸せ、価値観も知ってきたし、年を重ねると若い頃とはまた変わってきたりもします。
なんだかまた仕事の転機が来る予感がありますが、また新しいことに出会えるはず。まだ想像できていない未来を、「よし、こい!」と待つことにしたいと思います。