三方の小品【17:お酒】
〇〇に入るキーワードは、配信中にスターとコメントのキリバンを取っていただいたリスナーさんにリクエストしていただきました。
鎌倉屋トルテという少女の思い出や、頭の中に触れていきませんか。
お酒
お酒 (テキスト版)
内容は上の画像と同じです。
しゅぽんと音を立てたのは、カウンター中の棚に置いてあったワインのボトルの栓。棚を見上げれば、大小さまざまなボトルが並ぶ様は圧巻というところだ。
古くより扱っているものから、ちょっぴり珍しいものまで。所狭しと並べられているので、カウンターに座る人には目からも楽しんでもらえているといいな、と口元が緩む。
和らな目線をカウンターの上に戻すと、先ほど開けた口から濃厚な葡萄の香りがここまで漂ってきたところだった。慣れた手つきでワイングラスを手に取り、とくとくと注いでみる。
ボトルから飛び出した芳醇な液体は、空気中に瑞々しい香りを散らしながらグラスの曲線に沿って形づいていく。色よし、音よし、香りよし。
ぐるりとグラスを回すとワインの涙が確認できた。ワインの脚や教会の窓とも言われるこの現象。エタノール含有量によって変化が見られる現象であるが、小難しいこと関係なく気に入っている。
シャンパンゴールドの海から無限に湧き上がる小さき泡を観察するのも嫌いではないのだが、ちょっぴりせわしなく感じることもある。それに比べてワインの涙はとっても穏やか。ぼんやりと眺めるにはちょうどいい。
注ぎ終えたワインの口にちょっぴり残った液体を自分用だからと指でひとぬぐい、ぺろりと舐める。それだけでもくらりとしそうなほどアルコールがしっかり効いた重ためのワインに、ふっと息が漏れる。
棚の中には軽くて華やかな種も好んで揃えているものの、自身で楽しもうというときにはこの重厚感を選ぶことが多い。決してぐいぐいと飲み進めることはなく、深呼吸をするかのような、ろうそくの明かりが揺れ動くような、砂時計の砂が永遠に落ち続けるような、そんな愉しみ方を…。はて誰に教わったのか、思い出せないまま。「……。」丁寧にはがしたラベルを今日も無造作にノートへしまい込んだ。
初出:2021年12月22日
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