事業再生における最も大切な経営の三要素とは
1.経営の三要素を事業再生で考える
経営の三要素が「ヒト・モノ・カネ」だとします。どれがもっとも大事かという議論は様々にする事ができますが、事業再生の観点から言うと、間違いなく「カネ」が最重要です。
事業再生におけるカネとはすなわち時間を意味します。事業再生に取り組む会社は、「残された時間が少ない」ということを自覚する必要があります。
2.事業再生における「カネがない」のレベル
事業再生に取り組むくらいですから、カネが無いのは大前提ではあります。事業再生における「カネがない」とは、
・所要運転資金が欠ける
締め・支払の約束が守れない場合がある
仕入業者に支払を待ってもらっている
季節性の赤字を乗り越えられない
(夏が苦手、冬が苦手など、企業特性によりある)
・売上を増やすための仕入れにも事欠く
売上を増やすためには、ある程度在庫しなくてはならないが、
その在庫もできない。
・売上計画のために必要な人員体制を構築することができない
・金融機関へ約定通りの返済ができない
リスケジュールを既に依頼している
金利の支払いにも事欠く
・従業員への給料支払いが遅延している
・社会保険料の支払いを滞納している
・消費税の支払いを滞納している
案件にもよりますが、このような状況が、都度発生したり、慢性的になっていたりします。
認定事業再生士の仕事は、あきらめないことであり、可能性を追求することです。資金があれば、あるなりになければ、無いなりに解決の道筋を模索します。もちろん、上記の状況が複合的に発生していたとしても、事業再生に社長と一緒に挑戦します。
3.カネとはすなわち生存を許される時間
事業再生では、カネの無いレベルによって、企業に残された時間が変わります。
1年先を見通したこと、
半年先を見通したこと、
3ヶ月先を見通したこと、
1ヶ月先を見通したこと、
今月をどう乗り切るか?
このように対応策を切り替えて、条件分けにより対策を講じます。
要するに経営の三要素である「ヒト・モノ・カネ」は、“状況とバランス”により、優先順位や対応策の最適解が変わるということです。どんな状況でも絶対に正しい、絶対に重要という三要素の優劣はないのです。
絶対があると思うと“策士策に溺れる”・“孫子読みの孫子知らず”と言われるような状況に陥り失敗します。このような現象は、己が現在立たされている状況を知らないから起こるのです。
4.平時は大事にしているものも非常時には斬り捨てる
一般的に大切と言われることも、事業再生においてはメスを入れなければ、会社が生き延びられない事があります。
企業文化、雇用慣行、信頼、安全といった、一般に大切にするのが当たり前のものにすら、手を入れる場面があります。
例えば、
「いつでも在庫があるという信頼を見直す」
「いつでも配送してくれるという信頼を見直す」
「安全のために行っていた過剰な保守点検を、法定の範囲にする」
というように、“カネ”の制約上、メスを入れる必要があれば、果断に判断して変えていきます。
これらの「見直し可能な過剰な要素」は、企業の強みであることも多い ので、角を丸めて殺す危険もあります。しかし、生きるか死ぬかの状況であれば、見直さざるをえません。
大事なものを大事にとっておき、未来に備えていても、今を生き延びなくては笑われるだけで、滅びた先には草も生えません。ただ、往々にして、「当たり前」や、「現状維持」といった思考停止が根元にある場合も多いです。
現に、過剰な品質保持は顧客の選択要因になっていないケースも多いです。もしくは、その品質を顧客に伝えるブランディングが足りておらず、事業再生が必要な苦境に陥っているわけです。
簡単に言ってしまうと、平時であれば正しいことも、乱世では正しくないことがあるということです。「カネ」とは、すなわち米びつの中の「米」です。今日食べる米に事欠き、あと何日生きられるか」という命の問題に向き合えば、窮境の中でもチャンスを掴むべく、無駄を省くのは当たり前です。否応無しに決断が必要になります。
みごと再生した後、米びつに米が残されていれば、それをもとに、大いに花を咲かせて反転攻勢を行う事もできます。厳しいときは厳しいなりに、良いときは良いときになりに経営ができているかが大事です。優秀な経営者の決算書は、売上の増減に合わせて経費額が変化し、経費率が一定になっていることが多いです。
しかし中には、非常時の決断に対して平時と変わらない議論のための議論や、平時にしか通用しない「あるべき論」を言う人もいます。それらの空理空論をかざす人は、自らが直面している危機に対して無自覚であり、現状を理解していないだけです。
事業再生に挑む本気の力は、人生の岐路に立つ経営者の本気と事業再生士の経験と知識によって発揮されます。リアリティが運命の分かれ目です。
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