小谷元彦のアーティスト・トーク

小谷元彦展『幽体の知覚』

2011年、静岡県立美術館でこちらを見ました。
アーティスト・トークなる作家による講演も聞きました。
今のところ、私にとっては最初で最後に参加したアーティスト・トークですが、面白かったです。

小谷元彦曰く、「『幽体』という和訳がちょっと・・・気に入らない。」そうで、やはり『Phantom(ファントム)』であって欲しいようでした。
『幽体の知覚』は『Phantom Limb』の和訳だそうです。

以下、私なりに『Phantom Limb』を解釈したものになります。

江戸時代の春画の性器が巨大なのは、性的快楽における身体感覚を視覚化したものである

とは、 坂東 眞砂子のテキスト『狂とセックス』(町田 宗鳳編著『思想の身体―狂の巻』、春秋社 、2006に収録)の中にある一文です。
なるほど、あれは『Phantom-Sex(お化け性器)』というわけです。

男性器を『息子』と呼ぶことがありますが、その感覚を視覚化すると、目鼻と口をつけて喋らせる、という表現になるでしょう。
これも『Phantom-Sex(お化け性器)』の例といえます。

乗り物を運転するときや、楽器を演奏するとき、乗り物や楽器は身体の一部と感じられます。
この感覚を表現(視覚化)すると、『Phantom-Limb(お化け手足)』となります。

バレリーナの身体感覚とは、想像できない、想像を超えているであろうと思われますが、もしバレリーナの身体感覚が視覚化されたのなら、間違いなく『大・化け物』が出現するでしょう。

美術展は、化け物・・・ファントム・・・Phantomだらけでした。

小谷元彦は彫刻家を名乗っており、視覚化=彫刻化ということか、とも思いました。
小谷元彦が、見えないものを見えるものするために選んだ表現方法が、彫刻である、ということかと。

小谷元彦のお姉さまは、幼少よりクラシックバレエを習っていたそうです。
身体管理を含めたバレエ中心の生活を送るお姉さまを間近で見ていて、思うところがあり、それが創作に影響を与えているとのこと。
「あれ(クラシックバレエ)は狂ってる!」と、そこだけ感情を露わにして、言いました。

小谷元彦が、言っちゃいけないことを告白し、聴衆は聞いちゃいけないことを聞いてしまったようで。
会場の色めきを感じました。

「彫刻は、その製作過程で音がある、匂いがある、肌に触れる、筋力を使う、五感全部が総動員される」と小谷元彦が言ったときも、どきっとしました。
音・・・想像しなかったなと。
そして。

目の前に木があり、刃を刺し込み、打つ。
骨格と筋肉から起こる力、反発する木の力。
音。
傷つくことで放たれた木の匂い、分子。
散って頬にあたり、目に飛び込む破片。

そんな想像をしてしまいました。

「製作過程の五感が再現されるような作品を作りたい。」ともおっしゃっていました。
作品の鑑賞ではそう出来ませんでしたが、小谷元彦の話、言葉によっては、ちょっとそう出来たのかな??

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