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映画感想 トランスフォーマー/ビースト覚醒

 ビーストはゲストキャラ。

 『トランスフォーマー/ビースト覚醒』はトランスフォーマーシリーズ7作目。物語の舞台は1994年だから、前作『バンブルビー』の後、第1作目『トランスフォーマー』の前の物語となる。
 監督はスティーヴン・ケイプル・ジュニア。学生時代に制作した短編映画がHBOのショートフィルムコンペティションで受賞し、チャンスを獲得して2016年に長編デビュー作『The Land』を制作。ここで注目されて2018年『クリード 炎の宿敵』の監督。本作は監督第3作目となる。まだ30代の若手映画監督の作品だ。
 制作費は1億9500万ドル。興行収入は4億410万ドル。2023年5月に劇場公開された本作だが、米国とカナダでは1億5170万ドル。シリーズでもっとも低い興行収入だった。ただ本作の舞台となったペルーではヒットし、600万ドルを稼いだ。同じ年には『アベンジャーズ/エンドゲーム』の公開があったが、ペルーでは本作の方がヒットだったらしい。
 映画批評集積サイトRotten tomatoでは批評家によるレビューが235件あり、肯定評価は51%。一般レビューは91%。批評家はけなして、一般層は楽しんだ……エンタメ作品にありがちな傾向になっている。

 では前半のストーリーを見てみようぜ!


 宇宙には途方もない伝説があった。それはとてつもなく巨大で、惑星そのものを喰うという――その怪物の名をユニクロンといった。
 そのユニクロンがある惑星に狙いを定めていた。ユニクロンの目的は惑星の捕食だけではなく、その惑星の科学が生み出したトランスワープ・キーだった。ユニクロンはトランスワープ・キーを強奪するために、配下の中でももっとも強力な者を送り出した。
 惑星では闘争となり、オートボットたちが追い詰めるられるが、どうにかトランスワープ・キーをもって惑星を脱出。オートボットたちが向かった先は――地球であった。

 1994年のニューヨーク。失業者のノア・ディアスは仕事を得るためにとある企業を訪ねていた。面接の予定はあるはずだけど……。しかし「キャンセルになった」と言われる。
「どうして? 電話じゃほぼ俺に決まりで、形だけの面接だって……」
 ノアは元軍人だった。企業はノアがかつていた部隊に連絡したが、「ノアは集中力がなく、信頼ができない」という回答で、それを受け入れた結果だった。
 ノアは弟が病気で、その治療費を稼ぐために、仕事をしなければならなかった。しかしどこへ行っても、雇ってくれそうにない……。
 そこで地元の悪党に連絡し、車泥棒をすることに。
 ノアは指示された場所へ潜入し、その地下へと入っていく。地下駐車場に入っていくと、そこには2週間放置されたままのポルシェが駐められていた。
 もうずっと誰も回収に来ていない。持ち帰って売っても問題ないはずだ……そう言われたが、しかしノアは盗むことに葛藤を感じる。やっぱりやめよう……。ポルシェに乗り込んだところでそう考えるが、しかし鍵が開かない。閉じ込められた。しかもそこに、
「オートボットに告ぐ! 出動だ!」
 なんだ、ラジオの音か?
 ポルシェが勝手に動き始める。警察の制止も聞かず、車道へ。パトカーが追いかけてきて、壮絶なカーチェイスへと発展する。
 自動運転するポルシェは素晴らしいドライブテクニックで警察を攪乱すると、人気のない廃工場へと入っていった。そこでポルシェは人型のロボットに変形した。ポルシェの正体は宇宙からやってきたオートボット。ミラージュと名乗った。
 廃工場にオートボットたちが次々とやってくる。オプティマスプライム、バンブルビー、アーシー。
 ロボット・エイリアン達はなにか討論を始める。トランスワープ・キーがなんとかと言っているけど……。逃げなければ。ノアはオートボット達が話している隙に逃げ出そうとするが……失敗。
「そうだ、あいつを使おう。あいつならちっこいドアも通り抜けて、ちょっと拝借ってメモを残して出てこられるだろ」
 こうしてノアは別のものを盗むために駆り出されることに……。


 だいたいここまでのお話しで30分。なかなか綺麗にまとまっている。

 さて深掘りしていきましょう……といっても掘るところもないような映画だけど。
 舞台は1994年。前作『バンブルビー』の7年後という時代設定になっている。オートボット達も地球にやってきてまだ7年目……という設定だ。
 『バンブルビー』はトランスフォーマーシリーズの異色作、ドラマを重視した作品で、評価が高く、興行成績も良かったのだが、しかし『バンブルビー』から直接繋がる続編は制作されることはなかった。実際には『バンブルビー』の続編の構想はあったようだが、会社判断で次のフェーズに進むという決定となった。

 第1の主人公、ノア・ディアス。彼の葛藤は、病気の弟。その治療費が数ヶ月滞納している。すぐに働いて、お金を稼がなければならないが、しかし弟のことが心配すぎていつも上の空。仕事を得なければならないが、弟が心配すぎて仕事に集中できない……という悪循環を抱えている。

ノア「誰も救ってくれない」
 この場面からわかるように、この時のノアは、「誰かに救ってもらえる」ということを期待していて、その期待が得られないことに絶望している。

 第2の主人公、エレーナ・ウォレス。エリス島の博物館に勤めているインターン。優秀だけど、表舞台に立つのはいつも白人。白人は自分の地位と見た目しか興味のないポンコツで、エレーナが正しい情報を耳打ちしている……という状態。明らかにエレーナのほうが優秀だけど、黒人だから研究室に入れてもらえない。

 そんな二人が自分たちの欲しいものを得るために法を犯し……その結果、冒険に招かれていく。というのが前半のストーリー。

 前編の展開から引き続き、ノアはオートボットに協力することとなり、エリス島博物館に潜入し、そこでエレーナと巡り合う。2人の主人公が合流し、そこにマクシマルの配下ともぶつかり合って、大きな見せ場となっていく。ここまでの流れはうまくいっている。

 この後、ペルーへ行く展開があるのだけど、ここがちょっと引っ掛かりどころ。ペルーに行くとちょうどお祭りをやっているタイミング。そのお祭りに紛れて、目的地へ行くぞ……そこでパレードに紛れ込むのだけど……この展開、意味がない。普通に群衆の後ろをコソコソ歩いて行けばいい話で、わざわざパレードに紛れて、神輿を担ぐ意味がない。
 ペルーの地元っぽい催しに絡ませたかったのだけど、脚本の練り込み不足で……という感じが出ちゃってる。

 とにかくも教会へやってきて、仕掛けを解くのだけど……ここの仕掛けも単純すぎ。ペルーには様々な学者がやってきて、研究されつくされているのだから、こんな簡単な仕掛けなら誰かがもっと早く解除しちゃうでしょ。
 ペルーに入ってからの展開がどうにも雑。しっかりしたプランを立ててから、ペルーロケに入ったわけじゃないんでしょうね。
 あと500年人が入っていない、封印されていた洞窟……。たぶん酸素もあまりないんじゃないかな……。これを言い始めると面倒なんだけど。

 洞窟をくぐり抜けると、そこに現れたのがビースト!
 とうとうビースト登場だけど、その登場シーンは1時間を過ぎてから。後半戦に入ってようやく……ということは今作におけるビーストはゲスト扱いで、あまり深掘りされることもない。ビーストの活躍やドラマを期待すると、ちょっと残念。

 ビーストと合流し、そこから一気にクライマックスへ!
 楽しみなシーンは、実際の作品を見よう。

 『ビーストウォーズ』といえば、「声優無法地帯」と呼ばれる伝説的なアニメだけど……私は見ていない。たぶん、私の住んでいる地域で放送がなかったんじゃないかな?
 当時の話をすると、吹き替えアニメやドラマは声優によるアドリブは当たり前。1990年代頃、アニメ版『X-MEN』が放送されていて、私はこの作品が好きだったのだけど、こちらも声優によるアドリブが大量にあった。元々の台詞がなんだったのか、よくわからなくなったシーンは多い。実写でもこのノリがあって、名翻訳として知られる『コマンドー』はテレビ放送3回目の時。当時の洋画はテレビ放送されるたびに声を入れ直すという習慣があって、『コマンドー』の放送は3回目で、翻訳家も遊びを入れて声優も作品のなれてきたタイミングで、あの名翻訳が生まれた。
(こういう事情で、昔の洋画をWikipediaで見ると声優に数バージョンある。『コマンドー』でも放送のたびに声優が変更されていた)
 昔は声優が吹き替えで遊びを入れるのは当たり前。現代は「オリジナル絶対厳守主義」が根付いちゃってタブーになってしまったが、当時は声優アドリブで楽しくなっていた作品は一杯あった。今の時代に昔の作品を見ると、「あれ? 昔と台詞が違う」と驚くことが時々ある。そっちがオリジナルに忠実であるわけだが、昔のバージョンのほうが面白かったのにな……と懐かしく思うことがある。
(特にコメディ作品は、アドリブを入れた方が絶対に面白い。最近のコメディ映画の吹き替えは、遊びがなくなっちゃって面白く感じられない。外国のオモシロネタを日本に持ってきても「笑いの文化」も違うわけだから、なかなか面白くならない。こういう時こそ、声優のアドリブでその国の文化に合わせた面白さを作ったほうがいい……と思うのだが)
 こういう話も、やりすぎると「老害」とか言われるので、ここまでにするけど。
 そうした中で、『ビーストウォーズ』はもともとはどうやらかなりシリアスな作品だったらしい……しかし子供向けの作品としては難解すぎる、そこで声優のアドリブで面白くしてしまおう、と。現代の「オリジナル絶対厳守主義」の感覚からすると許されない話だが、当時はこれが普通だった。すでに書いたように、当時はアニメもドラマもアドリブ入れまくりだったが、その中でも「無法地帯」と呼ばれるほどに別物にしちゃったのが『ビーストウォーズ』。結果として、声優アドリブがあまりにも楽しい伝説的なアニメとして後に語り継がれることになる。

 ちょっと間違った感覚で、日本において絶大な人気を誇る『ビーストウォーズ』が実写シリーズにいよいよ登場! ……ということで注目された作品で、私もかなり楽しみにして日本語吹き替え版を見たのだが……。そういう期待をして見るとだいぶガッカリする。

 まず主演の2人が本職の声優じゃないのよ……。
 俳優としてさほど存在感があるとは思えないし、そのうえにあまり滑舌のいいわけではない芝居を見ると、それだけ「うーん」となる。
(ミラージュ役の藤森慎吾だけはやたらと上手かったのだが)
 それに、やっぱり昔みたいに遊びは許されない環境になったから、ただただ「無難」な内容になっている。予告編までは相当暴れてたのにな……。

 内容紹介のところでも書いたけれども、『ビーストウォーズ』のキャラクターが登場するのは、映画がはじまって1時間を過ぎてから。後半に入ったところでようやく。ということは、あくまでも「ゲストキャラ」という扱い。オプティマスプライマル(ゴリラ)とエアレイザーにはちゃんとした役割はあったが、ライノックスとチーターはただ出てきただけ。ライノックスにいたっては台詞なんかあったかな……という感じ。
 後半戦に入って、ビーストたちも動物形体から人間形体へと変形して戦うのだけど、すると誰が誰なのかわからなくなってしまう。その前後に人間形体を見せていないから、キャラの個性が把握できないまま……それくらいに掘り下げが弱い。
 トランスフォーマーとビーストウォーズを合流させるのが本作の狙いなので、「合流しました!」というところで今作は終わり。そういう意味では映画会社が設定した目標をきちんと達成した……とはいえるのだけど。

 ドラマの主軸はあくまでもミラージュとノアの相棒もの。ノアとエレーナという2人の黒人主人公の、抑圧された立場からの脱出の物語。
 前半、ノアは自分の不遇の立場を、「誰かに助けてもらえる」という他人に期待する立場だった。しかしどうすることできない状態に陥って、犯罪に手を染めようとしたところでミラージュと遭遇。そこからさらに博物館への潜入ミッションを強要される。どん底からどん底へと落ちていくと、そこでエレーナとの出会いがある。ここからドラマとしての再スタートが図られる。

 改めて冒険の召命を受け入れて、後半の物語に入っていく。ミラージュとノアのバディものとしてのドラマ、ノアの自立のドラマはきちんと作られている。ここはストレスなく、教科書通りきちんと作られている部分。ここを物語の主軸として見るとちゃんと楽しめる作品になっている。
 ただ引っ掛かりは、ノアの元軍人で、電子機器の専門家という設定があまり活かされなかったこと。冒頭に機械修理をやっている場面を入れて、印象を確定しているのに、後のシーンで活かされいないのが惜しい。
 ペルーに入ってからの展開が妙に雑になったり、後半の展開で惜しい、強引に感じられる部分がある。

 ノアのもう1人の相棒であるエレーナ。才能はあるのに、黒人であるがゆえに仕事を回してもらえない。そういう設定があるから、冒険の召命が来たときにすっと受け入れる。考古学者という設定も最後まで活かされている。ノアのサブエピソード的な存在として、うまく機能している。

 本作の一番の見所はアクション。トランスフォーマーシリーズも長く続いているだけあって、よくできている。シチュエーションもしっかり練り込まれていて、クオリティの高さに感心する。

 私が注目したのは、大がかりなアクションじゃなくて、対話シーンの口の動き。ビーストキャラの口の動きが面白くて……。口先だけではなく、頬あたりから連動して動く仕掛けになっている。そのおかげで、ちょっとした対話でも表情豊か。
 鷲がモチーフになっているエアレイザーは、もともとが鳥なので本来口周辺が動くわけがないのだけど、今作ではオートボットなので喋るたびに口周辺が動く設定になっている。本来動くはずのないものが動く……。それが自然に見える、という現象が見ていて楽しい。アニメーションが好きな人が見ると楽しくなる動きだ。

 『ビーストウォーズ』があくまでもゲストキャラ……という扱いにはちょっと残念なところはあるけれども、ドラマとしての主軸はしっかりしていて、エンタメ作品としては充分楽しめる作品になっている。ビースト達の本格的な活躍は次回に持ち越しかな……。ん? 次回は次回で、別の作品とも合流する計画なのか? と、とにかくも次回作にも期待しよう!


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とらつぐみ
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