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ゼロから始める“多言語対応”

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こんにちは。とらのあな通信販売のWebマーケティングとWebディレクションを担当している長(ちょう)です。昨年の夏頃から約半年間に渡って、とらのあな通信販売サイトの多言語対応を行いましたので、その時に考えたことや実施したことを振り返りも兼ねて紹介します。

これから多言語対応に取り組む人や、何から始めるべきか悩んでいる人のために少しでも参考になれば嬉しいです!


とらのあな通信販売を多言語対応した理由

とらのあな通信販売は比較的長い歴史のあるECサイトですが、これまでは基本的に日本国内のユーザーを前提にしていたため日本語のみでの表示でした。

近年のオンラインシフトとともに海外からのユーザーによる訪問が増えました。海外への発送代行を担う機能を自社内に持つなどして、少しずつではありますが海外ユーザーからの売上も増えています。

しかしながら、サイトの表示言語はずっと日本語のみであったため、現状の海外ユーザーの可読性や利便性の向上のために多言語対応を行うこととなりました。長期的な海外展開を想定した場合にも先に多言語対応を行っているほうがレバレッジが効くという側面もあります。

多言語対応の要件定義で意識したポイント

ひと口に「多言語対応」といっても単純ではなく、とらのあな通信販売の場合は実現にあたっていくつかの課題や前提条件がありました。

ここから数行は、とらのあな通信販売の前提条件についての文章が続きます!「知ったこっちゃない」という方は読み飛ばしてください(笑)

前提や制約条件の整理

アクセス数がとても多い
同人誌を専門とするとらのあな通信販売には、コミックマーケットをはじめ定期的に開催される同人誌即売イベントに合わせて非常に多くの作品が公開されます。その盛り上がりに合わせてサイトへのアクセスも大きくなります。

小〜中規模のアクセスであれば、多言語化のためのツールを導入することで比較的短期間で実現可能です。しかし、アクセス数が大規模となるとツール利用料金だけでも高額となってしまい、ツール自体の処理を圧迫してしまう恐れもあります。

そのため、後述でも記載していますが、最終的には多言語化ツールを一部のページのみに導入し、それ以外のページは社内のエンジニアによる内製開発で多言語化を行うという判断を行いました。

フルスクラッチ型ECサイト
とらのあな通信販売サイトはShopify等のようなパッケージサービスではなく、社内エンジニアによる開発によって維持と改善が行われています。多言語化ツールでサイト全体をまるっと翻訳する手段が取れない場合、一部を内製で実装する必要があります。

意図しない翻訳への配慮
そして3つ目は、意図しない翻訳を避ける必要がある点です。とらのあな通信販売は、ECサイトとは言っても作家(サークル)の方から作品をお預かりして販売を代行している事業モデルです。そのため作品名や作家名、サークル名といった作品に固有の名称が他の言語に翻訳される際に、意図しない翻訳をされることがないようにする必要がありました。

どこまでやるかを3つの軸で考える

以上のような前提条件が存在するうえで、どうやって多言語に対応していくかを考えていきます。いわゆる“要件定義”です。今回私たちは次の3つの軸で検討を進めました。

サイトの多言語化を検討する時の3つの軸
● 軸① 対応する言語
● 軸② 対応の広さ(サイトのどのページまでを網羅するか)
● 軸③ 対応の深さ(どの情報までを多言語化の対象にするか)

軸① 対応する言語

多言語化といっても日本語以外の全世界の言語すべてに対応していてはキリがありません。時間も限られているため優先度を決めて、対応する言語を決める必要があります。

とらのあな通信販売の場合は、現在訪問しているユーザーがどのブラウザ言語を使用しているのか、実際に購入しているユーザーではどうか、ユーザー比率や売上比率はどうか、といった数字をもとに最初に対応する言語を「英語」と「中国語(繁体字)」に決定しました。

対応言語の選定基準となるポイント
● 訪問しているユーザーのブラウザ言語とそのユーザー比率
● 購入しているユーザーのブラウザ言語とそのユーザー比率および売上比率
● 国や地域ごとの伸びしろや制約条件

上の2つはいずれもGA4(Google Analytics 4)のeコマース計測を実装すれば取得可能です。3つ目の「伸びしろ」や「制約条件」は、例えば国や地域特有の主要な決済手段や法的規制によって、サイト訪問者の数が多くても実際の購入者の数は少ないといったケースがあります。そのため一概に訪問ユーザー数が多ければ優先度が高くなるというわけではありません。この部分は各サイトや業界などによって変わってくる部分だと思います。

軸② 対応の広さ(サイトのどのページまでを網羅するか)

次に、サイト全体のどこまでのページを多言語化するかの検討段階です。ここでは「広さ」、いわゆる“面”として考えて多言語対応のカバー範囲を決めていきます。大きく分けて下記のように分類し、どこまでをカバーするかを検討しました。

とらのあな通信販売のページ種別
● トップページ
● 同人誌やコミックなどの各商材ごとのトップページ
● 商品一覧(検索結果も兼ねる)
● 商品詳細
● カート画面
● 注文内容確認&注文手続き画面
● マイページ画面(アカウント情報の編集や設定などを行うページ)
● 欲しいものリスト
● 購入履歴
● その他個々に作成している特集ページ
● 利用規約やプライバシーポリシー等

※ 実際にはもう少し複雑ですが、ここでは分かりやすいように簡略化しています

このようにサイト内に存在するページを種類や役割によって分類した後、それぞれのページの閲覧数やURLの生成ルール、ページの構造等を考慮しながら対応範囲を検討します。

とらのあな通信販売の場合は、最終的に個々に作成している特集ページと、一部の商品一覧ページを除いたほぼすべてのページに多言語対応を行うことができました。

さらっと結論を先に書いてしまいましたが、この対応範囲の検討に最も多くの時間を費やしました。理由は後述します。

とはいえ、何かしらの制約条件がある場合は、まずはサイトのページをいくつかに分類し、その条件にどれだけ関与するかをもとに許容範囲と重要度を決めていくやり方で、どのウェブサイトでも応用が効くと思います。

軸③ 対応の深さ(どの情報までを多言語化の対象にするか)

次に「深さ」と題して、いわゆる“奥行き”に近い考え方でどこまでのテキストや要素を多言語化の対象にするかを検討します。

「まるっとテキスト全部を対象にしてしまえばいいのでは?」と思うかもしれませんが、実際には様々な検討事項があります。

とらのあな通信販売の場合は、作品名・作家名といった固有の名称については原文を尊重し、作家自身が作品名の英語版などを設定しない限りは原文のままにすべきだという方針を取りました。そのため、作品に紐づく固有名称については多言語化の対象からは外しました。

他にも業界特有の用語や自社独自の用語もあり、そういった単語は多言語化ツールの自動翻訳機能を使ったとしても正しく翻訳できないため、事前に対訳表を準備して、それが反映されるようにするのが最善です。

簡単にまとめると

  • 多言語化の対象にしない(したくない)情報は何か

  • 通常では正しく翻訳されない業界や自社独自の情報は何か

  • 多言語化ツール等の自動翻訳機能に任せても問題ない情報は何か

の3つを整理するのがここでのポイントとなります。

合わせて、軸②で整理したページの種類とも照らし合わせながら、どのページにどの情報が表示されるのかを抜け漏れなく整理していきます。

ここまでの3つの軸での整理がひと段落すれば全体の7割くらいは終わったことになります。ここから先は、これまでに整理した範囲の多言語化をどうやって実現するかを検討していく流れです。

どうやるかを2つの分岐で考える

ここまでの内容は「どの言語に対応するか」「どの範囲までカバーするか」「どの情報までカバーするか」を決めるステップでした。5W1Hの中でいうと5Wに該当するような感じです。

これ以降のステップは残りの1H(HOW)を考えるステップで、“翻訳手段”を検討する段階です。多言語化の翻訳手段を決めるためには、次の2つの分岐で考えるのがおすすめです。

多言語対応の翻訳手段を検討する分岐
● 分岐① ツールか内製開発か
● 分岐② 外注翻訳か内製翻訳か

分岐① ツールか内製開発か
文字通り多言語対応に特化したツールを利用するのか、内製で多言語化を行うかの分岐です。

多言語化ツールを利用する最大のメリットは「自動翻訳」と「ノーコードでの運用」ですが、その分ツールの利用料金として一定のコストがかかります。もちろんツール上の様々な制約条件もあります。

一方、内製開発の大きなメリットは「実装の柔軟性」と「翻訳の正確性」の2点ですが、エンジニアによる開発が伴うため、その人件費とそれなりの期間が必要です。

多言語対応ツールを利用する場合
メリット

・ツールに備わっている自動翻訳が可能
・対象ページの追加や変更がノーコードで可能
・海外SEO対応が織り込み済みの場合が多い(※)
・短期間で実装できる
※ ツールを利用した海外SEOを行う場合はサイトやURLの構造によっては逆効果になってしまう恐れがあるため注意が必要です

デメリット
・一定のツール利用コストがかかる
・対象ページ数や翻訳文字数などに制約条件がある
・ツール自体がサービス終了してしまうと多言語対応が行えなくなる

内製開発による多言語対応の場合
メリット

・事前準備した対訳表を反映できるため意図しない翻訳が起こらない
・柔軟性を持って海外SEOに対応できる
デメリット
・対応範囲や翻訳の修正などを頻繁に行えない
・社内外のエンジニアによる開発が必須(人件費もしくは外注費用がかかる)
・実装までの期間もそれなりにかかる

ほとんどのWebサイトの場合はツールを導入する方がメリットが遥かに大きいと思われますが、とらのあな通信販売の場合はツール導入を即断即決するわけにはいきませんでした。

大規模なアクセスのあるサイトであることと、サイトの構造が少々複雑であることから、最終的には「多言語化ツールによる多言語化」と「内製開発による多言語化」の両方を織り交ぜたハイブリッドなかたちに落ち着きました。

ツールと内製による多言語対応を織り交ぜるために、様々な試算を行い要件定義を進めました。これが先程、どのページまで対応するかに最も時間をかけた理由です。この部分は詳しく紹介するととても長くなってしまうので省略します。

分岐② 外注翻訳か内製翻訳か
分岐①でツールを使うか内製で行うかに分岐した次は、翻訳をどうやって行うかの分岐です。分岐①でツールを使うことになった場合は、基本的にツールに備わっている自動翻訳機能を利用して翻訳が行われます。

しかしその場合でも、業界用語や自社独自の用語は自動翻訳ではなく事前に準備した対訳を用いて上書きする必要がありますし、内製による多言語化を行う場合は勿論すべてのテキストの対訳を準備する必要があります。この翻訳をどうするのかがこの分岐②です。

とはいえ、社内に翻訳ができる人がいて、そこに時間と労力をかけることが可能であればそれで問題ないでしょう。いない場合は必然的に社外に翻訳を依頼することになります。

また、特に利用規約やプライバシーポリシーといった法的文章については、専門の企業などに依頼するのが望ましいです。

まとめ

以上、とらのあな通信販売での多言語対応の実例をもとに、多言語化を進める時のポイントの紹介でした。少しでも世の中のWebマーケターやWebディレクターの皆さんの参考になればいいなと思います!

総括として簡単にまとめると

Webサイトの多言語対応で決めるべきこと
● 対応すべき言語
● どのページまで対応させるか
● どの情報(テキスト)まで翻訳の対象にするか
● ツールを導入するか内製で実装するか(もしくは両方か)
● 自前で翻訳すべきテキストを社内で翻訳するか社外に依頼するか

※ 事前に前提や制約条件を整理してください

以上の5つのステップを丁寧に1つずつ対処すれば、滞ることなくプロジェクトが進むと思います。

しかし、これらを決めるためには、色々と調査したり、検証や試算をする必要がありますが、最も重要なのは“ユーザー視点で考えること”です。もちろん実際には期間や予算など様々な制約条件がありますが、前述の各ステップを決める判断軸の中からユーザーへ与える影響を除外しないように心掛けることが大切です。

と、偉そうなことを書いてしまいましたが、自らへの戒めも兼ねています(笑)。実際に、とらのあな通信販売の多言語対応もひと段落したとはいえ、まだまだ対応すべき言語や改善すべき箇所があることは事実ですので、日々精進したいと思います!

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