『家が好きな人』 それぞれのゆるいつながり。お気に入りのもの。移りゆく時間。
朝起きて一歩も外に出ずとも、誰にも干渉されずに自由気ままに過ごせるパーソナルスペース。それが家。
休日に猫と遊んだり、おやつ食べてコーヒー飲みながらマンガ読んだり、映画観ながら家でまったりしてる時間って、いいよね。
そんな自宅大好きな人ならもう愛さずにはいられない作品がこちら。
『家が好きな人』
井田千秋
『家が好きな人』は漫画のような絵本のような、もしくはその中間のような、オールカラーのイラスト集。5人の登場人物が自分の家で過ごす日々の何気ない生活にフォーカスしたオムニバス形式の作品。
それぞれが住んでる家の間取りもイラストで描かれており、賃貸物件のチラシを何気なく見てる時のちょっとしたワクワク感も喚起されたりしちゃう。
個人的に最も好みなのは4人目に登場するミドリさんの家。半2階と半地下の部屋があって本やレコードが沢山並んでる。ずっと引きこもっていたくなる穴蔵のような素敵なお宅。
で、この作品。5通りの家とそこに住む人の生活のイラストをただざっと眺めるだけでも充分楽しい。だけど更によくディテールを見てみるともっと味わい深くて、何度だって楽しめる作品なのだ。
家が好きな人たちのゆるいつながり
本作品は5人の登場人物によるオムニバス形式で構成されているが、実はその5人がそれぞれにゆるくつながっている。
一番わかりやすいのがこの2人。最初に出てくるササさんと3番手で登場するナナコさん。この2人は姉妹の関係。
次にこの2人。2番手で登場するカエさんとナナコさんは隣の部屋に住むおとなりさん同士。
おとなりさんということで、ちゃんと家の間取りもそれぞれ左右対称になっている。
そして5番手のアキラさん。
彼女が出かける蚤の市で、買おうか迷っていたネコのカップ&ソーサーをお先に即決購入するのが4番目に登場するミドリさん。
さらに、同じ蚤の市でまねきクマを購入してるのがササさん。
このように家が好きな人同士、顔見知りだったりそうでなかったりはあるけれど、作品内でゆるくつながってたりリンクしてるところがまたほっこりとさせられる。いま流行りのシェアードユニバース感。
お気に入りのをものを愛でる
5人の家には趣のある雑貨や食器、家具や家電、本など様々なものが置いてあって、それを一個一個細かく見てるのも楽しい。
みんなそれぞれにお気に入りのものをそばに置いて愛でていて、そのちょっとしたものからその人がどんなモチーフを大事にしているかが伝わってくる。
例えばササモト姉妹は2人ともクマグッズがお気に入り。
蚤の市でネコのカップ&ソーサー買ってたミドリさんは、やっぱりネコグッズかお気に入り。
お気に入りのものは、そばに置いてあるだけで自分が肯定されてるような気分になれるんだよね。
移りゆく1日や1年の時間軸
それから、"1年"や"1日"というひと巡りする時間軸の移り変わりも感じさせてくれる。
例えば"春夏秋冬"という1年の季節の移り変わり。
そして1日の時間の移り変わりも。作品の一番最初。導入部分の見開きページに注目。
朝、ササさんの部屋のベッドからダイニングの方を向いたアングルで描かれた一枚。
そしてラストの見開きページ。夜、ダイニングからベッドの方という180度反転させた真逆からのアングルで描かれた一枚。
つまり作品の始まりと終わりが、1日の始まりと終わりに相対していて、1日の時間をぐるりとひと巡りするような円環構造になっている。
365日、そして1日のひと巡りして移りゆく時間軸を、細かなディテールと作品全体の構成というミクロとマクロの両方からさりげなく示している。
尚、最後の夜の部屋をよく見てみると、左の方にある棚の上には、ササさんが蚤の市で買ったのだろうと思われるまねきクマが置かれている。こういう細かいところってニヤっとしちゃうよね。
「家が好き」という感情って、家そのものが好きなだけじゃなく、
そこで一緒に過ごす人が好き。
そこにあるものが好き。
そこで過ごす時間が好き。
もしくはこれらが混ざりあったもの、なのかもね。