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あなたがオタクになっても|娘に贈るラブレター2通目

娘へ

何かを「好き」になるパワーってのは、すごいものですね。
母はあなたの新たな一面を発見した気がします。

「好き」を見つけたとき、
あなたの瞳はキラキラと輝き、とても嬉しそうです。

そんなあなたの姿を見ていると、
母のちっぽけな不安や迷いはすっと消えていきました。


***

娘が5歳のとき、ふとしたきっかけである漫画にドハマりした。


『甘々と稲妻』


ある日、「今日は面白い番組、全然やってないな~」とTVのチャンネルをピコピコ変える夫。

そのとき、たまたまケーブルTVの無料放送日かなんかで、5話分くらいのアニメがまとめて放送されていたのが、この作品と娘の出会いだった。

何が彼女のツボにはまったのかは、最初はナゾだったが画面を食い入るように見つめる娘。表情は真剣だ。

主人公の少女・つむぎちゃんと年齢が近く、親近感を感じたのかもしれない。

作中に登場するさまざまな料理を、つむぎちゃんが実においしそうに食べる姿が、くいしんぼうな自分(娘)と重なったのかもしれない。

理由はともかく、娘はこの作品にハマった。

「〇話分を一挙放送」的な感じだったので、2時間以上やっていて途中で録画した。それからというもの、録画したものを、彼女は一体何回観たんだろう。甘々ブームが到来した。

「いかと里芋の煮物」(←作中で登場)なんて食べたことがないのに、突然「明日、作って~」とか言い出したり、「包丁で切りたい」と料理にも関心を示し始めたりもした。

保育園でも友達や先生に、突如なんの脈絡もなく「甘々ではね~」とか熱く語ってみるものの、そこまでメジャーな作品ではない(すみません)ので周囲は、

???  
ふーん、そう…。(終了)

そりゃ、そうだ。保育園で女の子達の共通の話題といったら、プリキュアとかリカちゃんあたりが関の山だ。明らかに、周囲から浮いている娘…。


***

当時は保育園へ迎えにいっても、いつもひとりで遊んでいた娘。

友達がいないの…?

と、私は心配になった。

娘が通う保育園は、3歳以降は一年齢1クラスしかなく、ほとんどの子が1歳ころから一緒に過ごしてきた仲間達だ。年齢が幼いうちは、同じ空間にいるがそれぞれがバラバラに遊んでいる印象が強かったが、4~5歳ともなると、集団のなかから特定の仲のよいお友達のグループがで形成されつつあった。

だが、基本「ぼっち」率高めな娘。

「保育園は楽しい」と話すものの、お友達の話題を口にすることはほとんどなかった。他者に対して、あまり関心がないのか?このまま友達ができなかったらどうしよう…。

またそのころ、同じクラスの子と些細なトラブル?があり、それも私の心配に拍車をかけた。

そのトラブルというのは、娘が遊んでいるおもちゃを、いつもちょっと強引に取り上げてくるお友達(女の子)がいるらしく、担任の先生から「娘ちゃん、『嫌だ』って言わないから…。自分の気持ちを我慢していないか、ちょっと心配です。」みたいな内容だった。

先生の話によると、相手の子は、娘が言い返してこないことを見越しておもちゃを取ってくるような節がある(相手を見て態度を変えている)ため、先生側でも注意して観察していきますとのこと。う~ん、どうしたもんか…。

さりげなく娘に保育園での出来事や気持ちを聞き出そうと試み、数日はなんだかモゴモゴしていた娘だったが、あるとき彼女が話したのは以下のようなことだった。

・おもちゃを取られることは嫌な気持ち

・でも、自分が「嫌だ」と伝えたら、お友達が悲しい気持ちになるのが悲しいから「嫌なことをイヤ」と言えない、だから我慢をしている。

おぅ…。
私は単純に娘が気弱で(家では弁慶だが…)、嫌だという意思表示ができないのかな…と思っていたが違った。

「お友達が悲しい気持ちになると、自分も悲しい」

「ほかの子に対して関心がないのかな」と私の勝手な想像をよそに、齢5歳の心はそんなところまで考えていたなんて…。成長したな…。

娘に対してごめん、という気持ちと同時に娘のことをぎゅっと抱きしめたくなった。

「お友達の気持ちをそこまで考えられるのって、やさしいね。」

私がそう言うと、娘はちょっと照れたような、安心したような顔をしていた。

同時に「ただね、自分が本当に嫌なことは嫌って言ってもいいんだよ。『嫌だ』って気持ちも言葉にして伝えなくちゃ、お友達に伝わらないこともあるかもね。」と伝えると、娘は「ふ~ん、そっかぁ。」と呟いた。


***

この一件を通して、私は一つ腹をくくった。

「保育園での娘のお友達関係に不安がない」といえば、それは嘘になるが、娘を信じて見守ってみようと決めた。

親として、娘が自分の嫌なことを嫌と意思表示できるよう手助けは必要だけど、友達ができる・できないに関しては、娘を信じて静観しよう。

娘にいつも「ぼっち」なこと、それを周囲の子とくらべて違うと焦っていたのは、他でもなく私自身だ。恥ずかしい。

人を思いやる気持ちがあるなら、大丈夫。時間はかかっても、いつかどこかできっと、娘にも気の合う友達はできるから。


***

冒頭の甘々の話に戻る。

相も変わらず甘々の録画DVDを見続ける娘に、私はコミックス全12巻セットを大人買いした。(←新品はお財布的にさすがにキツいと思ったので、フリマアプリで中古を購入)

普段、そんなに漫画を読まない私にとっては、かなり珍しい買い物。

娘は「ありがと~!!嬉しい!」と大喜びし、その日から登場人物のセリフを再現できるようになるほど、何度も何度も読んでいる。

録画DVDをかけながら、コミックスで同じ話の箇所を読み、アニメ声優ばり?に「○○~」と同じセリフを復唱するのもお気に入りだ。

作中に登場する料理も娘にリクエストされ、いくつか一緒に作ったりもした。娘のイチオシは「とり白菜」(←11巻で登場)とのこと。

漫画で出会う料理ってのも、いいもんだ。新たな発見。

甘々と稲妻に登場する料理は、どれもとっても美味しそうだ。お腹がすく。

レシピ自体が優れているからも、もちろんあるとは思う。
でも、きっと理由はそれだけじゃない。

甘々レシピには、つむぎちゃんを取り巻く人々の想いや愛が溢れている。
だから、ますます美味しそうに感じてしまうのだと思う。

とにかく、甘々を読んでいるときはいつも楽しそうな娘。自分の世界に入り込んでいる。

ちょっと変わった5歳児。

でも、それも彼女の個性だ。いいではないか。

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(ラブレターつづき)

これから先、あなた自身が
輪の中に溶け込めない自分に悩む日が来るかもしれない。

でも「好き」のパワーは、そんなときにもきっと、
あなたのことを支えてくれるでしょう。

もし、あなたが将来オタクになったら
母はちょっとびっくりしちゃうかも知れないけど
それだけ夢中になれるものがあるということに
少し「羨ましさ」さえ感じてしまう母です。
オタク万歳。

だからどうか
自分の「好き」に正直でいてください。

母より


*** 

あれから1年以上が経過し、小学生になった娘は少しずつだが仲のよいお友達ができ始めている。

家以外で、「嫌なことを嫌と意思表示する」ことにはかなり時間がかかったけれど、あの頃にくらべたら随分言えるようにもなった。

これから先の人生、彼女はいくつの「好き」に出会えるだろう。
今から楽しみだ。

***


ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。

ところで『甘々と稲妻』って、どんな漫画?と気になった方はgomagomaさんのnoteで作品について詳しく紹介されています。(gomagomaさん、引用失礼いたします)










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