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継承する漫画、チ。【序盤の名場面】

 「一体何を捧げれば、この世の全てを知れる?」
 衝撃的なセリフで始まる漫画、「チ。」−地球の運動について−。
 その疑問はタイトルが正解を導き出してくれている。そう、この世のすべてを知るには「チ」が必要なのだ。この物語は、「チ」を捧げ、継承し、死んでいった名も無き者たちの記録。地球の運動についての記録だ。

あらすじ

 少し長いが、あらすじを紹介したい。↓

動かせ 歴史を 心を 運命を ――星を。舞台は15世紀のヨーロッパ。異端思想がガンガン火あぶりに処せられていた時代。主人公の神童・ラファウは飛び級で入学する予定の大学において、当時一番重要とされていた神学の専攻を皆に期待されていた。合理性を最も重んじるラファウにとってもそれは当然の選択であり、合理性に従っている限り世界は“チョロい”はずだった。しかし、ある日ラファウの元に現れた謎の男が研究していたのは、異端思想ド真ン中の「ある真理」だった―― 命を捨てても曲げられない信念があるか? 世界を敵に回しても貫きたい美学はあるか?
ebookjapanチ。―地球の運動について― 詳細情報

 注目したいのは、最後の一文。
「世界を敵に回しても貫きたい美学はあるか?」
 興味を引く強烈な文だ。私はこのあらすじで本を手にし、全巻一気読みしてしまった。

 物語の軸となるのは、地動説。少年ラファウは立証のため、周囲の期待を裏切り、自らの命を捧げ、次の人物へ「知」を継承する。
 こうして様々な人が「血」を捧げ、命を賭けてバトンを渡していく。真理のために生きる人々を、十五世紀のヨーロッパを舞台に描かれるのだ。

チ。の魅力的な構成

 数多くの人が時代を超えて協力し、大きな問題に立ち向かう。という構図はどの学問にも存在する。
 その構図を用いて、スピーディーに物語を展開する。そこが他の作品にはない魅力だ。

ebookjapanチ。―地球の運動について― (1)P.157

(地動説に関する記録が詰まった箱。キーとなるアイテムの一つだ)

 これらを踏まえて、序盤の「エモい」部分をいくつか挙げていく。読んでみたい!読み返したい!と思ってくれたら幸いだ。

※三巻までのネタバレを含みます。ご注意下さい。


抑えられない知的好奇心。三人の探求者

 主に紹介したいのは彼らの知的好奇心を表すシーンだ。地動説に関係する計算、資料を手にした時の目は圧巻である。罪を犯す感覚など忘れ、目の前の知識を夢中で食らう獣と化す。そんな目だ。

【ラファウの場合】

ebookjapanチ。―地球の運動について― (1)P.17

 (最初は神学を専攻するだったラファウ。誰もが羨むエリートだ)

ebookjapanチ。―地球の運動について― (1)P.48

(異端者として捕らえられていたフベルトに出会い、地動説を知る。そして…)

ebookjapanチ。―地球の運動について― (1)P.85


 主人公の一人、ラファウは合理的な人生を望む自分に対し、好奇心のままに動く自分をぶつける。その結果、彼は異端とされている地動説を肯定する運命へと足を踏み入れる。 

 このコマは、燃やそうとした天体記録を、全力で踏みつけて消火する場面だ。わかりやすい構図と、迫力あるセリフも見どころの一つになっている。



【オクジーの場合】

ebookjapanチ。―地球の運動について― (2)P.20

(依頼主の決闘の代わりにこなす「代闘士」のオクジー。)

ebookjapanチ。―地球の運動について― (2)P.24

(オクジーは天国を信じており、それが唯一の救いだと思っている。)

ebookjapanチ。―地球の運動について― (2)P.29

(共に代闘士をするグラス。彼がきっかけでオクジーは星に目を向けるようになる)

ebookjapanチ。―地球の運動について― (2)P.74
ebookjapanチ。―地球の運動について― (2)P.75

(異端審問の警備を担当していたはずの二人。あることがきっかけとなり、この男から手がかりを継承する)


 異端の男の話を聞くうちに、地球の美しさについて考える二人。彼らにとって、信じるべきは天国だ。戸惑いながらも真理とは何かを考え、はじめて仕事を放棄する。彼らに託されたのはかつてラファウが所持していたペンダントだ。

 地動説は天文学的な側面での「正解」ではある。しかし、同時に探究することが地球の美しさに気づくことにつながる。という視点はニ巻の見どころだ。



 最後に紹介するのは、三巻で登場する少女ヨレンタ。彼女が箱の中の問題を解くために、立ち入り禁止の保管庫にて、惑星の記録を漁るシーンだ。

ebookjapanチ。―地球の運動について― (3)P.60

(一度我にかえり、問題を諦めようとするものの…)

ebookjapanチ。―地球の運動について― (3)P.61

(どうしても知的好奇心を抑えられないヨレンタは、問題を解きにかかる)

 個人的に一番エモいシーンだ。表情の見せ方も良いが、セリフだ。やはりセリフが刺さる。

「でも悪いとかどうでもいいから、アレの答えが気になる。」

一語一句が感情的で、衝動を隠しきれないようすが、生々しく描かれている。冷静だが、滲み出て止まらない欲求は読者の心を強く揺さぶるのだ。



 ここまで、かなり大まかではあるが、本書のエモいシーンをいくつか紹介してきた。現実的な題材に、私たちの心に強く訴えかけるセリフの数々…。アクションや恋愛こそないものの、言葉で強く揺さぶってくる。
 そして教えてくれる。名もなき者が数多くの歴史を作ってきたことを、それを継承する人々がいたことを。

 私はこの漫画を継承したい、誰かに伝えたい。名もなき私でも出来ることを少しずつ実行していきたい。そう思えた。

・最後まで読んでいただきありがとうございます。


(現在、ebookjapanさんでは一、ニ巻が無料で読めます!ぜひご覧ください)


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