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【翻訳のヒント】「行う」の使いすぎに注意

こんにちは。佐藤です。レビューアーの視点からアドバイスする翻訳のヒント、第2弾となる今回は、「行う」の使い過ぎを取り上げたいと思います。

「評価を行う」など、名詞にくっつけて動詞を表現できる便利な言葉ですが、それゆえに、安易に使いすぎるケースがよく見られます。今回も具体例を見てみましょう。

例1

アンケート調査の実施方法を説明する文書から抜き出した例です。

【原文】
Likewise, if the user appears to say “Yes” to every question, clarify by asking why they are responding the way they are.
【一次翻訳】
同様に、ユーザーがすべての質問に「はい」と言っているように見える場合は、なぜそのように回答を行っているのか質問をしてはっきりさせてください。
【レビュー後の翻訳】
同様に、ユーザーがすべての質問に「はい」と言っているように見える場合は、なぜそのように回答しているのか質問してはっきりさせてください。

【一次翻訳】と【レビュー後の翻訳】の違いは1か所だけです。どちらも翻訳として間違っていません。ただ、【一次翻訳】のように「回答を行う」とする必要が果たしてあるでしょうか?「回答する」の方が文字数も少なく、シンプルだとは思いませんか?

些細な違いに見えるかもしれませんが、「〇〇を行う」式の表現をすることに慣れてしまうと、思わぬ落とし穴があります。それが次の例です。

 例2

自動化ソリューションのマーケティング資料から抜き出した例です。ぱっと見では何も問題ないようですが、冗長なところがあります。

【原文】
Feedback Management is automated and decreases your time to value by triggering follow-up actions at scale.
【一次翻訳】
Feedback Managementは自動化されており、フォローアップアクションの実施を大規模に行うことで価値実現までの期間を短縮します。
【レビュー後の翻訳】
Feedback Managementは自動化に対応しており、大規模なフォローアップアクションを実施して、価値実現までの期間を短縮します。

【一次翻訳】は、「大規模に」という副詞を省くと「実施を行う」になるため、厳密に言えば重ね言葉です(「馬から落馬」のようなアレ)。翻訳者は「〇〇を行う」のリズムに慣れすぎて、重ね言葉に気づかなかったと思われます。この例はまだ情状酌量の余地がありますが、実は別の案件で、「実行を行う」という完全アウトな翻訳も見たことがあります。自分でもやっていないだろうか……と背筋が寒くなりました。

 例3

もう1つ例を見てみましょう。これは開発系文書の見出しテキストの翻訳です。

【原文】
Techniques for Efficient App Deployment
【一次翻訳】
アプリケーションのデプロイメントを効率的に行うためのテクニック
【レビュー後の翻訳】
アプリケーションのデプロイメントを効率化するテクニック

これも、「行う」を使うことに慣れすぎたための弊害です。見出しは簡潔に訳すのが基本であるため、【一次翻訳】より【レビュー後の翻訳】の方が望ましいのは明らかです。しかし、この翻訳者はおそらく「行う」中毒になっていて、「効率化する」というバリエーションが思い浮かばなかったのでしょう。

この【一次翻訳】は何も間違っているところはなく、そのまま最終版として通用するものですが、硬直した思考の怖さを示す例として取り上げてみました。

 「こう来たらこう」のセオリーに縛られない発想を

「〇〇を行う」式の表現は翻訳のセオリーの1つです。単語の並びの制約で、「〇〇を行う」としか訳せない場合もあります。ただ、「〇〇する」で済むならそうした方が、明らかに訳文はシンプルになります。

慣れた訳し方を機械的に適用するのではなく、それが本当に最善の選択肢なのかを毎回検討し、少しでも読みやすく、すっきりとした訳文を作るよう努力したいものです。


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