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作業量を確認する癖をつけよう!

こんにちは。PMの小沢です。今回は、翻訳会社からお仕事を受ける翻訳者へのアドバイスとして、提示された作業量(WWC=Weighted Word Count)を自分でも確認する癖をつけましょう、というお話をしたいと思います。翻訳者のみなさん、いかがでしょう。きちんと確認をされていますか。信頼のある翻訳会社と取引しているから大丈夫!などと確認をしていない方もいらっしゃるのではないでしょうか。

作業量とはなんぞや

翻訳業界で使う「作業量」とは何を指す言葉だと思いますか?業界事情にあまり詳しくない方は、翻訳対象のファイルや文書に含まれる単語や文字の総数のこと、と想像されるのではないかと思います。CATツール(翻訳支援ツール)を使わない案件であれば、おおむね正解です。私はトップスタジオで翻訳の仕事に就くまで、CATツール、TM(Translation Memory:翻訳メモリ)、作業量のことなどまったく知りませんでした。おそらく、英語が好きで、ただ漠然と翻訳の仕事に就きたいな、と思っている方の中にも、同じように思っている方がいらっしゃるのではないかと思います。

以前、小島が書いた記事「CATツール~コンセプトと最大のメリット~」に、CATツールのTMとTMマッチ率のことが詳しく書かれています。あらためてざっくり説明すると、次のとおりです。

TM=過去に訳した文の原文と訳文のペアを保存するデータベース

TMマッチ率=作業対象の原文が、TMに登録されている原文とどの程度似ているか

TMマッチ率が低いほど、一から訳さなければならないため、翻訳に時間を要します。つまり、作業負荷が重くなります。逆にマッチ率が高いと、過去の訳からの再利用が可能なため、新規に訳すよりも作業負荷が軽くなります。これをたとえば、0%マッチなら作業負荷100%、50%マッチなら作業負荷90%、80%マッチなら作業負荷50%、……などと数字化し、TMマッチ率を実際の作業負荷に換算して出したワード数を作業量と呼んでいます。

フリーランスの翻訳者なら、ログファイルの確認は必須

TMマッチ率を解析した結果をまとめたものを、ログファイルといいます。このログファイルをもとに作業量を計算したファイルを、弊社では作業量換算ファイルまたは単純にワードカウントファイルと呼んでいます(以降、作業量換算ファイルとします)。 これは、翻訳ボリュームや請求の基準になる、非常に重要なものです。

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※弊社から翻訳者に出している作業量換算ファイルの例

トップスタジオが翻訳を受注する際には、最初に必ずログファイルを入手(クライアントから提供されることもあれば、自分たちでログファイルを生成することもあります)し、先方から提示された作業量の計算が正しいかを確認します。

計算に疑問がある場合は、クライアントに問い合わせ、納得するまで確認します。これによって、正確な作業量と受注金額を明確にし、双方納得したうえで、翻訳を開始できます。

同じように、フリーランスの翻訳者が翻訳会社から受注する際にも、ログファイルを見て、実際の作業量を自分で確認することが重要です。トップスタジオが翻訳者に仕事をお願いする際には、全体の作業量をお知らせするとともに、マッチ率毎のワード数が明記され、作業量を計算した作業量換算ファイルをお渡しするようにしています。これは、トップスタジオと翻訳者の間においても、正確な作業量と翻訳料金を明確にし、双方納得したうえで、翻訳を開始したいと考えているからです。翻訳会社によっては、この辺りをあいまいにして翻訳者に余計な負担を強いることもあるため、自衛のためにも、ログファイルと実際の作業量を自分で確認する癖をつけたほうがよいでしょう。

作業量を自分で把握することのメリット

翻訳者が自分で作業量を確認すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。

まずわかりやすいのは、先ほど書いたように、伝えられた作業量に間違いがないかを確認し、安心して翻訳を開始できることです。翻訳者をだまそうとする意図で計算式を不正にいじる翻訳会社がいないとも限らないので、ここの確認は重要です。また、悪意ではなく、何らかの不可抗力で、伝えられた作業量が間違っている可能性もあります。支給されたログファイルの計算が間違っていないか、ときには自分自身でCATツールの解析機能を使ってログファイルを生成し、作業量を計算し直すことも必要になります(※)。

作業量の計算を自分でやり直すまでいかなくても、それぞれの案件でのTMマッチ率と作業量の関係を把握しておくことは重要です。そうすれば、「100%マッチが多い案件のはずなのに、作業を始めてみたら、既存訳が全然でてこない」「新規(0%マッチ)が多い案件のはずなのに、作業を始めてみたら、既存訳がたくさんでてくる」といった事態に遭遇したときに、何かおかしいと気づくことができます(たとえば、作業用に支給されたTMが間違っている可能性があります)。

またもっと単純に、作業量換算ファイルに記された作業量を頭に入れておくだけでも、提示された作業量と体感での作業量の不一致から、問題に気づける場合があります。作業量は1000ワード相当とされているのに、丸一日作業しても終わる気配がない……といった場合は、ファイルの取り違いや、作業範囲の勘違いが起きている可能性があります。

 翻訳者の側でこうした違和感や不一致に気づき、翻訳会社に問い合わせをしていただくことで、プロジェクト進行上のもっと大きな問題が判明することもあります。したがって、作業量を確認することは、プロジェクト全体の進行にとっても意味があることです。


※CATツールの解析機能は、翻訳には直接関係ない機能であるため、翻訳者のなかには触ったことすらない方もいるかと思います。ただ、正確なワード数を算出するには欠かせない機能であるため、できれば関心を持ち、自分でも使ってみていただきたいところです。現在の業務に直接関係するものでなくても、ファイルのエンジニアリングなど、知っておくと役立つ機能があるかもしれないので、CATツールのウェブサイトや、動画、ヘルプを見たり、ツールを実際に使ってみたりして、探索してください。

まずはやってみましょう

これまで作業量の確認をせずにお仕事をされてきた翻訳者さんもいるかと思いますが、ぜひこれを機に確認する癖をつけてみてください。さらに、CATツールの色々な機能などに触れてみてください。

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