見出し画像

安くて、エモくて、かわいいレンズ TTArtisan 35mm f/1.4 C (+ Fujifilm X-T30)

単焦点レンズ TTArtisan 35mm f/1.4 C (35mm換算53mm)を愛用している。ミラーレス一眼Fujifilm X-T30  と組み合わせて、主に旅行やアウトドアでこのレンズを2年ほど利用してきた。

この記事では、私がこのレンズが好きな理由を、「安い・エモい・かわいい」の3つ観点から述べる。


安い

誰でも買えるF1.4

TTArtisan 35mm f/1.4 C は、非常に安価でありながらF1.4の明るさを誇るのが大きな特徴だ。

富士フイルム純正で同等の焦点距離とF値を持つレンズは約8万円もする。もちろん純正レンズの方が高機能・高性能で価格に見合う価値はあるが、この値段ではカメラを趣味として楽しみたい者が気軽に入手できない。

しかし、明るいレンズがたった1.2万円で入手できれば、誰もがカメラを楽しめる。最初は安価なレンズから始めてお金がたまってから明るいレンズを買う過程をたどるのが王道だが、お金がたまるまでの消化試合の時間がもったいない。最初から明るいレンズを使えれば、撮影機会を逃さないし、写真の上達も早まると思う。

明るいレンズだから開放で撮ればとろとろボケる。これは鴨川沿いでKindle読書をするチルさを見出した時の写真。
こちらも開放付近で撮影した例。前ボケで手前の菜の花を水彩画調にして桃源郷っぽさを演出した。京都の山科にて。
ゴルナーグラート駅からマッターホルンを望む。快晴時に絞って撮影すれば気持ちの良い解像感を得られる。
世界一物価の高い国スイスへの旅費は高額であった。もし高価なレンズを購入していたら旅費が足りなかったかもしれない。そう思うと、レンズが安価であることは撮影機会を増やすことに繋がる。

故障を心配せずにガンガン使える

どんな環境でもすぐに撮影できるカメラが、私の理想のカメラだ。旅行先や、アウトドアシーンでもたくさん撮影したい。カメラはカメラケースに入れずバッグに無造作に詰め込んで、撮りたい瞬間にすぐ取り出せる状態にしたい。

安価なレンズならこのようなニーズを満たす。1.2万円ならたとえ壊してしまっても簡単に買い替えられる。だからレンズをかばうことなくどんな環境でも撮影できる。もちろん、意図的に雑に扱ったりはしないが、安価なお陰で、レンズ内への水分混入や、レンズへの傷を気にせずおもいっきり撮影できる。

ちなみに、今までカメラケースを使わずバッグに放り込む運用で、荒天時や山・海で何度もこのレンズとカメラを使ってきたが全く壊れていない。軽量で落下させてもダメージが少ないのと、オートフォーカスを搭載していない単純な機構だから壊れる部分が少ないのだと思う。

雪降るケベックシティ。防水レンズではないけれど、安価だから雪による水分混入を気にせず撮影できた。
大雨のルツェルンにて。撮影していたらレンズに雨が混入し、変な屈折が生まれてアーティスティックな写真に仕上がった。もしこれが高価なレンズなら水滴混入が気になってしまい、予想外に生まれたアーティスティックな写真を楽しむ余裕はなかっただろう。なお、その後レンズを一晩乾燥させたら復活した。

エモい

このレンズはシャッターを押すだけで簡単に撮れる訳では無い。マニュアルフォーカスの単焦点レンズだから、撮影時にはフォーカスリングや絞りリングを操作したり、カメラと被写体の位置を自分の足で調節する必要がある。しかし、これらを私は長所と捉えている。

撮影者の眼差しの追体験

とある写真家(誰かは忘れてしまった)が、写真の本質は撮影者の眼差しの追体験であるとおっしゃっていて、私はこの発言に共感している。

私は第三者に写真を見てもらうことを目的とせず、趣味として、自分や自分と行動をともにする友人のために写真を撮っている。このような場合、良い写真を撮ることよりも、良い思い出を残すことが写真の目的になる。

即ち、撮影者たる自分が撮影時にどのような風景を目にして、どのような心情で、どのような意図を持って撮影したのかがわかる写真を撮りたいのだ。このような文脈優位な写真の姿勢は、(おそらく)今風に言えば「エモい」と言い表せると思う。

マニュアルフォーカスの単焦点レンズだと特に、「エモい」写真を撮ることを矯正される。焦点も絞りも被写体との距離もすべてマニュアルで操作するしかないから、フルオート撮影と比較して、撮られた写真には撮影者の意図が宿る。

例えばピントを外した写真を撮ってしまった場合。オートフォーカスのレンズならば、それは単なる失敗写真として扱われる。しかし、マニュアルフォーカスならば、ピントを外した事実にも意味が宿る。

そうした写真はあとから見返すと、目の前に突然シカが現れて驚いたあの瞬間や、始めてアメリカを訪れてビビっていたあのときの情景が呼び起こされる、価値のある一枚となる。

ぬん。突如シカが現れた。フォーカスをシカに当てようとしたが間に合わず、中途半端な位置にピントが置かれてしまった。しかし、これはこれで急にシカの襲撃をうけた様子が伝わって良い。
初めて訪れたアメリカで最初に撮った写真。「カメラを下げたアジア人はスリに狙われる」というガイドブックの記述を鵜呑みにして、カメラが目立たないよう胸の高さで撮影。ファインダーを覗けないからフォーカスが曖昧で、しかもカメラストラップが映り込んでいるが、だからこそその時のチキっていた心情が思い起こされる。

自分と世界の距離感

単焦点レンズの利点については山岳写真家の石川直樹氏がうまく言語化してくれている。2020年に東京都立多摩図書館で行われた講演会にて、石川氏は単焦点レンズについて「自分と世界の距離感を表現できる」と説明していた。単焦点レンズはズームできないからこそ、自分と野生動物のとの距離感、壮大でフレームに収まりきらない風景などを客観的に表現できるというのだ。

私自身の事例で考えてみると、例えば以下の春の東寺の写真は単焦点だから見いだせた構図だ。花見客でごった返していて身動きが取れず、単焦点だから桜にズームもできない。だから、左下の人々も含めて、私の眼の前の光景をそのまま撮影した。F1.6を活かして開放で撮影し、人物は前ボケさせることで情報量を整理した。

このような構図をとったことで、コロナ後最初の春で花見客で賑わっていた背景や、桜を肉眼で見るよりもスマホカメラを通して見るのが現代風なのだという事実が載った、旅の記憶とリンクした写真になった。

花より団子ならぬ花よりインスタ映えな現代の花見風景。(かく言う私もその一人。)
蔣介石を中心に据えるのが普通の構図だが、そうすると焦点距離的に背景の漢字が入り切らず不格好になる。だからレンズを左に向け、手前の人々を主題にして撮影したことで、建国の父が人々を見守るような印象になった。蔣介石を中心に据えた普通の構図はスマホの広角で撮ればいい。

無難な写真はスマホで撮ればいい

ここまで述べてきたピントが外れてもエモいだとかいう理論は、失敗写真を正当化する言い訳とも思われるかもしれない。それは、まあ、正論ではある。

しかし、画質がきれいで過不足無い構図の普通の写真は、スマホのカメラでも撮影できるし、もはや自分で撮影せずともInstagramを漁れば無限に出てくる。

そんな時代にわざわざミラーレス一眼を携えて写真を撮るからには、自分が撮ったことによる付加価値を生みたい。そして、付加価値を生む簡単な手段として、マニュアル単焦点で少々融通が利かない機材を使って撮影者の動きが介在する写真を撮る、というスタイルがあるのだと思う。

TT Artisanのレンズは安価で明るいことだけに主眼を置かれていて、それ以外の性能は普通だ。例えば逆光耐性が低いため、光源の方向を撮影するとフレアやゴーストが発生する。そのようなクセも含めてスマホとは一味違う写真が撮れて面白い、つまりエモいのだ。

逆光耐性が低くもやがかかったような写真になる。しかし、そのおかげでソフトな朝の光につつまれた優しい雰囲気になった。
光芒もゴーストもマシマシでちょっとやり過ぎな気もするが、スマホでは撮れない印象的な写真に仕上がった。

かわいい

シルバーボディのカメラがかわいくて好きで、愛用しているミラーレス一眼X-T30もシルバーの筐体のものを選んだ。シルバーのカメラにはシルバーのレンズを合わせたいところだが、純正レンズ・サードパーティレンズどちらも黒色のレンズが主流でシルバーは少ない。

だが、TTArtisan 35mm f/1.4 C は安価なのにシルバーカラーが用意されている。シルバーのレンズと、シルバーのX-T30を組み合わせると、クラシカルな見た目のかわいいカメラに仕上がる。

カメラもレンズもシルバーで揃えるとクラシカルでかわいい。
私が愛用してきたシルバーのカメラたち。この見た目のカメラに全幅の信頼をおいている。
左上: D-LUX 7, 左下: X20, 右: X-T30

周囲の人を威圧しない

クラシカルなカメラを使う利点として、旅行先でカメラを携えて街を歩いていると、旅情が増してテンションが上がるという点がある。

もう少し実利的な利点としては、クラシカルでかわいいカメラなら周囲の人を威圧しないということが挙げられる。いかにもプロといった雰囲気のでかい一眼レフを携えていると目立ってしまい、周囲の人に威圧感を与えてしまう。旅行先で出会った人や、一緒に行動する友人を撮ろうとした場合には、でかいカメラだと表情がこわばってしまう。しかし、クラシカルでプロ感が無いカメラなら周囲の人を威圧しないし、被写体も自然な表情でいられる。

このカメラについての言及ではないが、コンパクトな高級コンデジRICOH GRのイベントで、フォトグラファーの内田ユキオ氏が、笑顔の子どもたちの写真を示しながら、「これはコンパクトなGRだから撮れた笑顔です」とおっしゃっていた。私が使っているカメラも同様のことが言えるだろう。

ニューヨークにて。このカメラならバーの雰囲気を壊さずに撮影できる。
賑やかなモントリオールの広場。観光地ではない普通の街を撮るのにもこのカメラは向いている。
コンパクトでクラシカルな見た目だから、カフェで一眼を取り出しても「業者感」が出ないのがいい。韓国の昌慶宮が見えるカフェにて。

サイズもかわいい

TTArtisan 35mm f/1.4 C + X-T30の組み合わせは重量が軽く、2つ合わせて約560g。ストラップを含めても600g台前半だ。

サイズもコンデジより一回り大きい程度だから、片手でも操作可能だし、小さいバッグにも収まる。この機動性のお陰で、旅行・街歩き・登山どこへでも持っていける。

さあ、次はカメラを持ってどこへ行こうか。


ブルックリンのダンボの蚤の市に並んでいたカメラ。こういうクラシカルな雰囲気のカメラに惹かれてしまう。



Related Link

Related Page

この記事で紹介したカメラを含む、旅行の荷物紹介

この記事に少し登場した私が愛用するもう一台のカメラの紹介


いいなと思ったら応援しよう!

Naoya Toyota
わゎ