『ナボコフ全短篇』を読む日記2022.03.21(64/68篇)
「暗号と象徴」「初恋」を読む。
「暗号と象徴」は、精神錯乱で入院した息子に妻と夫が誕生祝いを渡しに行く話。息子の精神錯乱はタイトルにあるように、身の回りで起こることが自分個人の存在に対する暗号めいた言及だと思うようになる「言語強迫症」らしい。生身の人間はそこに加わっておらず、自然現象などによるもののようだ。たとえば、空の雲や木々や小石やにじみや日影のパターンなどに暗号を読み取ってしまうらしい。
「初恋」は、ナボコフの記憶を題材にしたっぽい、ナボコフには珍しい初恋を描いた話。十歳のころの回想で、「私」はフランス南西部のビアリッツという町に海水浴に行っていて、そこでコレットというフランス人の少女に出会う。彼女に対する情熱は、蝶に対する情熱を上回るほど(ナボコフは鱗翅目研究者で、「オーレリアン」などの蝶への情熱を描いた作品もある)だったらしい。結局、駆け落ち未遂などを経て帰途につく際にパリで最後に会って、その初恋は終わったようだ。