PYPにおける心身の成長の学び方
◎ こんな疑問を感じている人に読んで欲しい!
・思春期に向けて「心と体の成長」に関する正しい知識や考え方をどのように届けたらいいんだろう?
・知識を実生活に転移させるクリエイティブラーニングの考え方
今私は国際バカロレアの認定校であるサニーサイドインターナショナルスクールで小学4年生の担任をしており、教科融合型な学びをどのように実践しているのかをまとめていけたらと思います。
Unit5のカリキュラム
また、PYPでは概念型カリキュラムのカリキュラムが取り入れられており、ウィギンズ(Wiggins, G.)らが提唱している「逆向き設計」論が取り入れられています。「逆向き設計論」では「子どもたちに理解をもたらす」ことが重要視されています。逆向き設計をエリクソン とラニングが提唱する「知の構造」と「プロセスの構造」にUnit5を当てはめたものがこちらの図になります。
導入 Holiday Concertで合唱した「大人になるって」を紐解く
この「心身の成長」に関わる学びがユニット5に位置付けられているのも子どもたちの発達の状況から4年生の後半に位置付けられました。10歳になる子どもたちにとっては、今まで大人の言うことを素直に聞けていた自分の心の受け止め方に変化が生まれ始めている時期でもありました。このように子どもたちが置かれている状況に合わせて学びの機会を合わせていくことも大切にしています。
まずは、2学期に行われたHoliday Concertで子どもたちが選んだこの曲を題材に自分自身の心の変化を探っていきました。具体的には、心に残った歌詞の部分と、なぜ心に残ったのかを自分自身の心の変化と紐付けながら言語化してみました。そしてここで言語化したものをプルチック(参考リンク)で分類して感情の変化を整理していきました。
さらにここから、この8つの気持ちを表す言語にはどのようなものがあるのかを約100個の気持ちを表す単語をリサーチし分類する中で語彙を広げていきました。
展開1 思春期の心の変化を詩と絵で表現する
ここまで自分自身の心の変化を言語化してきたものを詩(国語科との融合)と絵(図画工作科との融合)で表現する活動を行いました。詩の書き方についは、様々な詩を読むことを通して詩の特徴を掴んでいきました。
児童一人一人が自分自身の今の気持ちを素直に言語化することを大切にしました。この日の授業参観では、詩の展覧会のような場を設定し、一人一人が書いた詩を自由に鑑賞し、お互いにコメントし合う活動を行いました。
展開2 人生の様々なステージの人の発達の変化を掴む
このタイミングで冬休みに入ったところで、冬休みに親戚に会う機会が多いことを活かして、人生の様々な発達段階の人に喜怒哀楽の観点でインタビューをして、それぞれの人生のステージで乗り越えるべき課題があることを「エリクソンの発達段階」をベースにインタビュー活動を行いました。そして、冬休み明けにインタビューした事例を収集して、それぞれのステージで乗り越えるべき課題について一般化していく活動を行いました。
この活動を通して子どもたちは次のような気づきを呟いていました。
展開3 Mathで身長の変化パターンと原因を探る
Mathでは、自分自身の身長の変化を家でリサーチし、1年間で身長の伸びが多いところを小数の計算スキルを活用して計算し、年齢と1年間の伸びた身長の数値をグラフ化する活動を行いました。この学習活動から、"生まれてすぐと、10歳周辺で身長が急に身長が伸び始めていること"と"身長の伸びには個人差がある"気づきを得ていました。では、なぜ生まれてすぐと10歳前後で身長が伸びるのか?という疑問が子どもから出てきました。
展開4 保健体育で発育との関係性を探る
保健体育では、スキャモンの発育曲線を例に、神経系の発達と運動能力の向上の関係性について実体験からの知識を元に紐解いていくことをPSPEの教員と連携して行いました。私たちの学校では子どもの発達を考えて、休み時間はデバイスの使用を推奨せず、外に出て遊ぶように声かけを行っています。しかし、子どもたちにとっては「休み時間は子どもにとっても自由な時間なのにどうして外で体を動かさないといけないのか」と、思春期を迎える子どもたちは学校のルールに対してもしっかり疑問を抱くようになります。そこに対して大人が上から押し付けるのではなく、子どもの疑問に対して正しい知識を適切なタイミングで伝え、一緒に考えていくことが重要だと考えています。この時間の最後には、子どもたちは「ゴールデンエイジ 」という言葉の意味を理解し、休み時間は積極的に外で遊ぶ姿が見られるようになりました。
展開5 理科で発育とホルモンとの関係性を探る
Mathで生まれた「なぜ生まれてすぐと10歳前後で身長が急に伸び始めるのか?」という疑問のリサーチに入っていきました。子どもたちはスキャモン の発育曲線の一般型の繋がりや、成長ホルモンが10歳前後で多く分泌することとの繋がりを発見していきました。では「成長ホルモンが身長の伸びに影響を与えるなら、どうしたら成長ホルモンは分泌されるのか?」という次の疑問につながっている子どもも出てきました。
展開6 国語で対話の時間
問題「4年生だけでサッカーをしたいのに1年生に遊びに誘われて断ったら泣いてしまうし、自分たちも遊びたいのにどうしたらいいんだろう。」
議題「発達段階の異なる1年生とお互いに心地よいコミュニケーションを取るにはどうしたらいいんだろう?」
様々な人生のステージの発達についてユニットで学んできた子どもたち。それでも学校で生活していると、色々な問題や葛藤とぶつかります。これまでにも1年生に遊びに誘われてきた4年生は、我慢することで自分の気持ちを飲み込んでしまったり、我慢したことで嫌な気持ちが溜まってしまって1年生に強い言葉で伝えてしまって泣かせてしまった経験をした子、このような経験を繰り返すことでどのように対処したらいいのか迷っている状況が生まれていました。そこで、発達や成長について学んできた4年生だからこその見方・考え方を活かしてディスカッションを行いました。ディスカッションの最初は我慢してきた嫌な気持ちがたくさん出てきて気持ちを発散して共感するところから始まりました。ここからが一人ではなくクラスである問題について考える良さが出てきました。「でも最近◯◯◯ちゃんは変化しているかも。」「そもそも休み時間の意味について1年生と一緒に考えたらどうだろう?」というように、共感だけでなく具体的に解決していこうとする言葉が生まれるようになりました。このディスカッションが子どもだけでできる姿に私自身もこのユニットでの変化について感じました。
総括的評価 思春期の成長をサポートするイノベーションを考える
▼ 総括課題でイノベーションを考えることになった背景
思春期の心身の変化について理解を深めてきた子どもたち。理解したことをまとめるだけでなく、何かのアクションに繋げられるような総括課題(パフォーマンス課題)を考えており、PYPのコーディネーターに相談しました。
まずは、子どもたちと今必要な心のケアについて考えるためにホワイトボードに10歳の悩みをテーマに心のモヤモヤや葛藤を書き出すワークを行いました。思った以上に、心のモヤモヤを自己開示してくれて、そこから自分が解決したい10歳ならではの悩みや課題を選んで、リサーチを進めていきました。
▼ 生まれたイノベーション
子どもたちは、実際に思春期の悩みや重要な課題を解決するためのテーマを設定し、そこからテーマを深ぼるためのリサーチを行いました。更に、本やインターネットの情報だけでなく実際にクラスメイトにインタビュー調査を行い、思春期にとって本当に重要な問題なのかを探っていました。そこから、悩みを解決するためのイノベーションのアイデアを出して、アイデアのプロトタイプを作り、自分自身のイノベーションのアイデアをプレゼンすることができました。子どもたちのイノベーションのアウトプットは近々公開予定です!
完成!思春期に役立つホームページ
このホームページのアイデアも子どもたちから出てきました。思春期についての理解を広げるために、小説を書いてみたり、アートで表現してみたり、また思春期の悩みを解決するための「悩みノート」「何でもノート」「エクササイズ」等様々なイノベーションのアイデアが出てきました。
詳細はこちらからみていただけたらと思います!
いつも読んでいただきありがとうございます。