PYPにおける主権者教育
◎ こんな疑問を感じている人に読んで欲しい!
・子どもたちが政治や市民の役割を理解する授業実践を探究している
・子どもたちがジブンゴトになれる探究的な学びを作りたい
今私は国際バカロレアの認定校であるサニーサイドインターナショナルスクールで小学4年生の担任をしており、教科融合型な学びをどのように実践しているのかをまとめていけたらと思います。
Unit1のカリキュラム
PYPでは概念型カリキュラムのカリキュラムが取り入れられており、ウィギンズ(Wiggins, G.)らが提唱している「逆向き設計」論が取り入れられています。「逆向き設計論」では「子どもたちに理解をもたらす」ことが重要視されています。逆向き設計をエリクソン とラニングが提唱する「知の構造」にUnit1を当てはめたものがこちらの図になります。
難しいトピックである「政治」が子どもたちにとって身近なものになるために、ホンモノと出会えるField Tripの機会と実際に模擬裁判や模擬市議会議員選挙をガチでやってみる活動を通して、政治の役割を体感する機会を大事にしました。
導入 Feel度walkで学校の周りを歩いて知図を書こう
この時点で子どもたちにセントラルアイデアは提示していないのですが、「政治は市民生活に影響する」ことが一般化されるなら、身の回りを歩いてみると政治との繋がりが見えてくるのではないかということで、学校の周りを散策しながら気になるものを写真に撮りまくるFeel度walkを行いました。一人一人の気になったモノの背景に、一人ひとりの「概念」(ものの見方や考え方)が透けて見えてくるのが、Feel度Walkの醍醐味です。
▼ 子どもたちから生まれた疑問
ここから「政治」という小学4年生にとってすごく程遠い世界の旅路が始まりました。
展開1 法律ってなんだろう?
まずは、子どもたちにとって身近である「交通ルール」をトピックについて考えていきました。子どもたちは、世の中にある決まりのようなものについて何となく知っている状態でした。"決まりのようなものを作った人は誰か?"という問いには、警察官、神様、大統領というような言葉が出てきました。そして"世の中のルールが作られたのいつなのか"という問いには、大昔、誰かが事故を起こしたときや誰かが苦しんだときに誰かが提案したとき等という考えが出てきました。ここから子どもたちの「法律や法律ができるまでの世の中の仕組み」について学ぶ探究が始まりました。
展開2 選挙ってなんだろう?
この頃ちょうど岐阜市では選挙運動が身の回りで行われており、子どもたちの中で選挙運動が気になる存在になっていました。そこで、市議会議員の立候補者がまとめられた新聞を実際に読んで、選挙当日に自分が投票した人を選んで模擬投票をしてもらいました。実際に投票したのは12名中8名(66%)という結果になりました。そして、投票しなかった理由について尋ねると「なんとなく。」「誰に投票したら良いかわからないから。」という声がありました。まだ、子どもたちにとって、何のために選挙をする必要があるのか分からない様子が見取れました。
その後、市議会議員選挙の立候補者が載っている新聞を見て「See(事実)-Think(考えたこと)-Wonder(疑問)」のワークを行いました。
そして、ここからは、子どもたちが疑問に思った市議会や選挙の疑問についてのリサーチが始まりました。
子どもたちに問いが生まれ、リサーチが進んできたところで「本物と出会う」ために実際に市役所と市議会にフィールドトリップにいきました。
展開3 市役所/市議会ってなんだろう?
そして、実際に市議会が行われる議会室に入ると、この場で市役所の職員と市議会の人と市長が税金の使い道について議論すること等について市役所の方から学びました。「本物と出会う」フィールドトリップを通じて選挙と市議会と市役所が繋がっていることに気づき始めていました。
形成的評価1 市民と市役所と市議会の繋がり
ユニットの前半を終えて「形成的評価」に入ります。テーマは、市民と市議会と市役所のそれぞれの繋がりと役割について説明をすることです。アウトプットの方法は自由とし、その中でも印象的だったのはMinecraftでのアウトプットでした。
中間プレゼンテーションの中で、身の回りの道路の予算が国会とよばれる場所から予算が来ていることも取り上げられていました。自分たちの身の回りのものが、市議会や市役所と繋がっていることを学び、さらに国という大きなものとつながっているかもしれないという疑問が子どもたちの間に広がり始めているのを感じました。
展開4 Math×国会ってなんだろう?
国会の役割についてリサーチを進める子どもたち。そして国会予算の金額を見てこれまでに扱って来なかったら大きな数字と出会い驚く子どもたち。ここで、小学4年生の算数で学ぶ大きな数(億や兆)について学ぶ必要性が出てきました。億や兆について学習後に国の予算を見ると、国で働く人がとても大きな金額をみんなのために使う計画を立てて、実行しているのかを知り「国で働くには、数学がめっちゃ必要じゃん。」と国で働くことの大変さや難しさに気づいている子どももいました。
展開5 内閣ってなんだろう
その後、国会が予算を立てることを学び、実際に立てた予算に基づいて誰が実行しているのかを疑問にもつ子どもも出てきました。それが「内閣」の学習に自然につながっていきました。12人それぞれに、異なる大臣(外務大臣、文部科学大臣、厚生労働大臣etc...)を選んでもらい、それぞれの大臣(省庁)が行っている仕事についてまとめた後、来年度の計画と予算について考えてもらい、模擬閣議を行いました。実際の会議では、大きく昨年度の予算を上回り「もし予算を超えてしまった場合にどのようにして話し合いで決めるのか?」そんな疑問も生まれていました。
展開6 裁判所ってなんだろう?
国会や内閣について学習していると子どもたちは「裁判所」という言葉も一緒に見かけるようになります。裁判所については、刑事ドラマで見たり、実際に交通ルールを破ると罰金等の仕組みがあることを何となく知っている子もいました。そして裁判所に行く前に、裁判所の法定にも置かれている「六法」について知るために「子ども六法すごろく(リンク)」を事前に行い、法律について学んで実際の裁判所の法廷の見学を行いました。
実際の裁判では「無免許で飲酒運転を行なった被告人の刑事裁判」の法廷見学を行いました。小学4年生にとって、実際に社会の中で法律を破った時に、裁判で裁かれる様子を見て色々なことを感じ取ったのではないかなと思います。
▼ 裁判の傍聴見学後に子どもたちが感じていたこと
本物の裁判の法廷を見ることで社会の中にある裁判の仕組みについて色々なことを感じ取っているように思われました。そして、裁判所の役割について振り返りを行なった後に、子どもたちから実際に模擬裁判をやってみたいという提案がありました。
形成的評価2 模擬裁判
模擬裁判(原稿リンク)では、12人それぞれに役割が与えられ、2日間に渡り裁判が行われました。検察官と弁護人は実際に裁判に必要となる証拠となるものを準備し、法廷が開かれました。
▼ 模擬裁判後に子どもたちが感じていたこと
模擬裁判を通して…
裁判の仕組みや役割、影響についてリアルに体感した模擬裁判になったのではないかなと思います。
展開7 税務署って?
最後のフィールドワークで訪れたのは「税務署」になります。「正直、みなさんは税金を払いたいですか?」という税務署の職員の問いかけに、大人も子どもも「正直払いたくないな〜」という素直な気持ちから学習が始まりました。しかし、税務署で税の役割を学ぶことで徐々に考え方が変わっていく子どもたちの姿を感じました。
「もしも税金がなかったら…」
実際に税金のない世界を想像することで身の回りにあるみんなのもの(道路、信号機、公園等)や、みんなのためにある仕事(消防、救急、警察等)が税金でまかなわれていることを知り始めます。
最後に改めて税務職員の方から「税金はきちんと払うべきだと思う人?」という問いかけに全員の手が上がりました。実際に税務署のいろいろな部署を周り、働く人の生の声を聞くことで「税金の役割」を体感する1日になったのではないでしょうか?
*子どもたちと一緒に見た税に関する動画(リンク)
総括課題 子ども市議会議員プロジェクト
こちらが、これまで身の回りの政治について学んできた子どもたちが総括課題として取り組むパフォーマンス課題になります。この課題では、実際に岐阜市に住んでいる方にアンケート調査を行い、その声を元にマニフェストを作成し、選挙活動を実施します。子どもたちにリアルな状況に置かせることで、学びに自然に本気で向き合える環境を整えることを大切にしました。
こちらがルーブリック評価になります。国際バカロレアのPYP校では、いわゆる教科書の知識をどれだけ正確に覚えているのかを測るためのテストは行わず、このユニットを通じて身につけて欲しい教科の知識や見方・考え方、ユニットで育まれた概念的理解や知識をどれだけ活用できているのかを観察し、評価を行っていきます。
まずは、学校の周りの地域の方や教職員や他の学年の児童にインタビューを行い、アンケート結果の集計を通して岐阜市の課題を発見するところから始まりました。そして、その中で自分が解決したい課題を選び、解決するためのマニフェストの作成を行なっていきます。
最初のリサーチとして、岐阜市が今起きている課題にどのように向き合っているのかをリサーチし、その上で市議会議員として提案することを考えていきます。
例えば、岐阜市の公園の現状について「公園が少ない」という声が上がっており、本当に数が少ないのかを確かめるために、校区ごとの公園数のリサーチ、次に自分の校区の公園を実際に訪れて、公園の様子(遊具と遊びに来る人の関係性等)を観察し、岐阜市の公園をよくするためのアイデアとして、雨でも遊べる屋根付きの公園というアイデアを生み出していました。
自分たちのリサーチした内容と政党名が繋がるような名前をチームで考え、4つの政党が誕生しました。「おもしろ公園党」「岐阜県民ナマズ党」「岐阜市民権利党」「SMD岐阜市議会党」
まずは、選挙をするにあたり、学校の先生、保護者や親戚の方、学校の周りの地域の方に自分たちの活動を知ってもらえるようにポスターの作成を行いました。
次に期日前投票に向けて、色々な人にポスターでは伝わらない具体的な公約の内容を知ってもらうために、各政党ごとに1分程度のプロモーション動画の作成を行ってもらいました。
また、選挙をするにあたって議論になったのが「選挙権」についてです。選挙権を何歳以上にするのかをクラス全体で話し合いを行いました。
▼議論の論点
子どもたちの選挙運動の成果もあり、全部で129票の票が集まり、校内の選挙率は80%を超えました。こちらが選挙後のリフレクションになります。今回のユニットのATLはコミュニケーションなので、コミュニケーションを切り口に振り返りを行いました。
今回のユニットでは政治と私たちの暮らしの繋がりについて探究していきました。小学4年生にとって政治は遠い存在であったのですが、ユニットの学習後に県議会の人が学校に訪れると、県議会の仕事に興味を持ち自分たちの考えたマニフェストのアイデアを伝える姿も見られました。ユニット前は選挙運動の音を聞いてもただ音が大きいと感じていた子供達が、ユニットを通して市議会も重要な仕事でとても大変であることを感じるようになったのではないでしょうか。夏休みの課題では、市民の役割としてできることを考えてアクションに移す課題を出すと、街を綺麗に保つために、ゴミ拾いをしたりするアクションを行なっていました。
これにてユニット1のレポートを終わります。いつも読んで頂きありがとうございます。