PYPにおけるリフレクション
今私は国際バカロレアの認定校であるサニーサイドインターナショナルスクールで小学5/6年生の担任をしており、PYP校としてどのように日々のリフレクションをしているのかを紹介していけたらと思います。
▼ 私の学校の時間割におけるリフレクションの位置付け
1日のルーティーンとしてリフレクションが子どもたちの生活の中に組み込まれています。具体的には、朝にその日のリフレクションの問いを自分で考え、異学年のハウスメイトと共有し、1日の終わりに自分の立てた問いに対して"書くことで"自分自身の行動や考えを振り返る時間が設けられています。ここで書くのは日記(感想や出来事の羅列)とは異なります。リフレクションと日記の違いについても考えるきっかけになればと思います。
WHYリフレクション?
「なぜ私たちはリフレクションをする必要があるのか?」
そのことについて自分なりの考えをまとめてみようと思います。
私なりの観点は2つあります。
① 自分自身の現在地を知ること
私がフィンランド留学中にサウナで現地の先生と話していた時の出来事を今でも思い出します。
奨学金をもらうために、日本の社会にある教育的な問題を解決するための留学計画を考えてきましたが、そこに自分自身の心と向き合うことができていなかったことに気づいた時間でした。この問いがきっかけに、私自身が何をやりたいのか/教育とどのように向き合っていきたいのかを改めて考えるようになりました。
上の図で言うと、「フィンランドで教育を学びたい」という気持ちを叶えるためには資金(奨学金)が必要でした。そして奨学金をもらうために「今社会にある問題を解決するための方法」にフォーカスしすぎて、自分がやりたいことを見失っている自分がいました。さらに、フィンランドの先生に「教育は一人でつくるのではなく、社会全体でつくっていかないといけない。」という言葉をもらった時に、自分は一人で何かをやろうとしていることに気づき、自分と同じ思いを持った人と繋がりたいと思うようになりました。
もし、社会の中にある教育課題(Need)だけをみていたら「教育を変えることは難しい。」と挫折していたかもしれない…「壁にぶつかって自分のやりたいことじゃなかったかも…」と挫折していたかもしれない…
もし自分一人で教育を変えよう(Want)と思っていたら、「社会の中で一人で空回りしていたかもしれない…」「自分一人では何もできないと挫折していたかもしれない…」
そう思うと、フィンランドの先生に大切な視点をもらったことが今も様々なカタチで変化しながら教育というフィールドに関わり続けていることにつながっているように思います。私は自分自身の経験からもゆっくりと自分自身を振り返ることで、自分自身の現在地を確かめる習慣をつけることが大事だと考えます。
こちらが6年生のある児童のリフレクションノートです。5年間自分自身の内面の日々の変化と向き合い言語化することで自分自身をメタ認知できていることが分かります。
(リフレクションノート)
次にIBで学んだ視点でまとめていきます。
② 自律的に生涯学び続ける人になること
全てのIBプログラムの指導の根幹にある6つの主要な教育原理に基づいた教師のアプローチの方法を考察していけたらと思います。
ここでは「探究を基盤とした指導」の考え方についてまとめていきます。
探究する人は、IBの学習者像の1つであり、上の図にあるような探究するプロセスを通して、子どもたちの好奇心を自然に育むとともに、彼らが自律的に生涯学び続ける人になるために必要なスキルと考えられています。
さらに、「探究を基盤とした指導」には大きく2つのアプローチがあります。
まずは、経験学習について説明をしていきます。経験学習の考え方は、1970年にコルブが経験学習理論(Experiential Learning Theory, ELT)を提唱し、この理論は学習が経験を通じて行われるプロセスであるという考え方に基づいています。コルブの理論では、学習が以下の4つの段階の連続的サイクルを形成すると述べており、学習者は次の4つのステップを通して自身の経験から学習していきます。
私自身も「体験ではなく経験」「体験から探究に」ということを意識して普段の学習活動をデザインしており、よくある「体験あって学びなし」という状況を生み出さないための教育的な仕掛けの重要性を感じております。
しかし、このコルブの理論は私が考えていた「経験」の定義とは異なり、コルブの理論では経験を「学習者が新しい経験や状況に直面するか、再解釈する」状況にあるかどうかというのがポイントにあります。
実際に教室の中では子どもたちは、大人と比較しても、日々のルーティーンの中に新しい経験や状況と直面する場面が多くあると思います。
教師の役割として、子どもたちが「新しい経験や状況に直面するか、再解釈する(=具体的経験)」状況が生まれるように環境をデザインする重要性を感じると共に、子どもたちがそのような状況にぶつかって失敗をしたときに、失敗をただ重ねるだけでなく、その次のフェーズである経験に関する洞察が得られるリフレクションの場(=観察と反省)をデザインする必要性を感じました。
実践
そこで、今5/6年生では新たな取り組みとして、毎週金曜日に「この1週間で学んだことを100文字以上で言葉や絵、図でまとめる」リフレクションの課題を出しています。
こちらが、コルブが経験学習理論を子どもたちにも分かりやすい言葉で少しアレンジしたものになります。
ここで大切にしているのは、自分自身の学びを言語化するときにどのような経験から学びを構築したのかを言語化(学びの一般化)するところです。どこかの資料に書いてある言葉をそのままノートに書き写すのではなく、自分自身や友達の経験をまとめて、自分が理解した言葉で表現できる力を育んでいくことを目指します。また、学んだ知識は別の場面で応用できて、初めて理解したと考えています。これがIBでいう概念的な理解で、1つの事象だけでなく、様々な状況で転移できる段階のものを知識と捉えています。
このリフレクションを初めて2週目の子どもたちのリフレクションを紹介します。この段階では、リフレクションの評価をルーブリックで示していなかったのですが、経験から学びを言語化し、別の状況に転移するアイデアや実際にやってみたことを振り返ることができている児童もいたので一部を紹介します。
▼ リフレクションの例①
この児童はインクルージョンについて考えたことをハウス(小学1年生〜6年生までは混合のグループ)での活動に活かすアイデアをまとめています。具体的には、今のハウスの現状をペンで表現し、どのようにしたらインクルージョンになるのかの具体的なアイデアをペンで考え、実際にハウス遠足で具体的なアクションをすることができました。リフレクションで得た知識がアクションに繋がった例になります。
▼ リフレクションの例②
この児童は、ハウス遠足での経験をリフレクションを通して知識に近づいているように思います。「迷った時は仲間と協力し合うことは大切」というアイデアがどのような経験から生まれたのかを具体的に書くことができています。「迷ったから大変だった。」という感想ではなく、経験を振り返ることで別の場面でも応用できる考え方を発見しているのが伝わってきます。
▼ リフレクションの例③
この児童も探究の時間に学んだ「インクルージョン」についての考え方を別の場面で応用しているのが分かります。遠足とインクルージョンはつなげて考える時間は探究の時間に設けたのですが、モーニンングミーティングという別の場面でも自分たちで工夫してハウス全体がインクルージョンしていく実践を自分たちで考えて実行することができているのが分かります。
今回のnoteでは「なぜリフレクションをすることが大切なのか?」について"①自分自身の現在地を知ること(メタ認知)②自律的に生涯学び続ける人になること"という2つの観点でまとめてみました。リフレクションの方法もたくさんあると思うので、是非様々なリフレクションの実践の共有もできるといいなと思い、今回私の学校と学級の実践を紹介させていただきました。是非、様々な教育現場の実践の共有の場が持てるといいなと思っています。
いつも読んでいただきありがとうございます。