日曜の午後の映画館。
日曜の午後、映画館へ出かけた。
人気俳優も多く出演している話題作とあって8割方の席が埋まっていた。
席について予告編を観ていたら、1席空いた左隣りの人が話しかけている気がした。
スクリーンからの音もあったし思い違いかもしれないと前を向いたままでいたら、左から僕のほうに身を乗り出してきた。清楚な雰囲気の若い女性だとわかってちょっと驚いた。
僕は、耳を彼女のほうに寄せて、聞き取れないんですというアクションをとった。
すると彼女は、僕の耳元で「すみません、『ラーゲリーより愛を込めて』はここでやるんですよね?」。
「そうですよ」
「ありがとうございます」
そして本編が始まった。
ちらりと左を伺うと、彼女はもうハンカチを両手で持って構えている。
泣く準備だ。
そして、かなり冒頭から彼女がハンカチを上下させているのがわかった。
ラストに近づくともう嗚咽。
これ的な人が、会場には案外たくさんいらっしゃるようで、小さな啜り泣きが集まって会場全体のムードを作るという実験場と化した。
被験者の僕も感涙。
20代の頃、山崎豊子の「不毛地帯」でシベリア抑留に触れてから、いくつかのノンフィクションを読んだ。
抑留された数十万人のうち数万人が亡くなった。それが今もって解明というか検証が進められないという、酷い話だ。
映画は、この惨事を次世代に語り継ぐという目的を果たしている。
それにしても。
音楽を聴いて鳥肌が立つような、そんな、感性に響く映画を、味のある役者を、スクリーンで見たいなあ。
口直し?
そんなことを思いながら映画館を後にした。