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アニー・エルノーの「嫉妬/事件」に圧倒された
小説の満足は共感に限らない。
これは、いったい何というジャンルに属するのかな。
考えていること、見えているもの。「私」のストレート過ぎる感情に目が離せなくなる。
「嫉妬」は、長年の付き合いの年下の彼に別れを切り出したのも同棲を終わらせたのも「私」なのに、彼が別の女性と暮らし始めたことを知って強烈な嫉妬に苛まれるという話。
「事件」は、中絶が禁止されている1960年代のフランスで妊娠してしまった「私」が、”処置”を終えるまでの話。
ドアに顔を向けて、便器の前にしゃがみこんだ。両の太腿のあいだにタイル敷きの床が見えていた。力いっぱい何度も息む。榴弾の炸裂のようにあれが飛び出してきて、羊水がほとばしり、ドアまで広がっていった。性器から、ちっちゃな胎児が赤っぽいへその緒の先に垂れ下がっているのが見えた。
「嫉妬」も「事件」もグロテスクで生々しい。
男性の僕は共感することはできなかっけど、ひたすら圧倒された。
”ストレート自伝エッセイ”とでも言えばいいのかな。