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カエルから犬への進化
わが双子の通う保育園では週に一回、水曜日にプールの時間がある。
近くのスイミングスクールで泳ぐため冬も関係なく泳いでいる。つまり一年を通して毎週泳いでいる。毎回プールの日は、二人は興奮気味にその日の成果を報告してくれる。私はその話を聞くと今日は水曜日だなと曜日を再確認するのが日課になっている。
話を教えてくれるのは決まって風呂に入っている時だ。
「今日は顔をつけたままバタ足できた!」
「飛び込みが上手くなった!」
「犬かきで遠くまで進めた!」
などなど。バッシャバッシャと実演付きで自身の成長を得意げに教えてくれる。狭い風呂の中で2人競い合って犬かきするもんだから、あっという間に風呂の水がなくなる。
水曜日は風呂の水の減りが速い。これも日課になっている。
しかし子の成長とは毎週聞いていても嬉しいもので、私は2人の話を聞きながら自分ごとのように得意げになる。久しく泳いでない私は、犬かきすらできるかあやしいが。
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先週。プールの見学会があるという。実際にどんなふうに泳いでいるのか、この目で確かめられる機会だ。この保育園は定期的に子の活動を見学させてくれるのでありがたい。話を聞くだけでは、いったいを何をやっているのか分からないときがあるので助かっている。
さてスイミングスクールに到着しプールサイドに向かう。何本もレーンが並び、若い人からシニア世代まで泳いでいるしっかりしたスイミングスクールだった。その一角に、双子たちのクラスのために確保されたレーンがあった。どうやらそこだけ、水中ステージのような巨大な平均台をプールに沈めてあるようだった。
子たちはしっかり準備体操をし、練習を開始する。私はまず、45分間もぶっ通しでプールをするという事実に驚いた。スパルタだ。しかし子どもたちは黙々とメニューを消化してゆく。一心不乱に泳いでいる。5歳にもなるとこんなにも体力が続くのかと驚いた。日頃、頭も体も鈍りきった私にはスパルタに映っただけのようだ。
さらに驚いたのは、飛び込む台の高さだ。水面から1メートルほどの高さに台がある。子がその上に立つのを見るだけで、私の脚がすくむ。コーチの合図で、一人、また一人と、ためらうことなく水に飛び込んでいく。子たちは、さすがに手からスッと飛び込むことは難しいらしく、カエルのような姿勢でバシャンと勢いよく水しぶきを上げ、そのあと犬かきに移行して泳ぐ。カエルが急速に進化して犬になるようだ。私なんてカエルのポーズのままゆっくりと台から退く自信がある。
最後のメニューは、プールに浮かんだボールを犬かきで集めてカゴに入れるものだった。プール版玉入れだろうか。腕を懸命に動かしながら、ボールを集めてはカゴに投げ込む双子の姿が見えた。お…うちの子が一番速いんじゃないか…?
親の色眼鏡だろうか。
きっかり10分、水中玉入れは行われた。最後にカゴの中のボールの数を数える。結果は、他の子の方がボールの数が多かった。親の色眼鏡だった。
家に帰って子に聞いたところ、ボールを掴むまでの犬かきは早いが、その後のカゴに入れるところでことごとく外してしまったとのこと。見ている以上に複雑な競技のようだ。
それはプールの練習だけでは上手くならないから、ボールを投げる練習をしようと約束した。
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思えば私の知る、子の水への親しみはせいぜい夏のビニールプールどまりだ。それが顔を水につけれるどころか、飛び込んで泳げるまでに成長していた。驚くべき上達スピードだ。家庭では 面倒で 手が行き届かない子の成長を補ってくれる保育園には感謝だ。一緒に育児をしていると言っても過言ではなかろう。
帰宅後、双子はまた目を輝かせながら夏には海に行って一緒に泳ごうよ!と言ってきた。
子の目の前で溺れないためにも、私もカエルから犬への進化を取得するしかあるまい。
おわり