やさしい世界の一つのカタチ|『夜明けのすべて』瀬尾まいこ著(文春文庫)
今回は、メンタルヘルスで悩んだことがある方に、特にオススメしたい本の紹介です。
ちなみに、実はこの本、わたしは一緒に働いたことのあるメンバーに勧めてもらった本でした。あまりにドンピシャで感激を通り越して思ったことは、「ズルい、それ(選書)わたしもやりたい!」でした。
表現者として、どうしても「悔しい」とか「これを越えられるか」みたいな発想になるのですが、改めて選書サービスって凄いですよね。*今回は選書サービスではないですが。
選書するためには、元々たくさんの本を知らないとオススメもできないわけで、かつ、ちゃんと相手を汲んで、合いそうな本をオススメするって憧れます。
著者の瀬尾まいこさんは、2019年に『そして、バトンは渡された』で本屋大賞を受賞。今回、『夜明けのすべて』で初めて瀬尾さんの作品に触れたので、そちらも読んでみたいと思いました。
「人に理解されにくいこと」を抱える人たち
主人公の美沙は、PMS(月経前症候群)に悩み、パニック障害になり生きがいを失った山添との日々が描かれます。
いつものことではありますが、自分自身も適応障害で休職した身としては、かなり刺さるものがありました。
ただ、ふと思ったのですが、なぜ、本人が意図しない”不幸”や”ハンディ”に敏感なのか、少し原点が見えてきた気がしました。
わたしの場合は、適応障害のこともあるのですが、原体験は小3のときにかかったぜん息です。それまで、フツーにやるだけでなんでも出来ていて、周りを見下していた自分としては初めての挫折を味わいます。
うつるような病気ではない。静かにしているときは元気(ここが超重要)。
周りからは気分で振舞っているように見えたと思います。わたしもわたしで、体育は見学しながらもやはり遊びたくなって少しだけ遊び、咳きこむ。そうすると、なんだ「走れるじゃん」という話になり、説明に困りました。
今でこそ、吸入薬や「コントロール」するものとしての治療法がだいぶ安定化してきていますが、「治る / 治らない」の価値観や「疾病」という観点でしか見れない人たちにとっては、一生付き合っていく”病気”というのは、理解できないのでしょう。
思えば、この辺りから「リテラシー」の重要性を痛感してきたのかもしれません。
突然、自分語りになってしまってすみません。ただ、正に「そうした人からは理解しにくい」話と本人の苦しみ、上手くやろうとする葛藤が描かれています。
本当のやさしさ、カッコよさとは
頼りなさそうに見える職場の人たち。そんな風に見ていた主人公の美沙は、あるとき、その見方が一変するような出来事に遭遇します。
また、これまた一見「優しいだけ、頼りなそうに」思えていた人の観察眼や懐の広さに感動します。
再度、話が飛んでしまい恐縮ですが、思い出したのは東野圭吾さんの『手紙』。
正直にすべて語ることが「誠意」ではない。それを押し付けるように免罪符にするのはどうかと思う。かといって偽るわけでもない。
距離感や価値観、そして、自分の思い込み。そうしたものがやさしく、しかし、しっかりと鋭く描かれる世界は、なんというか、とても心地よいものでした。
2024年に映画化された本作は、Netflixで見れることもあり、映画の感想noteも多く挙がっています。
ただ、本の感想という意味で、ご自身もパニック障害という視点で感想を書かれていたsnowさんの感想がメチャメチャ自分ゴトの目線でいいなと思いました!
映画の感想や「このシーンが好き」や、瀬尾さんの「この作品もオススメ!」など、ぜひ教えてくださいね!