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衝撃のしょぼくれマット・デイモン。ナイキのエア・ジョーダン誕生秘話「AIR/エア」映画レビュー

「AIR/エア」はスポーツ用品メーカー「NIKE」の人気バスケットシューズブランド「エア・ジョーダン」の誕生を描いた、実話を元にした映画だ。

自分はナイキのスニーカーは履いているが、バッシュは昔コンバースが流行っていた時に履いたことがあるくらいで、コレクションしたりもしていないのでそこまで興味がある訳ではないのだが、「視聴者満足度○○%!」みたいな煽りで宣伝されていたので、面白いのかな?とチェックはしていた。

ただ、”Amazonスタジオ製作”となっていたので、そのうちAmazonプライムで見られるかなと様子見していたら、もう見られるようになっていたので、配信で鑑賞させたいただいた。

映画は、マット・デイモン演じる、撤退寸前だったナイキのバッシュ部門の担当者”ソニー”が業績の立て直しを図るべく、まだスターになる前の新人選手”マイケル・ジョーダン”に目を付け、専属契約を結ぶべく奔走する ── といった感じの内容です。

序盤は結構、このバッシュ部門の残念っぷりをじっくりと描いていて、きらびやかなアディダスやコンバースとの対比で不人気だったことが明かされるのだが、自分は当時「エア・ジョーダン」前でも、尖がったイメージで、(品質はさておき)ファッションとしては魅力的なメーカーだと思っていたので、結構ピンチだったのかと意外な事実を知り驚いた。

また、主演のマット・デイモンが、そんな重暗い雰囲気の職場を象徴するようなしょぼくれた中年太りのおじさんとして演じており、「ボーン・アイデンティティ」シリーズや「オデッセイ」のシュッとしたイメージが強かったため、その役作り(ですよね?)には、同年代の人間として頭が下がる思いだった。

そして彼は、部門の起死回生の一手として次のスポンサー契約する選手に、あの「マイケル・ジョーダン」を指名するのだが、他社も目を付けていて契約金が足りず、通常リスク分散のために複数の選手と契約するところを彼だけに予算を集中させるよう提言する。

まだスター選手になる前で、海の物とも山の物ともつかないジョーダンに全てを委ねることに懸念を示す他の社員を尻目に、ベン・アフレック演じる旧友のナイキCEO”フィル”に、会社創立時の理念を忘れたのかと決断を迫る ── みたいな感じで展開していきます。

方針決定後も、ジョーダンサイドに他社との契約の意向があり、プレゼンの機会すら与えられなかったりするのですが、代理人の制止も無視して直接ジョーダン家を訪れ、強引にプレゼンのチャンスをものにすると、自社の匠の職人”ピーター”に試作のシューズ制作を依頼し、ジョーダンの琴線に触れるようなデザインを生み出す様子が描かれるのですが、ここのエピソードが面白く、感心しました(以下ネタバレです)。

ファンには有名なエピソードなのかもしれませんが、ジョーダンの所属するブルズの赤を基調にしたいというソニーのリクエストに対して、ピーターはNBAの規定により白の割合が決まっていてできないと返すのだが、「ならば毎試合罰金を払えば良い、逆にそれが宣伝になる」と意見を押し通してしまいます。

後でプレゼンが成功して、契約が締結される際にこの話を持ち出され、フィルが「なんだ、聞いてないぞ!」と憤慨するオチが付くのですが、この保険を掛けずに自らの信じた道を進み、リスクを背負って決断していくという流れが気持ちよく、この手の誕生秘話で視聴者が期待するロマンが感じられ、胸熱でした。

予算がないナイキとしては契約金が他社に並んだだけで、依然不利な状況で、デザインもジョーダンをその気にさせるには役立ったと思いますが、最終的に締結まで行けたのは実際の契約を取り仕切っていたステージママ風のジョーダンの母親との間で交わされた、イニシャルとは別に「エア・ジョーダン」ブランドのシューズが1足売れるごとにいくら支払うといった、ロイヤリティ契約にあったように思います。

別記事でレビューした「テトリス」でも、「資金が尽きたからこれ以上の契約金は出せないが、その代わりカセット1本あたり25セントのロイヤリティを支払う。これは大手にはできない契約だ!」みたいな感じで契約を勝ち取るシーンがありましたが、これも実際に売れなければ絵に描いた餅で、権利者側も相当に自信がなければ決断できない内容だと思うので、ジョーダンママはよほど息子を信じていたか、むしろそれこそが正当な評価だと感じていたのかもしれません。

また、契約を勝ち取った後、ナイキ側が「これは悪魔の契約をしてしまったかもしれない。今後はこの前例を元に皆強気な条件を吹っかけてくるだろう」と契約社会の将来を憂うような発言をしていましたが、そんな時代の移り変わりもさりげなく描いているところも、なかなか味わい深い映画だなと感じました。

そして、この映画の監督はなんとCEO役で出演しているベン・アフレック自らが手掛けているとのことで、何とも多才だなと感心しました。

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