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エポックメイキングな手法で現実を超えた「THE FIRST SLUM DUNK」

昨年12月より公開された、ジャンプ黄金期を支えた人気漫画「SLUM DUNK」を原作とした、完全新作のアニメーション映画「THE FIRST SLUM DUNK」が、先日2/7日で興行収入100億円を突破したそうです。

公開に前後し、声優交代や内容を明かさないプロモーション手法等への批判が目立ち、自分も様子見していましたが、実際に公開された後のレビューがまた賛否両論だったため、ワンピ同様これは自分の目で確かめたいと思い、公開翌週に足を運びました。


はじめに

まず、自分の「SLUM DUNK」に対する思い入れについてですが、ドンピシャ世代からは若干離れていて、個人的に思い入れが強いということはないのですが、以前の投稿で少し触れた漫画家のアシスタント時代がまさに連載中で、同期にめちゃくちゃハマっているスタッフがいて熱く語られていたので、要チェックはしていました。

自分の印象としては、まず絵が上手い(特にドラゴンボールと双璧なくらい、デッサンがしっかりしている)、展開が上手い(ここは決めるんだろうな・・の流れで花道が盛大にやらかす、みたいな読者の予想を2割り増しくらいで小気味よく裏切るみたいな感じ)、そしてコマ割りがデカい、というのも感じていました。

最後のはたぶんコミック派の人は感じていないと思いますが、連載で読んでいると紙面のサイズ感も違うので、他の漫画と比べて一コマが大きく、「その分迫力はあるけど、毎回一瞬で話が終わるんですけど!」と思っていました。

しかし、後日コミックで見直した時にちょうど良いサイズ感で読みやすく構成されていることに気が付き、初めから単行本で読むことを計算していたのかと驚きました。

監督、井上雄彦

それで、今回の映画についてですが、既に公表されている通り、本作は原作者の井上雄彦先生自身が脚本・監督を務めた作品となっています。

やはりここが今回の映画公開時の炎上に繋がっていて、またその後評判となり、こうして100億超えたのもまた同じ理由によるものと思われます。

井上雄彦先生の作品という意味では、自分は「SLUM DUNK」以降の、それこそWebで連載していた「BUZZER BEATER」や、青年誌に舞台を移した「リアル」「バガボンド」の方がなじみがある位でしたが、「SLAM DUNK」以降の作品はキャラクターの内面を深く突き詰めていく描写が目立ち、これ以上どう向き合えば良いの?という感じになっていくので、現在、後ろ2作は休載中ですが、続きが書けなくなってしまうのも良く分かります。

「BUZZER BEATER」では途中で作者が怪我をしてペンを握れなくなってしまい、作画がペンからマジックに変わるなんてことがありましたが、この辺りも後の「リアル」に繋がっていたのかなとか思っていました。

TVアニメの続編× 原作漫画の新作〇

TVアニメの「SLUM DUNK」は、世代じゃなかったというのものありますが、原作のテンポの良さや迫力と比べると、どうしても試合中の使い回しや繰り返しのカットとかが気になってあまり入り込めなかったため、ちゃんと見ていませんでした。

つまり、声優変更重いストーリーといった巷で燃えていた要素に関しては、それぞれ心構えができていたので、引っかかることなく楽しめる準備ができていました。

ちなみに、主人公の変更についてですが、井上先生は手塚賞に入選した「楓パープル」というバスケ漫画でデビューされたのですが、この漫画は「SLUM DUNK」の習作といった感じで、設定もいろいろ被っているものの、主人公は流川で花道はいませんでした。

おそらく、連載に当たって読者が感情移入できる存在として花道というキャラクターが設定されたのでしょうが、「鬼滅の刃」でも連載前の似た世界観の読み切りでは天才肌の富岡的ポジションのキャラクターが主人公だったものの、編集部の反応が鈍くて炭治郎が主役になったなんて言う話もありましたし、作者的には絶対的な主人公みたいな考え方は無かったのかもしれませんね。

新作としてのアイデンティティ

そして、肝心の映画についてですが、既に良いところはさんざん語りつくされているので、あまり語られていないところで自分がうおぉっとなった部分についてコメントすると、カメラ(アングル)がすごいな、と感じました。

3D作画により、キャラクターの動きがリアルになったり、コート上の10人の動きを同時に表現できるようになったことで、試合中の臨場感や空気感が感じられるようになったりといったことももちろんなんですが、それだけであれば実写や実際の試合を見るでも良く、アニメでやる意義というものが感じられなくなってしまいます。

この作品がすごいのはそうしたリアリティを追い求めつつも、試合をよりダイナミックに、キャラクターに寄り添うように時にカメラがコート中に降り立って、選手と同じ目線に立ったり、場合によっては地面に近いようなアングルから選手たちやボールをとらえることで、現実では体験しえない映像を作り出すことに成功していることです。

公式のインタビューを見ても通常のアニメのように絵コンテを描かず、CGのバーチャルカメラでビデオコンテを作って作り込んでいったことが明かされていますが、この掘り下げが今のロングランに繋がっているのは間違いないと思います。

シン ≒ THE FIRST?

シンエヴァのドキュメンタリーでもビデオコンテでアングルを突き詰める安野監督の様子が象徴的に放送されていましたが、「シン・ウルトラマン」ではこの作業に参加できず、満足いくアングルが得られなかったことがあけすけに語られており、その後に発表された「シン・仮面ライダー」の予告編を見ると、緊張感のあるカットの連続で、やはりその辺は素人には分からない違いがあるのかなと感じました。

こうしてみると、監督が見ているのはアニメーションとしての「SLUM DUNK」ではなく、原作「SLUM DUNK」の新作を”アニメーション”として表現するにはどうしたらよいか?で一貫しており、だからこその「THE FIRST SLUM DUNK」だったんだなと腑に落ちました。

そして未来へ

以前にCGアニメ「スパイダーマン:スパイダーバース」を観たときにも、リアルCGからセルルック、カートゥーン調など、様々なタッチのスパイダーマンが同じ画面に同居しながら自然に物語が進行する様に、かなりショックを受けた記憶があります。

この時はもう日本のアニメも終わりかと少し悲観的になりましたが、最近では「ドラゴンボール超 スーパーヒーロー」など、日本のCGアニメもクオリティが上って来ていて、プリキュアのCGダンスの蓄積が花開いてきたのかなと感慨深くありましたが、ここにきてまた一つエポックメイキングな作品が誕生して、日本のアニメーションの未来にも希望が見えた、そんな風に思えた作品でした。

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