じゃない方ゲー人による、平成ゲーム業界回顧録 #24
「ファミコン・スペースワールド」はゲーム機が乱立して、「東京ゲームショウ」にその座が移り変わるまで中心となっていた家庭用ゲームの展示会で、”初心会”という任天堂と取引のある問屋の集まりが主催していた。元は小売り向けに商品を売り込むための商談の場だったこともあり、一般ユーザー向けの公開は後付けのサービスみたいなものだった。
それでも、ファミコン・スーパーファミコンの新作がいち早く遊べるということで、一般公開日には数多くの家族連れのゲームキッズたちが訪れ、大手メーカーの人気ブースはもちろん、そうでないメーカーのゲームにもそれなりにお客さんが集まり、手を触れるようになっていた。
そして、「ドラゴンズ・アース」のデモ機の元にもそこそこの人が通りがかり、コントローラーを手にしてくれていた。
僕も、みんながどんな反応を示してくれるのか興味津々で、声を掛けたい気持ちを抑えながらゲーム画面を見上げる子供たちの様子をそっと遠巻きに横目で眺めていた。
しかし、そこで見た子供たちの反応は、自分の予想を裏切る冷めたもので、僕はその場に立ち尽くし、展示会が終わるまでの長い時間をいたたまれない気持ちで過ごすこととなった。
子どもたちは他のブースで「ストⅡ」や「ロックマン」など、人気のアクションゲームを遊んだ上で僕らのメーカーのブースに来ており、彼らがやることは決まって”ボタンを連打”することだった。
ドラクエやFFも人気になってきていたとはいえ、大半の人はボタンを押せばパンチや弾が出るなど、すぐにわかりやすい反応があると思っているから、バシバシとボタンを叩くのも理解できる。ただ、「ドラゴンズ・アース」は連打ではプレイが全く進まない操作方法だったので、ゲーム内容を理解してもらう前にコントローラーを投げ出してしまうチビッコが続出した。
たまに関係者と思わしき年配の人や、ゲームに情熱を傾けているオタク層のお兄さんたちが興味を示して、熱心に操作法やゲームシステムについて質問してくれていたが、キモであるドラゴンと戦えるようになるまでは軍勢を整えるなどそれなりに準備も必要で、展示会のデモプレイの短い時間でその魅力を伝えきるのはなかなかに困難だった。
「慣れれば楽しい、分かれば面白い」と高を括っていたが、僕やチームの皆はそれこそ独特な操作法にも慣れていたし、分かって作っているので、すでに初見の感覚を忘れてしまっていた。また、慣れている前提でさらに操作が便利になるように、「〇〇ボタンを押しながら××する」といったショートカットの操作も追加していったので、分かって遊んでいる分には快適でも、傍から見ている人にはますます何やってるかよくわからないという悪循環に陥ってしまっていた。
ボタンを連打してゲームが進まないことにイラついて舌打ちしたり、興味を持ってプレイを始めてくれた人がゲーム内容を把握できずにスッと真顔になって静かに去っていったりと、来場者のゲームへの正直でリアルな評価に、やるせない思いが募っていく。
「分からないからつまらない。つまらないから慣れようもない」という、結構どうしようもない状態になっていることに否応なしに気づかされた僕は、どうやって巻き返しのためのテコ入れをすれば良いかについて思いを馳せながら、トボトボと重い足取りで展示会を後にした。
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