走りながら、ととのえる
「走りながら、治していきましょう」
毎日のランニングの影響で右足のかかとの痛みがひどくなり、整骨院に行った時の先生の言葉です。
それから一ヶ月が過ぎた今、これはなかなか奥の深い言葉だと感じています。
痛い時は休む?
ランナーにとって故障はつきもの。走ることを趣味にしていると、かかと、膝、腰などいつもどこかに痛みやその予兆を抱えているものです。
そんな時に一般的に推奨される対処法があります。
「休む」ことです。酷使して負荷がかかり過ぎた身体をまずは休めること。痛みを感じながら走り続けては痛みは激しくなる一方なので、とてもわかりやすい対処法です。
でも実践するのは意外と難しい。
ランニングを行う目的は人によって異なります。私の場合はマラソン大会に向けたトレーニングのためであると同時に、心身のリズムをととのえるためでもあります。(朝、ランニングをすると気持ちが前向きになって新しいアイデアが浮かんだり、複雑な状況をシンプルに考えられるようになります)だから、一定期間休むということはせっかく積み上げてきた走力が落ちてしまうだけでなく、生活リズムを崩してしまう不安もあります。休むことはとても勇気がいることです。
今回の痛みの個所は「かかと」。かかとの痛みにはさまざまな症状があります。例えば足底腱膜炎(そくていけんまくえん)。これは着地の衝撃を吸収する足底腱膜という筋肉が着地時に何度も打ち付けられたり、他の筋肉に引っ張られたりする負荷によって小さな断裂や炎症を起こす状態のこと。ひどい場合はかかとの骨に、骨棘(こつきょく)というトゲのような突起ができて痛みが増すそうです。
想像しただけで痛くなります。
痛みの原因
「どれくらい休まないといけないのだろう。フルマラソンに出られなくなったら嫌だなあ」整骨院の診察台の上で私はそんなことを考えていました。
先生はうつぶせになった私の右足のアキレス腱から腿(もも)、腰にいたる筋肉の張り具合をチェックしていきます。その後、起き上がって両足を前に投げ出した状態で左右のふくらはぎの接地面積の違いなども見ていました。そして足踏みをした時の右足かかとの着地時の動きなども。
「走るのはしばらく休まないといけないですかね」
おそるおそるたずねた私に先生はこう答えました。
「走りながら、治していきましょう」
新鮮な対処法
「走りながら・・・」という対処法は私にはとても新鮮でした。
よくよく聞いてみると、私のランニングフォームには癖があるとのこと。右足が地面に着地する際に本来よりも少しだけ内側に接地する傾向がある。その状態で次に地面をけり出そうとすると今度は足の裏が外に傾く。結果、アキレス腱から腿、腰までつながる足の外側の筋肉が緊張して、かかとの筋を引っ張ってしまう。
仮に休んで痛みが和らいだとしてもランニングを再開すると症状は繰り返すことになるはず。
したがって、走りながら、治していく。
右足の外側の筋肉をマッサージでほぐし、かかとを引っ張る力を弱めつつ、足の腿の内側の筋力を鍛えることで地面をけり出す時に足の裏が外に逃げないようにするということでした。
走りながら、ととのえる
それから一ヶ月。
走ることは続けながらも、右足の痛みは次第に消えつつあります。長距離を走った翌日は少し痛みを感じることはあるのですが、アキレス腱から腿裏の少し外側を中心に自分でマッサージを行うとその日のうちに消えてしまいます。
右足の接地時の癖に気づくことができたので、少しづつ自分で足の運びを調整しながら、心地よく走ることができるフォームを見つけだそうとしています。
「走りながら、治していきましょう」
改めて考えてみるとこの言葉はとても奥の深い言葉であると思います。日々の生活のさまざまなシーンに当てはめることができそうだからです。
自分には今まで生きてきた中で培われてきた思考の癖のようなものがあります。それは無意識の思い込みともいえるものでしょう。
人とのコミュニケーションがうまくかみ合わないと感じたり、人の言葉にもやもやしたり。そんな時は自分の思い込みに気づくチャンスでもあります。
走りながら自分のランニングフォームの癖を知って修正したり、余計な筋肉の張りをほぐす習慣を身につけることで痛みをやわらげていく。
日々の生活においても、人との対話の中で生じるもやもやの一つひとつを丁寧に眺めてみることで、自分の思い込みに気づくことができるはずです。それをきっかけに思い込みを修正し、それにもとづく自分の言動を少しづつととのえていくこと。
つまり、「走りながら、ととのえる」
ランニングの経験をこんな言葉に置き換えて自分を見つめなおしてみると、日々の生活が昨日より少し豊かでわくわくするものになっていきそうです。
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