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読後感想 原田 剛著『三円小説』

<後日談>
実は、この感想の記事を書いた後、版元の金風舎の社長からご連絡をいただき「著者の原田剛さんと会って、記事を書いてもらえないか」と、大変ありがたい打診をいただきました。もちろん、二つ返事でお引き受けしました。(というか、いいのかなぁという気持ちですが...。)

三円小説』は、現在全国の書店での流通を準備中とのこと。

それに合わせ、金風舎さんのnoteでの『三円小説』紹介記事を準備しています。5月下旬以降、以下からご覧いただけます。

「三円小説」マガジンもあります↓

こちらもよかったら是非遊びに来てください。

ということで、改めまして読後感想、こちらから始まります。

* * *

別に母の日だからというわけではないのだけれど、親子で読んだら楽しそうな本を見つけました。

その名も、『三円小説』。
一話10秒前後で読める超短編小説です。

恋愛、推理、SF、ミステリー、歴史物、ホラー、ファンタジー、社会風刺、ブラック、エロティシズム、BL、百合、パロディ等々、ジャンルを問わず様々な“料理”を飾らず提供・・・すなわち〝文学食わず嫌い〟のための大衆食堂であり、決して高級料亭ではない。(三円小説、三箇条より)

それは、ちょっとお節介な親戚の叔父さんからの手紙のようです。
気取りもなく、高圧的でも説教くさくもなく、時折オヤジギャグで強制的に笑わせられるけれど、実は人生の悲哀や滋味が存分に込められている。

受け取るであろう甥っ子や姪っ子の顔を想い浮かべ、鉛筆を舐めながら書いている様子が目に浮かぶようです。

インスタから紙の本の出版へ

『三円小説』は、もともとインスタグラムに投稿され、7,000フォロワー、24万いいね!を獲得した人気コンテンツ。反響が大きかったことを受け、書籍化されたそうです。その親しみやすさは、SNSならでは、とも言えるでしょう。

いや、むしろ三円小説の構想が最初にあって、たまたまインスタグラムというプラットフォームがそれにぴったりだったという方が妥当かもしれません。

それは作者である原田剛さんの自伝的絵本『小学生のボクは、鬼のようなお母さんにナスビを売らされました。』に見られるようなご自身の生い立ちや、三円小説に至る彼の思いなどが大きく影響しているように思います。

家族の原風景とコロナ時代

「家族」という最も親密な人間関係は、世界の裏側でも、顔の知らない人でもコンタクトできるインターネットの登場により、ここ2、30年で変質し、崩壊し始めました。人間の生きる根本をなしてきた人間関係の崩壊は、誰も予想だにしなかったことでしょう。

田舎で農業に従事する年老いた両親。貧しくても笑いの絶えない家庭――。
前述の『小学生のボクは…』にみられるような昭和の典型的な、温かく慎ましい家族の風景は、いまや郷愁以上の貴重な価値が出てきているのではないでしょうか。

そこへ、コロナがやってきた。

これまで身を寄せ合って暮らしてきた、一人では何もできない人間が、今度は独りでいることを強いられた。いや、オンラインで、なんなら今まで以上に繋がれるじゃないか、と言う人はいる。でも画面上の人の姿は、あくまでも光の刺激であり、リアルに「出会う」感覚とは程遠いはずです。

私たちは、オンライン会議の時、空想で相手の体が目の前にあるように補い、まるで実際に会って話しているかのように「演技」しています。だから、オンライン会議はものすごく疲れるのだと思います。

独特のリアルさ

それに対して、『三円小説』にはちゃんとリアルさがある。そのリアルさは、原田さんの身体感から来ています。農家で野良仕事を手伝った少年期から、しっかり身体を使って生きてきた、いろんなことに丸ごとぶつかって生きている人ならではの密度があります。

『三円小説』の親密さが独特なのは、読んでいる私たちに、原田さんの身体感がリアルに感じられるからに他なりません。

それは、良くも悪くも、原田さんが一切取り繕っていないからだと思います。だから、オンライン会議で相手のことを空想で補うような「疲れる」部分がないし、「自分はこんな人」「自分はこう思う」という押し付けもない。

映画評論家の佐藤忠男は、文体とは、特段意識しなくても、書く内容によって自ずと決まってくるものだと述べています。

読者は常に、目の前で「こんな話あんねんで」と話している、等身大の原田さんを感じることができる。そして、それが自ずと独特の文体を作り出し、味わいとなっています。

読者は、その親しみやすい文体に知らず知らずに引き込まれ、時には笑い、ちょっと感動しながら、「まぁ、こういう人生も悪くないな」と、いつの間にか自分自身の人生まで味わい直したりするのです。

真桑瓜

父が給料日に買ってくる
メロンが好物だった。
 おとなになって、
あれは安価な
マクワウリだと知った。

当時の父の思いが胸に去来した。

 来月、父の墓参りにマクワウリを買おう。
ネット販売

田舎に帰省して、
祖母の手づくり味噌のとりこだ。 
 どっぷり都会に染まったわたしは、
野暮ながら祖母に提案した。
「この味噌はネットで売るべきよ」

意外にも祖母はにっこり頷いた。
 翌日の台所には
網で包まれた味噌玉が並んだ。

(原田剛著『三円小説』金風舎刊より。太字は、書籍では文字の横に点を打ってあります)

ふたたび家族の原風景へ

先述の家族のつながりの希薄さは、コロナ禍で少し変化したようです。
ステイホームで、家族といる時間が、否が応でも長くなり、オンラインで遠方の人と繋がっても沸きらないものが、リアルに会って、密なやりとりをすることにより、簡単に解消されることがわかってきた。

一度そのことに気づき始めた私たちは、もう接触感のない、ひとりぼっちには耐えられない体になってしまった。というか、最初から耐えられなかったことに気づいたのです。

三円小説のススメ

『三円小説』は、そんな私たちに直に接触し、身体ごとぶつかってきます。1話たった10秒で読めるのだから、気忙しい私たちにもぴったりです。
余計なお世話を焼いてくる親戚の叔父さんみたいに、予想外のところから私たちを突いてくる。油断も隙もあったもんじゃありません笑

「え?その視点?そうくるか!」と、驚きながらも、いつの間にか、モノの見方がズラされる。頭に来る上司や、ややこしい夫婦関係も、「まぁいいか」と思えてくるから不思議です。

そういった意味では、コロナ禍で最も親密な書籍と言えるのかもしれません。

「読むクスリ」という本がありましたが、『三円小説』は「読む蜜」ですね笑

リアルに接触はしてないから、ウィルスも手の出しようはないでしょう笑

せっかくの母の日、『三円小説』で親子の会話を弾ませるのもいいかもしれません。今から買いに行けない?だったらこちらで、なんと100話どどんと公開しています。まずは入り口として、いかがでしょう?

もしくは、蔓延防止措置が延長され、人に会えなくて、飲みにいかれなくて鬱々としているかもしれない、あなたの大切な人にプレゼントしてみてはいかがでしょうか。


*トップの画像は、オーストラリアにいる長女から母の日のプレゼント。
嬉しくてニヤニヤしながら眺めています笑



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