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生きた調律〜豊かさは指先から全身へ〜
年に1、2度、ピアノの調律をお願いしているOさん。
ウチで主に弾くのは、末っ子。私は聴く専門です(笑)。
この調律師さん、常に新しい手法を開発されています。
誰かから聞いたことじゃなくて、ご自身で思いついて実行することがほとんどだそうです。
いつぞやは、調律するときには「アーベーツェーで」とおっしゃって、度肝を抜かれました。
そして前回は、母音・子音と音色の話。
指が動く調律
今回は「指が止まる」のではなく「動く」調律に挑戦されたとのこと。
ええ!?どういうこと?
と思って根掘り葉掘り聞いてみました。
ピアノを弾く指は、常に動いている。
ポーンと音を出した後、指はそのままじっと止まっていることがない。
動くんです、と。
だから、「指が動く」ことに合わせて調律すべきだと。
それでもいまいちピンとこなくて、弾いてみてもらいました。
「これ、止まってる音。こっちは動く音。」
3回くらい弾いてもらって、ようやく違いがわかった。
つまり、動く音のほうが、膨らみが出る。
あくまでも感覚的にですが、聴いているこっちのお尻とか、お腹の辺りが膨らんでくるのがわかります。
感覚が先行して、音色に膨らみを感じる。
確かに、体験してみるとこの違いの大きさはわかりますが、ここまで感じて調律する調律師さんは少ないそうです。
それぞれの指は全て違う音色を持っている
「ピアノの譜面に、よく指の番号書いてありますよね。あれ、ただ弾きやすいだけじゃなくて、その指で弾く意味があるんです。」
つまり、左手・右手はもちろん、10本の指で出す音色が全て違うんだそうです。
「指は片腕で5本、合計10本ですよね。なんで10本あるんだろう、って考えたんです。」
指にはそれぞれ役割がある。だから、それぞれの指で音が違うということだと。作曲家は、おそらくそれを理解して、指の番号を振ったんでしょう、と。
「だから、昔の譜面に書いてあるような指の番号で弾くと、全く違うことがわかります。」
すごい話ですね。
けれど、確かに指と身体(胴体)はつながっていて、それぞれの指に響き合う身体の部位がある、と聞いたことがあります。
「つまり、十全にそれぞれの指の機能を使った弾き方をすれば、全身使って弾いたのと同じになるってことですか?」と聞いたら、
「そうなりますね。」とのお返事。
調律、奥深いなぁ。深すぎて戻れない(笑)。
ピアノの弾き方も、文化や体格などによって変わる
「日本のピアノはもともとロシアから習った。
ロシアの弾き方は、力強く重力をかける弾き方。どこまでも深く地面を掘るイメージです。」
しかし、日本人はロシア人とはそもそも体格が全く違う。
だから、そのやり方だと中途半端になる。
「じゃあ、日本人はどう弾けばいいんですか?」と聞いてみたら、
「手首の力を抜いた状態で固定し、指先で弾く。
空中から指を落とし、そのまま弾くんです。そのときに腕や指、手首に力が入らないようにしないと。」
末っ子が早速その通りやってみましたが、かなり難しそうでした(苦笑)。
でも、たまにうまく行った時の音が、素晴らしくいいんです。
輪郭がはっきりして、しかもふくよか。
末っ子は、また新しい課題を頂戴して、やる気が出たみたい(笑)。
カティア・ブニアティシヴィリ
最後に、最近いいな〜と思うピアニストを教えていただきました。
カティア・ブニアティシヴィリ。
グルジア生まれ、パリ在住の若きピアニストです。
実は、今までベートーヴェンには大して興味が湧かなかったんです。
でもこの演奏聴いて、ほぼ初めていいなぁって思いました。
ベートーヴェンの力強さ、生命の膨らみみたいなものが、
引き摺り込まれるようなグルーブ感を生み出している。
「豊かさ」ってこういうものだよ、って教えてくれるような演奏。
「この世に生まれてよかった!」
って、大袈裟でなく思えました。
外は土砂降りですが、おかげさまで、なんだかいいゴールデンウィークのスタート。
みなさまよき休暇をお過ごしください。