【古典邦画】「歌行燈」
大正時代に素晴らしい前衛作品「狂つた一頁」を撮った衣笠貞之助監督の、1960(昭和35)年の大映のカラー作品「歌行燈」。
原作は泉鏡花だが、前に成瀬巳喜男監督の同映画(昭和18年)を観た。今度は、当時の二枚目大スターの市川雷蔵と山本富士子が主演。
芸事に生きる男女の悲哀と生き様を描いた素晴らしい古典文学である「歌行燈」。成瀬巳喜男監督作品もそうであったが、苦悩する環境に身が置かれるからこそ、芸事に磨きがかかる、身に降りかかる理不尽を芸の昇華で覆すという秀逸な作品であった。
早朝の森林の中で舞の稽古に汗を流す2人の情景の、靄がかかってなんと幻想的で、どこかエロチックで、美しいことか。
能という芸事の世界は全く知らないが、盲目の師匠を自殺に追い込んだ他家元の息子・喜多八(市川雷蔵)が破門されて放浪、芸妓に身を落とした師匠の娘・お袖(山本富士子)と出会い、喜多八はお袖に舞の稽古をつけることになり、2人は想いを寄せるが…。
ラストの、喜多八に舞を教わったお袖が、懐中に覚悟の毒を忍ばせて、客(実は喜多八の父親)の前で舞を披露するが、その見事さに客は感動して、破門された喜多八もそれに魅入られて姿を現す、というクライマックス・シーンはとてもドラマチックであり、ストイックに芸事に身をやつすことの厳しさを表現している。
しかし、芸者遊びって風情があってイイなぁ。泉鏡花も大好きだったんだね。
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