正義は誰に在り:ホリー・ジャクソン三部作感想
ホリー・ジャクソン三部作との出会い
今夏の某日、手元の積読が少なくなってきたので、父が読み終えたミステリの山をごっそり借りることにしました。
その山の一層だったのが、ホリー・ジャクソンの『自由研究には向かない殺人』でした。「自由研究ってことは夏休みの話でしょ。夏休みのない私に夏休み気分を味わわせてもらおうじゃないの」と、わざわざ8月1日から読みはじめ、作中で早々に夏休みが終わって「日本で言う自由研究と違った!!!」とようやく気づいたのはご愛嬌。
そんなノリで手に取ったのに、結末に至るまでの重厚な過程にすっかり魅了され、父がこの1作目しか買っていなかったことを嘆きながら残り2作(+前日譚)をまとめて買って読み通したのでした。
ちなみに、同じくミステリの山の一層だった、アンソニー・ホロヴィッツの「ホーソーン&ホロヴィッツ」シリーズと交互に読んでいました。ベクトルの違う良質なミステリを交互に浴びるのはメンタルにいいと思っています。
三部作+前日譚の感想
読み終えて、ついった(自称えっくす)に投稿した三部作+前日譚の感想です。
『自由研究には向かない殺人』
日本で夏休みに行う「自由研究」とは異なっていたので、第一章で夏休みが終わってアレェ!?と思ったのは秘密です。あと犬が犠牲になるので要注意だぞ!!!
それなりに複雑で長い構成だったけれど、とにかく読みやすくて、どっぷり物語に浸れました。書評にもあったように、主人公ピップがクレバーで真っ直ぐなところがすごく良かったです。ラヴィとの信頼関係もぐっと来ました。
とはいえ、身近な人物が次々容疑者になっていくのはハラハラしました。サルの無実を証明したい一心でパンドラの箱を開けていくピップには、好奇心以上の何かがあったように思います。
2024年8月10日
『優等生は探偵に向かない』
いま起きている失踪事件を配信するのはリスクがあるよなと思っていたら、まさにの展開で天を仰ぎました。あとYouTube配信ではなくPodCastなのが文化の違いだなと思ったけれど、クソリプは人類共通なんだなと遠い目をしてしまう。
ネタバレありで言うと。
「自分が正しいとわかっていても、みんなにどう思われているかが気になる?」
いい言葉だと思ったんだけどな……ッ!
2024年8月22日
『卒業生には向かない真実』
1作目の事件からつながっていたことにも、アンディの心奥にあるものに触れられたことにも感嘆するのですが……第一部終盤からの展開が本当に、お約束からは逸脱していて、でもたいへん好きです。
ネタバレありで言うと。
第一部でもうDTキラーの正体が判るなんて早いと思ったらさあ!!! 逃げ出すまではお約束に見えていたのに、その後の「輪を断ち切る」行動が、驚きと納得でした。結末も好きです。正義ではなかったとしても、筋を通したのだと思います。
何がうれしいって、ラヴィだけじゃなく、カーラとナオミ、コナー、ジェイミーそれにナタリーがピップの頼みを聞いてくれるところ。同じ痛みと哀しみ、そして同じ憎しみがあったからとはいえ。悪党が身に覚えのない悪事で投獄されるのが報復のニューウェーブだなって思います!!!
2024年9月2日
『受験生は謎解きに向かない』
前日譚だし、ラヴィが出てこないし……と思っていたけれど、前日譚だからこそ三部作の伏線が散りばめられていて、読むとニヤリとする要素が満載でした。「矛盾のない真実」を求めるピップがあまりに清い。
2024年9月9日
+
Netflixで【自由研究には向かない殺人】、観ました。
実写ピップと実写ラヴィはイメージ一致でした。
一方で、実写ピップと実写ラヴィは解釈不一致でした。
ピップがサルを疑っちゃダメだし、そもそも義父の不貞を疑うという余計なエピソードを入れないでほしかった。アモービ家だけは揺らがないのが物語の安全地帯だというのに。ラヴィも簡単にピップを置いていかないでしょうよ。
あと、原作未読・ドラマ履修済みの友人から「吹き替えで観たら、コナン方式で犯人判っちゃった」と言われ、実際に観てウワァと思いました。この作品は疑いが強まったり弱まったりするのがキモなんだからもうちょい隠す努力をしよう!!!???
2024年9月1日
ピップが求めていた「正義」は誰に在り?
三部作+前日譚を通読して、これは女子高生が未解決事件を暴く痛快青春ミステリ、などではなく、自分の正義と社会の正義がどこに、誰に在るのかを問うものなのだと痛感しました。1作目『自由研究には向かない殺人』はまだ痛快青春ミステリと言えなくもないけれど、2作目『優等生は探偵に向かない』の後味、それに3作目『卒業生には向かない真実』の二部からが異色だったなと思います。その後に前日譚『』を読むと、ピップの選ぶ道が見えるような気がするから楽しい。
私自身は、ピップの選択を大いに肯定します。そもそも「復讐は為されてしまえ」が信条なので。とはいえ、まさか別件の性暴力犯に、無関係の殺人罪を乗っけてしまうとは思わなかったですけども!笑 「社会的に抹殺する」方法としては最良だと思います。奴の罪が性暴力なので、読後に櫛木理宇『監禁依存症』『残酷依存症』も思い浮かべたのですが、あれは同じ苦しみを味わわせる系だから、ピップのほうがクレバーでスマートですね。
前述の通り、三部作+前日譚は、アンソニー・ホロヴィッツの「ホーソーン&ホロヴィッツ」シリーズと交互に読んでいました。奇しくも「ホーソーン&ホロヴィッツ」シリーズでは、ホロヴィッツが身に覚えのない容疑で捕まりかけるという、ある種ピップと逆の境遇に陥ります。そのとき、読者である私は「正義のために真実が暴かれる」ことを望んでいるわけです。ピップのときはあれほど「正義のために真実が暴かれない」ことを願っていたのに! いえ漫画『金田一少年の事件簿』のスピンオフ作品『犯人たちの事件簿』では視点の変換に大笑いしていたんですけれども。誰に感情移入するかで、私の正義はコロッと変わるな、と実感したものです。
自分の求める正義を為すためには、ずっと善人でも聖者でも居られない。そんなことは理解していたつもりでしたが、あらためて3作目『卒業生には向かない真実』でその重さを突きつけられた思いです。
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