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BtoB Webマーケティング施策入門|案出しのための4つ観点とベンチマーク
比較的小規模なBtoB企業のオンラインマーケティング施策について考える機会があったので、ここに残しておきます。
見る観点は「計測ツールの導入」「SEO」「CVR/EFO」「メルマガ」です。(Webマーケとオンラインマーケが混同していますが、ざっくりオフラインとかじゃない、機動性の高いマーケだと思ってもらえると嬉しいです)
前提|オンライン施策の優先度
マーケティング、あるいは営業活動全体を考えた時に、オンライン施策は優先度が低い場合があります。マーケティングの大前提は下記の3つです。
増分浸透率が重要(購買回数0回の顧客を1回にする)
顧客は自社ブランドに興味がないし、ブランドをすぐに忘れる
広告はリマインドとして機能する
BtoB企業の場合、新規顧客獲得のチャネルは「テレアポ」「展示会」「リファラル」などが有効な場合があります。オンライン施策は、「すぐに着手できるが、新規獲得の効果は低い」かもしれません。新規獲得との接点は別で確実に計画する必要があります。
顧客を次の4階層に分けたとき、オンライン施策が刺さる顧客はどれでしょう。
未認知顧客:自社ブランドを知らない
潜在顧客:自社ブランドを知っているが、ニーズが発生してない
顕在顧客:自社ブランドを知っており、ニーズが発生している
既存顧客:購買済み
基本的には、「2.潜在顧客」と「3.顕在顧客」になります。
「95:5の法則」というのがあります。BtoB事業で、顧客企業が5年に1回買い替えや更新を検討する場合、1年間で検討する企業は市場の20%、四半期では5%です。5%が顕在層になり、残りの95%にはニーズが発生していない、こういう状況を「95:5の法則」と言います。5%の刈り取りをするだけではなく、残りの95%へのアプローチが、長期的な、かつビジネスインパクトのでかい貢献につながっていくのです。その意味で、潜在顧客や未認知顧客への施策は欠かせません。そして先述した通り、BtoBの認知起点はテレアポや展示会などのオフラインであることも多いため、オンライン施策は認知後のリマインドおよび顕在層のサポートがメインになってきます(この辺は各事業の性質に合わせて調整してください)。
観点①|サイトに計測ツールは導入されているか
オンライン施策を実施する上で、サイトのデータは重要になってきます。サイトデータは、ユーザー数にもよりますが基本的に蓄積に時間がかかるので、導入されていなければ速攻での導入をおすすめします。
現状、なんの計測ツールが入っているのか?
Chrome拡張機能「Wappalyzer」がおすすめです。この拡張機能を使えば、現在どんなテクノロジーがサイトで使われているかが分かります。
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導入されているか確認してほしいツールは下記です。
Google Analytics(GA):サイトの訪問者数などを測る基本的なツールです。
Microsoft Clarity:サイト上のユーザー行動をヒートマップツールや動画で確認できます。
Google Tag Manager(GTM):計測ツールのタグを一括管理します。
上記が導入されていなければ、導入しましょう。基本的には、GTMのタグを発行し、エンジニアにソースコード内にタグを貼り付けてもらうよう依頼します。GAとClarityについては、GTMの管理画面内でマーケター自身が導入できます。
また、Wappalyzerでは確認できませんが、「Googleサーチコンソール」の導入も必須です。Googleサーチコンソールは、SEOの状況を監視するためのツールです。エンジニアに聞くなどして登録状況を確認しましょう。サーチコンソールも、GTMの管理画面内でマーケター自身が導入できます。
アクション:GTMのタグ導入が先決
上記3つのツールを導入することを最終ゴールに、まずはエンジニアにGTMタグの導入を依頼しましょう。その後、GA、Clarity、のタグをGTMを通じて自分で導入します。
観点②|SEOの状況はどうか?
改めて、SEOの目的は何か?
SEOの基本的な目的は、顕在顧客に対するフィジカルアベイラビリティの強化、であると思います。
ユーザーは検索窓にキーワードをすでに打ち込んでいます。この時点で、ユーザーには何らかの興味やニーズがあり、95:5の法則で言えば5に近いユーザーです。そして、検索結果のいい位置に自社サイトを表示させる、ということは、「情報にアクセスしやすくする」という意味で、フィジカルアベイラビリティの強化です。
サイトはインデックスされているのか?
サイトが新しい場合、Googleの検索エンジンにサイトがインデックスされていない場合があります。インデックス状況を確認する簡単な方法は、Chromeの検索窓に「site:{URL}」と打ち込むことです。
下記は、ワシントン大学のHPのインデックス状況を調べた結果です。
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この検索結果で自社サイトのページが大量に出てくれば問題ないですが、出てこない場合はサーチコンソールからのクロール依頼が必要になります。
ドメインオーソリティーはどのくらいか?
ドメインオーソリティー(DA)は、WebサイトがGoogleからどのくらい信頼されているかを表す数値です。企業サイトであれば30~50を目指したいです。
DAを調べるサイトはいくつかありますが、自分はUbersuggestを使っています。
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ワシントン大学のスコアは「92」と驚異的な数値が出ていますが、何もやっていないサイトの場合は10前後になります。30~50、または競合でトップのサイトのDAを目標にしながら、SEO施策を行っていきましょう。
内部施策①title、meta description、h1でできることは?
titleやmeta descriptionへの情報記述、h1の改善で、KWとページの関連を強めることが期待されます。
SEO spiderというツールを使うと、サイト内のページのtitle、meta description、h1の情報を一括で取得できます。
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これらを関連KWに合わせて調整することで、KWでの上位表示が期待されます。
内部施策② その他にできることは?
Googleが提供している「Lighthouse」というツールでも、SEOの状態を測ることができます。
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上記はワシントン大学のHPの診断結果です。ページの描画スピードが遅い、という指摘が出ていますね。ページスピードはSEOにも影響するので、エンジニアに相談して早くしてもらうことも手です。
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SEOのスコアは「90」と高いですが、細かく見ると「リンクに説明テキストが含まれていないので、ユーザーがリンク先で何が見れるかがわからない」「各ボタンの周囲に十分な余白がないので、タップしにくい」と言われています。この辺りのUI改善も、SEOには効果的ですね。
アクション:工数の低いものから順番に対応する
SEOは結果が出るまでにある程度の時間がかかります。マーケターの作業(サイトクロールの依頼)や、コードの修正のみで対応できる箇所(title、meta description)から着手し、デザイン修正が絡むかもしれないh1修正などは社内リソースを鑑みて始めましょう。
観点③|CVR、EFOでできることは?
サイト内のコンバージョン改善、EFOですが、具体的には数値を取ってみないと分からないです。また、訪問者が少なすぎて数値そのものの信憑性がない場合もあります。
目安となるCVRは何%か?
コンバージョン率の目安は、下記のサイトが参考になります。UKのEFO専門会社が提供しているCVRデータで、業界・目的別におおよそのベンチマークがわかります。「CVRは無限に上げられる」と思いがちですが、業界水準まで達していれば、優先度を下げて、新規獲得に労力を振った方が、ビジネスインパクトが大きいのでは無いでしょうか。
また、下記のような統計結果もあります。
全体的なCVRは45%。
申込フォームが最もCVRが高く、75%。
入力フォームを開始した人のうち、34%が完了する。
モバイルのCVRはデスクトップのCVRよりわずかに低い(47.01% 対 42.95%。これはモバイルの利用が普及して、差が縮まってきた、と解釈するべき)
フィールドリターン(間違い修正)は、放棄されたセッションよりも、完了されたセッションの方が高い(5.61 対 4.55)
「お問い合わせ」フォームのCVRは9%(全てのフォームの目的の中で一番低い)
閲覧→入力開始は32%
入力開始→完了は38%
「お問い合わせ」フォームであれば、閲覧→入力完了で10%前後のCVRがまずは目安になります。
フォームは短いほどCVRが高いのか?
一般的に「短いフォームほど完了率が高くなる」と信じられていますが、実際はどうでしょうか。下記は、CVRを縦軸、入力欄の数を横軸にとったグラフです。トレンドラインは40~50%のあたりで平坦であり、「フォームが短いほどCVRが高い」という事象は観測されません。
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EFOでむしろ大事なのは、下記のような原則に則って設計することです。
必要最低限の項目を聞く
自社にとって今、必要か?後から取得できないか?
顧客にとってベネフィットがあるか?
顧客のモチベーションに対して、フォームが長すぎないか?
フォームの入力完了に役立つ指示があれば、必ず示す
特に放棄率が高いフォームは、写真やテキストでの説明を加える
入力例、必須/オプションを明確に示す
エラー処理は送信時ではなくインラインで実行する
ユーザーがスタックしやすい箇所は、GTMを使ってイベントを発火させることもできますし、Clarityのヒートマップや録画でも確認することができます。
アクション:データ取得後に優先度を判断
まずはGAやClarityなどの計測ツール導入、データ蓄積を優先しましょう。データが見れる場合は、「お問い合わせ」フォームであれば10%程度のCVRを目安にして、それを下回る場合は、上記で示した基本原則に従った改善を施しましょう。CVRがベンチマークと同等以上の場合は、他の施策を優先するのが吉です。
観点④|メルマガでできることは?
メルマガの目的は、ブランド認知後の潜在顧客に対する「リマインド」です。リマインドの重要性は、先に述べた通りです(95:5の法則、顧客は自社ブランドを忘れる)。
目安となる開封率は何%か?
メルマガのベンチマークは下記のサイトで確認できます。BtoBのメルマガ平均開封率は20%だそうです。
ちなみにもっと広範なメルマガのベンチマークはこちらです。
送信日や頻度はどのくらいか?
Hubspotの調査では、月曜日に送信されたメールの開封率が最も高く、送信頻度は週1回〜月に数回が多いようです。
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週末を避けて、月曜〜水曜でメールを配信し、頻度はプロフェッショナルな内容を保てるのであれば、月2回でも良いかと思います(社内レビューのステップもありますし、小さな会社で週1の配信は現実的ではないかと)。
アクション:リマインド施策として定期的に実施する
BtoB企業にとって、広告を出していない場合、メルマガが数少ないリマインドの施策の一つになると思います。SFAにメアド情報がある場合は、定期的にメルマガを配信してみましょう。
メルマガに記載した内容は、企業サイトのブログコーナーに転載することで、ページ数を増やしてSEOにも貢献できるようになります。
最後に|改めて、施策の優先順位を整理する
ここまで、企業のBtoB オンラインマーケティングの施策の案出しのための観点を見てきました。スライドにまとめると下記のようになります。
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改めて思うのは、施策の目的と優先順位を間違えないようにする、ということです。
先述の通り、ビジネス成長のドライバーは浸透率の増加(購買回数0回の顧客を1回にする)にあります。そのためのステップとして、未認知顧客に自社を認知してもらう、認知済みの潜在顧客に自社ブランドをリマインドし続ける、顕在層になった時のアプローチのしやすさを確保する、があります。
そして、95:5の法則により、四半期の中で未認知顧客と潜在層は市場の95%を占めていることが分かりました。このマジョリティへのアプローチが、長期的でインパクトの大きい売上に貢献します。
マーケティングの現場では、施策の優先度を決めるときに、「すぐに着手できるから」「データが見れるから」「安いから」を基準にしがちです。最初はスモールスタートで始めてもいいのですが、それがある程度のベンチマークに達したら、リソースをもっと重要なターゲット(未認知顧客や潜在顧客)に絞り、施策によって「増分」の成果を出すことが重要です。
そしてテレアポや展示会に手を入れていくことが、BtoBマーケティングにおける本当の貢献につながっていくのかなと思います。
また、いちマーケターとしては、施策がベンチマーク水準に達した後は、その維持・管理という仕事の比重が増えます。新しいこと好きな人からすれば、仕事がつまらなくなってきてしまうフェーズです。早めに誰かに渡したり、なるべく自動化したりして、新しい領域に踏み出すことが、キャリアを考える上でも大事かなと思います。
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