まるでゴルゴなストーリー『シガレット・スナイパー』
まるでゴルゴなストーリー《シガレット・スナイパー》
オレはシガレット・スナイパー。
世間には相変わらず迷惑スモーカーがはびこり、嗜好品のタバコを凶器として、そのケムリとニオイでそれを好まない人々、それによって身体や心に悪影響を及ぼされてしまう人々の日常を脅かし続けている。
被害を受けた者は常に泣き寝入り。勇気を奮って迷惑加害者に注意したり抗議した者はことごとく逆ギレされて更なる被害を被っている。
毎日どこかで誰かがケムリに泣き、逆ギレ暴言という暴力に泣いている。
そして…、
ついに政府が動き出した。本格的に迷惑スモーカーを世間から一掃しようとある方策が取られることになったのだ。だがそれは「迷惑喫煙追放キャンペーン」などというナマ半可なモノではなかった。
それがどういう方法なのかカンタンに説明すると、屋外の、とくに禁煙エリアで喫煙している迷惑スモーカーが口にくわえているタバコの火先を、遠くから狙撃用ライフルで狙い撃ち、瞬時に迷惑喫煙を阻止する…という少々奇抜なものだ。多少の危険も伴うだろう。
さすがにこのような任務は公に知られている政府機関が遂行出来るはずもなく、そこで裏の特務機関、その末端に属する我々「CSD」と名付けられたチームが行うこととなった。
ちなみに「CSD」とは、C=シガレット(タバコ)、S=スナイパー(狙撃手)、D=だヨ~ン(ですよ)…という意味である。
オレはある駅前広場が見渡せるビルの窓際に狙撃用のライフルをセットした。ここからざっと見ただけでも数人の迷惑喫煙者が確認出来た。
まったく、あれほどここで吸ってはいけないといろんなカタチで「喫煙禁止」を知らされているのにも関わらず、いい気な奴らだ。
彼らがどんな言い訳をしようがまわりにとっては迷惑以外の何ものでもない。その言い訳は筋の通らない暴言に他ならず、それを聞かされる側はタバコのニオイとケムリと暴言のトリプルバイオレンスを受けるに等しい。
これ以上被害者を増やしてはならない。だからこそオレたち「CSD」が結成されたのだとオレは理解している。
その理解に基づき、本日オレはこの任務に当たっているワケだが、かなり緊張している。
実は…、
ひとつ告白すると、オレはこの仕事、今日がデビューなのだ。そう、つまり生まれて初めて「狙撃」というものを体験するワケだ。3、4日前に道端で拾った募集のチラシを見て、ちょうど職探しをしていたオレは何となく書かれていた電話番号にかけてみた。そしたら即面接で即パスしてしまったのだ。よっぽど人手不足だったのだろう。こっちはとりあえず食っていければいいと思った。
面接で、子供の頃の思い出として祭の縁日で出ていた射的ゲームが得意で誰よりも景品を多くゲットしていた話をしたが、それも功を奏したのかもしれない。任務前の狙撃訓練も免れた。
ただし、本物の銃となるとやはりオレとしてはちょっと自信がないので、本来ならビルの屋上などのかなり離れた、どこから撃ったのかわからない場所から狙撃するのだが、オレは広場のすぐ前のラーメン屋のあるビルの3階からやることにした。ここからならこのオレでもほぼ確実に仕留められるだろう。
まずターゲットを定める。くわえタバコで歩いてる奴はダメだ。動いてるとまず失敗する。祭の射的ゲームだって的は止まっていた。
スコープを覗きながら探していると…、いいのがいた! ベンチに座ってプカプカやっている。中年サラリーマンのようだ。あんな善良そうな顔をして平気でルール違反をしてまわりの人々に害を与えている。よしっ! オレの初ターゲットはヤツだ。
緊張とある種の興奮状態に包まれ、まるで時間が止まったような感覚に陥る。ターゲットの口にくわえられたタバコの火先に照準を合わせる。トリガーに指をかけ、そしてタイミングを測る。あまり時間をかけるとタバコの火は喫煙者の顔に近づき危険だ。OK、あとはトリガーを引くだけだ。
よし! 今だ!
・・・と思ったその瞬間、オレはあることに気がついた。
あれ? もしかしてオレ、本部の銃器庫からライフルじゃなくて散弾銃を持って来たかも知れない! なんせ初めてだし、いまいち区別ついてないかも…。
しかしそう思ってももう遅かった。一瞬心に迷いが生じても、オレの脳はとっくにトリガーにかけた指に命令を下していた。
ま、いっか…
そう思ったのと同時にオレの指はトリガーを引いていた。
… END