子供の頃からテレビや映画で見ていた「やられ役」ってやつにあこがれて、18の頃、ひょんなことから京都の東映撮影所に潜り込み、数年の間、ヤクザ映画やテレビの時代劇などでスタントマンや殴られ役・殺され役・斬られ役をやっていた。 やがて上京し、今度は演劇活動をしているうちに何故か声の仕事の世界に足を踏み入れる。CMナレーションを中心に、それほど多くはないがアニメや洋画の声の吹き替え、当時多数作られていたVシネマ、テレビドラマなどにもちょこちょこと顔を出している。 アニメではわずか
あなたはこの世に 幽霊っていると思いますか? 僕はねー、 そんなものは実在しないと 思っているんですよ。 断言してもいい。 幽霊は、いない。 でも時々、 幽霊を見たって人がいますよねえ。 それも僕、本当だと思うんですよ。 でもやっぱり幽霊はいない。 これも本当です。 矛盾してますか? ところがそーでもないんですねこれが。 つまり、 いないのに気配がする。 実在しないのに見えてしまう…。 それが幽霊なんだと僕は思うんですよ。 だって、ホントに存在したら、 いつ
久しぶりに泣いた。 止めどなく涙がボロボロ溢れ出た。 だが、 声は出さずに一人忍び泣いた。 前にこんなに泣いたのはいつのことだろう。 まったく、 こんなことで大の男が泣くなんて…。 だが、 これとても、 人世に数ある試練のひとつに違いない。 誰もが必ず通らなければならない 過程なのだ。 それに、 こんな男の涙、 一体誰が拭いてくれると言うのか…。 結局は自分しかいないのだ。 オレは自分にそう言い聞かせ、 しかし涙は拭おうともせず、 巧みに包丁を使い続けた。 その甲斐
ディテクティブ・ストーリー《プライベイト・アイ》 1 交差点 男「ねえ、…どうかした?」 女「えっ?」 男「大丈夫?」 女「……」 男「あ、いや…、 何だか思いつめた顔をして こんなところにいるから…」 女「すみません。大丈夫です」 男「…そ。なら、いいんだけど」 女「はい。 …どうも、ありがとうございます」 男「いや…。…じゃ」 〈男〉 大都会。昼下がり。快晴。大交差点。 ここでは、 人は波になった方がいい。 行き交う車。クラクション。排気ガス
まるでゴルゴなストーリー《シガレット・スナイパー》 オレはシガレット・スナイパー。 世間には相変わらず迷惑スモーカーがはびこり、嗜好品のタバコを凶器として、そのケムリとニオイでそれを好まない人々、それによって身体や心に悪影響を及ぼされてしまう人々の日常を脅かし続けている。 被害を受けた者は常に泣き寝入り。勇気を奮って迷惑加害者に注意したり抗議した者はことごとく逆ギレされて更なる被害を被っている。 毎日どこかで誰かがケムリに泣き、逆ギレ暴言という暴力に泣いている。 そ
ショートストーリー《酔いたくて…サタデー・ナイト》 あと三十分もすれば 今日という一日が終わり、 明日という一日が始まる。 また退屈が始まり、 そしてまた退屈に疲れるのだ。 退屈ってヤツは、厄介な代物だ。 呼びたくもない記憶を無理矢理蘇らせる。 特に…あの女のことが…。 部屋を出て新宿まで歩き、 行きつけの店に入る。 「フォアローゼス、シングル。 それと水を」 フィリップ・マーロウが デスクの抽き出しにいつも転がして 置いているというアレだ。 この店は、土曜の
今回は遠い過去に綴った文章を。 あ、ちょっとその前に…。 昔はけっこうなスモーカーで、タバコをこうした文章の材料にしていたこのオレも、今ではすっかりアンチスモーカー。 あの頃のタバコは、オレにとってはひとつのファッション・アイテムだった。いつでもどこでもプカプカスパスパ。ホントにいい気なもんだった。 そういう時代だったとは言え、あの頃だってタバコがキライな人もいっぱいいただろう。ケムリを吸ってはいけない人もたくさんいただろうに、オレはなんて大きな罪を犯していたんだろう
子供の頃からシイタケってヤツが大の苦手だった。食感と言い味と言い、見た目もメッチャ気持ち悪い。すべてがグロテスクだ。 とにかく個性が強過ぎて、しかもガンコでどんな料理に使っても馴染むことなく、その料理を台無しにしてしまう最悪の食材だ。イヤ、あくまでもオレの個人的な感想だが…。 好きな食べ物嫌いな食べ物の話をしていて、オレが目の前の彼女にそのことを話すと、彼女は急に笑い出した。 彼女…と言ってもつき合っているワケじゃなく、オレよりもずっとずっと、悠に四十何才も年下の大切な
夜の新宿ストーリー《ハードボイルドに振る舞った夜のダイアリー》 あの頃、俺には日活ロマンポルノの女優をしている友達がいて、新宿で彼女の母親がやっていた小さなクラブのカウンターを時々手伝っていた。 お客の中に、いつも一人でやって来てカウンターに着き、店のママや女の子、そして俺などを相手に世間話をしたり日頃の愚痴をこぼしたりして飲んで行く人妻がいた。 楽しい話もさることながら、彼女もそれなりにいろいろ悩むこともあるようで、馴染みの店でもあって他の客同様、飲んでくだ巻き酔っ
追悼ストーリー《インスタントピクニック・アフタヌーン》 それはある日の午後のこと。 ボクはキミのアルバイト先の オフィスを訪ねた。 南側に大きな窓のある 小さなオフィス。 まだ冬の頼りない 陽射しの中での、 キミとボクのあったかな 時間(ひととき)。 一人留守番に退屈していたキミは、 体ごとこちらを向いて話をする。 ボクは少々照れながら、 そっぽを向いて話す。 今ボクたちはお互いに、 いろんなことを知り合って いるんだね。 このまま今日が 終わらなければいいのに
今回はちょっと季節外れの、ちょっと恐いお話を…。 ちょい恐ストーリー『ロングヘアのミニスカ美女の顔は…』 仕事が好きでもなければやる気もない、夢もなければ貯金もない。イケメンなどには程遠い、当然彼女もいるわけない。仕事帰りに同僚と飲むのが楽しみの、俺はしがないサラリーマン。 一泊二日の出張から今朝戻ってそのまま出社し、とくに何事もなく一日の仕事を終えて、また同僚と一杯飲んでの帰宅となった。 「ふーっ。ちょっと飲み過ぎちゃったかな」 出張疲れもあってか、ほんの少しボ
ある朝のショックストーリー『言葉というものはもはや使えないシロモノなのか??』 先日、思いもよらぬショックなことがあった。仕事に向かうためにいつものバス停でいつものバスを待っていた時のことだ。 2~3分遅れてやって来たバスはけっこう混んでいた。 ギュウギュウ詰めでこれ以上乗せるのは無理…という場合、たとえ停留所でお客が待っていても運転手の判断でスルーされてしまうことはままある。オレもそれで乗車出来なかったことが過去2回ほどあった。 それもショックな話ではあったが、今回
《コーヒーを飲むなら》 大好きなコーヒーを飲むなら、 のどかで優しい空気の中で…。 やわらかい木漏れ陽が降り注ぐ、 昼下がりのカフェ。 テーブルは丸い方がいい。 腕時計もケータイも、 ポケットにしまっておこう。 最初は熱かった一杯のコーヒーが、 少しずつ減り、ゆっくりと冷めてゆく。 ここでは、それが時計代わり。 新聞を読むか、文庫本を読むか…。 背もたれに体を預け、足など組んで、 ちょっとカッコウをつけるのもいい。 誰かの視線を感じたら、 勇気を出して微笑み返
《すべての痛みが消える時》 さァ、明日も素晴らしい日になるゾ…と男はほぼいつもの時間に眠りについた。そして、どれくらいの時間が経った頃だろうか、 「ぅおおおおーーーーー!!」 突然の足の痛みで男は叫びながら目を覚ました。 こむら返りだ。すぐにわかった。右足のふくらはぎで激痛が爆発している。そう、爆発なのだ。今までだって寝ている時にそのように足がつり、痛い思いをした経験はある。それだってものすごく痛かった。しかし何とか足の親指を引っぱって痛みを止めることが出来て
モーニングストーリー『今日の朝』 最近付け替えたばかりの カーテンを開けた。 窓も開けた。 曇りだけれど、 やけに爽やかな朝だ。 何となく、今日は素晴らしい 日になると感じた。 不思議な感覚の中で目が覚めた。 多分夢を見ていたのだ。 まだその夢の続きを見たいと 抵抗するが、 夢の記憶は次第に消え失せてゆき、 脈絡のない断片だけが脳裏に残る。 それでもそれを頼りに 何とかさっきの夢の世界に 戻りたいと願う。 しかしやっぱり夢のかけらたちは どんどん小さくなってゆく。 S
ノーメイクハートを抱きしめて 顔を見たとたん、 まるで映画のワンシーンのように、 ボクの胸に飛び込んで泣き出したキミ。 その髪の甘い香りに ボクの心はとろけそう。 不思議だねこんな時、 行き交う人の目、気にならないね。 思わずキミを涙ごと、 ギュッと抱きしめてしまったよ。 ノーメイクなんだね、キミのハートは。 ピュアなハートで攻められたら、 ボクなんかイチコロさ。 さァ、泣きくたびれて涙が涸れたら、 今度はキミの微笑みに触らせて。 恋は季節の風の如く 気がつけ