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追悼ストーリー『インスタントピクニック・アフタヌーン』
追悼ストーリー《インスタントピクニック・アフタヌーン》
それはある日の午後のこと。
ボクはキミのアルバイト先の
オフィスを訪ねた。
南側に大きな窓のある
小さなオフィス。
まだ冬の頼りない
陽射しの中での、
キミとボクのあったかな
時間(ひととき)。
一人留守番に退屈していたキミは、
体ごとこちらを向いて話をする。
ボクは少々照れながら、
そっぽを向いて話す。
今ボクたちはお互いに、
いろんなことを知り合って
いるんだね。
このまま今日が
終わらなければいいのに…。
手土産のハンバーガーと
フライドポテト。
そして
キミが淹れてくれたコーヒーで、
インスタントピクニックみたいな、
のどかでしあわせな午後だった。
…と、そんな遠い過去の思い出がある。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あれからずいぶん時が流れて…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あるカフェを出て、
駅へ向かおうと歩き始めたその時、
一匹ののアゲハ蝶が、
目の前をヒラヒラと横切った。
こんな街の中で…と、
ビックリしたのと同時に、
ボクの心はザワめいた。
アゲハ蝶を見るということは、
ただ「幸運の前兆」というだけの
ことではない。
その蝶は、
故人の魂を天国へと道案内している
ということでもあるのだ。
ボクには心当たりがあった。
昔むかし、
とてもとても大切だった人が、
この二日前に、
亡くなっていたのだ。
彼女はちょっと有名人で、
その訃報はネットのニュースでも
流れていた。
パソコンの画面にその名を見た時、
ボクの心と体はしばらく固まり、
目は彼女の名前に
くぎづけになってしまった。
そして、
「そんな…」「何故?」
「まさか…」「どうして?」
…という、
そのことをすぐには現実として
受け入れられない言葉たちが、
ボクの頭の中をグルグルグルグル
回り始めた。
出会ったあの頃…、
そう、遠い昔…。
同じ世界(業界)にはいたものの、
彼女にはとても大きく強い夢があり、
真っすぐそれに向かっていた。
一方ボクはと言うと、
今もそうだが、のんびりと、
その時好きな道を歩んで行ければ
それでいい…
と、そんな二人だった。
人生は、常に誰かとの接点を
作りながら流れてゆくもの。
小さい接点、大きい接点、
出会いと別れを繰り返してゆく。
たとえ永遠を望んでも、
いつもそうはならないのが
また人生。
互いに別々の道を歩き始めて、
彼女はがんばって自分の夢を叶え、
この世に愛を振りまくような、
そんなステキな人になっていた。
そして彼女が、
多くの人々に愛されていたことも、
この度の訃報に対する反響によっても
確信出来る。
さて、
人はその命のともしびが消える間際、
過去の思い出が走馬灯のように
頭の中を巡ると言うが、
彼女の走馬灯には
果たしてボクなんかの影が一瞬でも
映ってくれたのだろうか。
映ったと信じたい。
だって、
ボクの目の前に、
アゲハ蝶が現れてくれたのだから。
あのアゲハ蝶は、
彼女の魂を天国へと導く
途中だったに違いないのだから。
ボクはそう信じて、
あの時ザワめいた心で、
彼女の魂に「ありがとう」と言った。
彼女はとても美しい人だった。
とてもやさしい人だった。
多くの人が知っている。
みんながそれぞれの立場で
彼女を愛している。
誰もが彼女を忘れない。
もちろんボクだって…。
今思う。
あの時、
出会ってくれてありがとう。
思い出をありがとう。
しあわせをありがとう。
そして、
蝶と一緒に、
一瞬でもそばにやって来てくれて
ありがとう。
しかし…、
何故か涙は、まだ出ない。
・・・End
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