[暮らしっ句] 紫蘇の実[俳句鑑賞]
今年の猛暑、うちでは紫蘇が壊滅的に。
七月のはじめくらいまでは例年通りだったと思います。梅漬けに使いましたから。その後、気づいたら日陰にわずか二本。いつもなら、実を採って佃煮にするところですがさみしい……
よき日和と 香りを褒めて 紫蘇の実摘む 笹原ひろむ
紫蘇の実を 庭から摘んで 朝の卓 庄中健吉
紫蘇の実を 噛み日のあたる畳かな 西田美智子
紫蘇の実や 姑の暮しの身について 保坂さよ
いいなあと思いつつ、自分の暮らしとつい比較してしまいました。紫蘇はたくさん生えてるんでそこは引けを取らないんですけど、空気感が違う。手近な言葉で云えば、自分には余裕がないんですが、それは心の問題。
これらの作者の方は、こういう暮らしをされている上に句まで作られるわけですからね。達人だ。
最近、聴いた話で、「今、ここを生きることが大事」というのがあったんですが、まさにそんな感じですね。次に何をしなきゃとかそんなこと考えてないですもんね。心ここにあらずじゃなくて、心ここにある暮らし!
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紫蘇の実の こぼるるままの 生活かな 笠井敦子
ふつうなら、こぼれる=もったいない だと思いますが、この句の場合は、笑顔がこぼれるの、こぼるるですね。全然、惜しくない。減らない。幸せが一面に広がっていく感じ。
しかも、それが心の話ではなくて「生活かな」ですからね。すごい。ついでにいえば、誰かを必要としていないわけで、そこもまたすごい~
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紫蘇の実の 始末遅れて 母の声 秋川泉
身体の自由が効かなくなったお母さんが、息子さんに督促してるのでしょうか。あれ時期がありますからね。遅くなると堅くなる。魅力半減です。
でも、息子(娘?)さん、嫌がってる感じは少しもありません。そこがこの句の味わいかな。親が生きている間に、そのありがたさを実感できる人生はそれだけでかなり上等。
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紫蘇の実を 母偲びつつ 漬け込む日 木村迪子
お母さんと一緒にやってた作業が、お母さんを蘇らせてくれる。
仮想現実だとそうはいきません。ちょっと大げさなことを云えば……
アナログ作業の多くがデジタルで済むようになると、アナログ体験がそれだけ乏しくなるわけで、それも一種の「囲い込み」かも。近代、多くの人が農村を追われたように今度は自分の心の領域が奪われる。懐かしさを欲すれば、昔の出来事を思い出すのではなくて、古いアニメやドラマを見て渇きを癒やすことになるという。
実は、わたしもそうです。ノスタルジーに浸るには。古いアニメやドラマを見るのが断然手っ取り早い。しかも名作はよく出来ています。それに比べると、実際に経験した思い出を再生するのには時間もかかるし、再生しても地味。
そうですね。そこは一つ課題ですね。今ふと思いついたんですが、生成AIがもう一段階進歩したら、過去のアニメや映画をカスタマイズ出来るようになるかもしれません。手間をかければ過去の名作を自分の過去に寄せることが出来るかも。ナチュラルな話ではありませんが、もうすでに人工世界に生きてる者としては、出来ることはそれくらいかな。過去は変えられませんから……
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紫蘇の実の むすびなつかし 母想う 渡辺節子
「むすび」は「おむすび」のこと。今は、こんなのも買うことができるのでしょう。でも、そこで道は分かれそう。
売り物で満足できる人と、いや、そうじゃない。自分が食べてきたのはそうじゃない……と、かえって追求したくなる人と。
追求したくなった場合、本やネットではもどかしいでしょう。正しい「紫蘇の実むすび」の作り方が知りたいわけではなく、お母さんの作り方が知りたいわけですから。それが思い出せる人はしあわせだ!
出典 俳誌のサロン 歳時記 紫蘇の実
紫蘇の実
ttp://www.haisi.com/saijiki/sisonomi.htm
写真は、olivia01さんの作品です。ありがとうございました。
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