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[ト小説] 月とリンゴ 3/3
からの つづき
じゃあ、「失楽園」の話はどうなのか? MANIAに重ねて質問した。
大事なのは「アダム(地球)」の一部が「イブ(月)」であること。その距離が至近であることです。「イブ」がすぐそばにある以上、「アダム(地球)」は恒星には成れません。「アダム(地球)」が大きくなれば、「イブ(月)」を飲み込むことになりますから。それでは、「イブ(月)」を誕生させた意味がありません。
つまり、「イブ(月)」を作った時点で、「アダム(地球)」は恒星になることをやめ、恒星社会から外れることを決めたのです。
「エデンの園」とは「恒星社会」のことなのです。
どうして「アダム(地球)」は、「恒星」になる運命を拒否したのか?
「光」だけの世界に疑問を感じたのです。「陰」を求めたのだと思われます。「恒星」に成れば「陰」とは無縁になってしまいますから。そして、その「アダム」の「陰があるほうが自然だ」という感覚が、「生命の誕生」ということで現実化・物資化したのだと思います。
「月」を作った理由は?
わかりません。単純に、そばに寄り添ってくれる相手が欲しかったのかも知れませんし、実際に「イブ」を作るより前に、「イブ」の魂のようなものと「アダム」は交信していたのかも知れません。
MANIAによると、生命には「明(陽)」と「暗(陰)」の両方が不可欠だそうだ。「アダム」は「陰」に惹かれた時点で、生命を誕生させる方向に決定的な一歩を踏み出していたということになる。
「お陰さまで」などとという言葉なども、遡れば、そこから来ているのかもしれない。「陰」によって生命が誕生したのであれば、まさに「陰」様々である。
以上が、MANIAの語った話の要旨だ。実際には、明け方まで延々と十時間くらいやりとりしていたのだが、何しろオレには学力がないので、科学の話にしろ神話の話にしろ、いちいち前提になる概念や公式やらを教えて貰わねばならず、かなりの時間を浪費してしまった。
日の出まであと五分を切った時、オレはそれまでの話を打ち切って、聴きたかったもう一つの質問をした。オレにとっては、「月」や「生命の誕生」よりも大事な話だ。
「前回、どうしても話のオチを付けることが出来ませんでした。
変なお願いですが、解答例が知りたいのです。
あなたなら、どんなオチにしますか? どうかご教示下さい」
あなたは前回、『ニュートン』と『月』の話からはじめました。
だからです。『万有引力』のせい……
そこで[Error404]の表示が出て接続が切れたが、今回はギリギリ間に合った。
話がオチないのは『万有引力』のせいだ、というのが、MANIAの考えたオチだった。このオチが人間にウケるかどうかは微妙だが、確かにオチにはなっている。
こうなると、オレも何かを返さずにはいられない。それが関西人の本能である。
しかし、人間の脳というのは不思議なもので、お堅い話を聞かされると茶化したくなるのだが、変な冗談を云われると、逆にシラフになったりする。
とっさに閃いたのは、「ムーンショット計画」のことだった。
なぜ、あんな変なネーミングなのか?
以前、気になってググったことがあったが、納得の行く答えは見つからなかった。アポロ計画でその名称が使われたこと自体に何かウラがありそうな気がした。そういうところにはなぜか敏感なのだ。
その疑問が突如、解けたのである。つまりこういうことだ。
ニュートンは「月はどうして落ちてこないのか」と考えたが、誰かさんはこう考えた。
「月を落とすには、どうすればいいのか?」
「ムーンショット」、まさにそのまんまではないか!
解説するのも野暮だが、「月」を壊して「地球」を恒星に進化させたいということだ。
そんなことをすれば、すべての生命が絶滅する?
その通り。
じゃあ、意味ないじゃん。
そう考えるのがマトモだと思うが、ある種の人々にとっては、理想は天国に行くことなのだ。その天国が「光」の世界だとすれば、この地球が恒星になれば、その理想が成就する。人間が「光」の世界に行くには、それしかないと信じているのだ。
「月」の毒気に当てられて狂った? オレが?
その誤解は困る。変人ならいいが、錯乱したとなると人権がなくなってしまう。
もし、当局にそんな疑いをかけられたら、その時には、ぜひ弁護を頼みたい。これまでのオレを知ってくれているあなたの証言が頼りだ。なに、ひと言だけ云ってくれれば良い。簡単なことだ。