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ネットで見つけたすごい音楽④「場所」のための音楽

音楽と環境の関わり合い方は様々だ。
曲を聴くだけでよく聴いていた頃の情景が思い出されたり、場所によって同じ曲が全然違うように聴こえたり。
今回は、そんな「場所」にまつわる曲を何曲か紹介していこうと思う。

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「場所の音楽」その① 建築物のための音楽、
J Foerster/N Kramer「Habitat」

こちらはパーカッション奏者のJoda Foersterとベルリン在住の作曲家、Niklas Klamerが共作したもの。
曲名はそれぞれ、「Entrance(エントランス)」「Four Glass Steps(4段のガラス階段)」「Levitation Room(浮遊室)」など。架空の建物のそれぞれの場所に音楽があてがわれている。ジャケットにも使われているイタリアの建築家Ettore Sottsusのドローイングから発想したそう。
ぼんやりと聴くもよし、ながら作業や考えごとにも合いそうな、空間にそっと寄り添う一作。家の該当の場所にほんとに流して生活してみても面白いかもしれない。

のちに「Habitat II」も発表し、曲目は「Blue Terrace(青いテラス)」「Bedding(four layers)(4層のベッド?4段重ねベッド?)」など。1作目は鉄琴のようなパーカッションの音が目立ったのに対し、2作目ではよりメロディアスなものも。

「場所の音楽」その② 存在しないかつてのショッピングモールのためのBGM、
「NEON PALM MALL(Vaporwave Mix+Video)」

エレベーターに流れる、流行の去った(また一巡してるけど)心地よい音楽。うっすらと濃密に、すでに死んだ都市の残り香が漂う。…という根暗で優雅なジャンル、vaporwave。
このアルバムはそうした曲群を、架空のショッピングモールのためのバック・グラウンド・ミュージックのようにまとめたもの。イメージとして流れる寄せ集めの映像が、存在しない場所の記憶を思い起こさせる。
動画制作はSPLIFF RADIOショー。

「場所の音楽」その③ 場所と共に在る演奏、
King Klure「Hey World!」

今はApple Musicで普通に聴ける、16分に渡る長いこの曲。なぜこんなに長いのかというと、もともと短編映画の音声だったものをそのまま曲にしているから。

どんな映画かといえば、King Klureが霧のかかった草原で、煙を上げる発電所の前で、夜の闇の中で、明け方の海で、時にシャウトを交えながら訥々と弾き語る姿を4曲(+幕間)分収録したもの。音質も画質も、あえて荒く撮ってある。
初めてこの映画を見た時、ラフかつ凝った構成に感動した。作業の傍ら聞こうとしたがついつい映像を見てしまい、進まない。その点こうしてmp3にしてもらえると助かる(ちなみに日本盤のCDに4曲分のボーナストラックとして収録されている。当時は配信が無かったので、このためにCDを買った。あと装丁がとても素敵で、モノとしても欲しかった)。

曲の内容と歌っている場所は直接的には関係ない。でも印象的な音楽と映像が連作のように連なることで、世界観に広がりが生まれ、この作品にしかない空気感が出来上がっている。作品に映る「場所」から、観た者それぞれが何かを受け取る、そんな特別な作品。
監督はCharlotte Patmore & Archy Marshall。

「場所の音楽」その④ 「仮想の空間」のための音楽、
Vinyl Williams「Inner Space」

Vinyl Williamsは、wikipediaによると、LAを拠点とするネオ・サイケデリック・ポップ・バンド。Lionel Williamsにより2007年から活動。彼らが発表したこの曲の歌詞はこちら。

Where've you gone to? / Can you feel it sometimes? / How we really are masters of time? Fractals of the mind cannot be bound by 12 / Those that don't exist do not create themselves / Going around and around it again Is it longing that decides to be the death of inner space? / If you're going to face me , face my mind

訳を試みると、このような感じ。
どこに行ったの?/君は時々感じることがある?/僕らは本当に時間を支配していると言えるのかな? 心のフラクタルは12に縛られない/存在しないものは自らを生み出さない/ぐるぐる巡る 内宇宙の死を決めるのは憧れ?/僕と向き合うつもりなら、僕の心と向き合って

自身の内面を掘り下げるような哲学っぽい歌詞だ(12は時計の表記のことだろうか)。というわけで、この曲のMVは彼らが思う「場所」を作り、その内面へどんどんと下っていくという内容になっている。もちろんここに映っている空間を制作し、撮影・編集しているのも彼ら自身。曲が表現する「その場所」を観客がダイレクトに体験できる稀有なMVだ。

彼らの作品はこういう空間的なアプローチが多く、「Feedback Delicates」のように3D対応しているものもある。スマホをぐるぐる回すと作品世界を体感できる(アプリ版youtubeに飛ぶとVRが観れる)。自分もこういうの作りたい。


「場所の音楽」その⑤ 空虚のための音楽、
sunsetcorp「nobody here」

またしてもvaporwaveネタ。80-90年代の音楽像が復権した今はお洒落感も出てきたvaporものだが、黎明期、本当の意味でこの頃の音楽は死んだものと見なされていたので、そこをベースにしたこのジャンルには何とも陰鬱な空気が漂っていた。その感じがこちらの作品によく出ている。

画面を空虚に揺れ動く栄光のレインボーロードの先はどこにも繋がっていない。亡霊のような都市の写真が、その背景として切り離されたように浮かぶ。「there’s noboby here…」とリフレインするのは、Chris de Burgh「Lady in Red」の一節を切り取ったもの。元の歌詞はこちら。

There’s nobody here, it’s just you and me/
It’s where I want to be

「ここには誰もいない、あなたと私だけ。ここが私のいたい場所」と歌う声は暗く間伸びし、ただ誰もいない空間が茫漠と広がる。
今回調べて初めて分かったが、この作品の制作者はOneohtrix Point Neverとのこと。へー。

「場所の音楽」その⑥ 芦ノ湖スカイラインと音楽、
TUTU HELVETICA「well-known blueberry」

こちらはHONDA「INTERNAVI」のプロモーションのために制作された楽曲。今はもう見られず、曲の配信もされていない。
印象的な電子音と共に、やくしまるえつこがぽつぽつと歌う。はっきりと限定しない歌詞が景色を広げてくれる、ドライブに合いそうな曲。

当時、特設サイトへ入るとこの曲と共に、ストップモーションのようにカクカクと動くかわいいドライブ動画が流れ出した。道路の全容がさりげなく線で描かれ、今どこを走っているかの表示も同時に見られるスタイリッシュな広告だった、確か。多分。
何となく似たものとして、TOYOTA86のプロモート番組「峠」を思い出す。こちらもドライブの楽しさを音楽と映像で演出した作品。

TUTU HELVETICAはやくしまるえつこ・真部脩一を中心に流動的なメンバーで構成されるユニット。現在は活動していない。

「場所の音楽」その⑦ 空港のための音楽、
Brian Eno「Ambient 1: Music for Airports」

言わずと知れたブライアン・イーノの大名盤。情報については、遥かに詳しいライターが大勢書いているので、ここではさらっと大まかに紹介する。このアルバムは1978年に制作。   
空港で流すために作曲され、実際にアメリカ・NYのラガーディア航空で使用されている。
wikipediaによると、ライナーノーツで彼は以下のように語っている。

Ambient Music is intended to induce calm and a space to think. Ambient Music must be able to accommodate many levels of listening attention without enforcing one in particular; it must be as ignorable as it is interesting.

訳してみると、こんな感じ。
「アンビエント・ミュージックは、落ち着きと考えるための空間を誘発することを意図しています。アンビエント・ミュージックは、特定のレベルを強制することなく、さまざまなレベルのリスニングの注意力に対応できなければなりません。それは興味深いものであると同時に無視できるものでなければなりません」

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今回は場所に関連した曲たちを7つ紹介してきた。
とか言っているが、やっていることは好きな音楽の特徴出しをして、分類し、まとめることなので、なんとなく紹介というよりコレクター作業みたいな感じがして楽しい。

みなさんも暇な時、自分の好きな曲の紹介記事を書いてみたら、何か新しい発見があるかもしれない。


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