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もっとくわしくACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)を学ぶ

ACTは1986年に開発されましたが、そのルーツは、アメリカの臨床心理学者スティーブン・ヘイズが開発したリレーショナルフレーム理論(関係フレーム理論)による功績が大きいです。

ヘイズは、「人が困難な思考や感情を持つことは正常あり、むしろ、それらをコントロールしたり回避するための技術の多くは、より多くの困難につながる」という考えを提唱しました。

ACTに影響を与えた他の理論には、第1波と2波の行動理論、実存主義、人文主義的アプローチなどがあります。

ACTが開発された当時は、CBT(認知行動療法)が主要な治療法であったため、ACTはCBT(認知行動療法)への挑戦として浮上したのです。

ACTはCBTやDBTとどう違うのか?

アクセプタンス&コミットメントセラピー(ACT)、認知行動療法(CBT)、弁証法的行動療法(DBT)は、行動変化に焦点を当てているという共通基盤を持っています。

3つのセラピーのうち、CBT(認知行動療法)では、困難な感情は特定の思考パターンによって引き起こされるか、密接に関連していると考えられています。

CBT(認知行動療法)のセラピストは、クライアントに対して、感情・行動の改善につながる、より有用な思考を再構築することを奨励しますが、ACTのセラピストは、思考を再構築したり変化させたりすることは、より困難な状況につながる可能性があると考えます。

ACTとDBT(弁証法的行動療法)では、思考・感情は苦痛を伴うこともあると認識していますが、それらを変える代わりに、ディフュージョン(認知的分散)や内省・内観的視点を奨励します。

ACT、CBT、DBT、いずれのアプローチでも、思考や感情を受け入れるということになります。

ACTとDBT(弁証法的行動療法)のスキルは異なるパッケージを持っていますが、最終的には同じスキルバリエーションです。

ACT固有の側面は、個人的な価値観に焦点を当てているところです。

自分の価値観を特定し、それをより効果的な行動や思考のコンパスとして使用する点が、ACTと他のセラピーとの違うところなのです。

体験テクニック

ACTを提供するセラピストは、クライアントがACT理論を理解するのに役立つExperiential techniques(体験テクニック)を使用します。

セッション中にクライアントが動揺、怒り、不安になった時は、内省・内観的視点とアクセプタンス(受け入れ)を実践するチャンスです。

例えば、クライアントにその感情のまま座らせて、しばらく間を与えたり、敢えてその感情について質問をすることで、感情に集中してもらうなどがあります。

他の体験テクニックは、以下になります。

コントロールと回避の評価

ACTでは、心の痛みは「思考や感情のコントロールと回避によって起こる」と仮定します。

・コントロールと回避の種類

変化させる
止める
修正する
避ける

気分転換
思考や感情から一時的に気をそらすためのタスクを意味します。これには、散歩、ネット、常に忙しく過ごすなどがあります。

オプトアウト
望ましくない思考や感情を引き起こす可能性のある状況を避ける、変更、やめるなどがあります。これには、友人との予定キャンセル、職場のプロジェクト撤退、失敗などを恐れて新しいことを避けるなどがあります。

過剰思考と過剰分析
これは、思考や感情のコントロール法として一般的なもののひとつです。

過剰思考と過剰分析の例
・問題を何度も見直しする
・問題に対して非難を探す
・仮想的な問題解決(修正)
・仮想的な結果予測
・自己、他者の批判
・問題に対する感情や思考を止める

薬物乱用または自傷行為
上記またはその他の自己破壊的な行動をとる人もいます。これらは、心的な痛みの表現方法か、対処方法となります。

アクセプタンス(受け入れ)、内省・内観的視点、認知的分散(Cognitive Defusion)スキル

通常、クライアントの現状の思考や感情のコントロールと回避の方法や対処法を評価することは、これらが部分的にしか機能してなかったか、無効だったか、事態を悪化させた可能性があるという合意につながります。

ACTでは、クライアントにコントロールと回避を使用しないことを勧めますが、それに対して、より効果的な対処法や戦術の必要性も認識しています。

アクセプタンス(受け入れ)スキル

困難な思考・感情・記憶をアクセプタンス(受け入れ)することは、ACTの中核です。

クライアントには、それらを止めたり、コントロールしようとするのではなく、なるべくオープンにするよう伝えます。

アクセプタンス(受け入れ)は、困難な思考や感情を好み望むという意味ではなく、それを容認し、コントロールしようとする時間とエネルギーを無駄にしないという意味です。

内省、内観的視点スキル

内省、内観的視点スキルは、現在の思考や感情をありのままに観ることを実践する方法です。

具体的な方法としては、現在の心身の状態の部分的な側面(狭い範囲:呼吸など)に焦点を当てたり、五感のひとつをより全体的な側面(広い範囲)に拡大するなどがあります。

内省、内観的視点スキルを使用して、現在の自分自身の状態を認識するトレーニングをおこなうのです。

認知的分散(Cognitive Defusion)スキル

コグニティブディフュージョン(認知的分散)スキルは、思考や感情への集中から距離を置くのに役立つスキルです。

具体的には、画面上で言葉や画像を見ているように思考や感情の観察をするなどです。

ディフュージョンは、思考や感情を取り除いたり変化させることを意味するのではなく、それらが必ずしも真実だったり、重要ではないことを認識するという意味です。

価値観の特定とコミットメント

ACTでは、自分自身の価値観を特定し、それに沿った行動をすることを奨励しています。

自分自身の価値観とは、心から喜んで従事できる活動、規範となる原則、世界に与えたい影響、人生の充実を感じられる判断基準や優先順位を意味します。

通常、クライアントは価値観の初期リストを考えてから、このリストをブラッシュアップしていきます。

この価値観は、クライアントの行動がどの程度それを実証しているかを評価するのに役立ちます。

ACTでは、感情に反応するのではなく、価値観に従って行動をすることが、有意義な人生を送る上での鍵であると信じられています。

つまりクライアントは、自分自身の価値観に合わせて行動を変える方法を特定することが奨励されるのです。

ACTセッションの構成

他のセラピーと同様に、ACTセッションも個人によって表情が異なりますが、以下のような共通の構造もあります。

信頼関係を築く
クライアントとセラピストの間に強い信頼関係を持つことで、より良い結果が得られます。信頼関係は、相互理解や相手への尊敬により構築される可能性があります。

意識の育成
ACTセッションは、無意識のままでは前進できません。思考、感情、記憶に注意を払うことは、セッションの進展に重要な構成です。

価値観の特定
クライアントにとって重要なことや、変化の動機となる価値観を決定することで、セッションに方向性と意欲が発生します。

特定の行動にコミットする
セッションの目的は、クライアントの行動変更が目的であるため、目標、ゴール設定をすることが重要となります。その上で、成功の障壁や理由を特定するための見直しをしていきます。

ACTセッションの例

ACTでは、困難な思考、感情、記憶は人生の正常な部分と見なすため、その症状自体に焦点は当てません。

例えば、うつ症状の改善をしたいクライアントは、問題として、悲しみ、疲労、興味の低下、モチベーションの欠如などを挙げるかもしれません。

しかしACTでは、これらの症状が発生したときにクライアントがどのような行動や対処をするのかを確認するでしょう。

「症状は一人でいる時に出ますか?」
「どのような場所で?」
「その日の予定はどうしますか?」
「過去の悲しいエピソードや、否定的な将来を考えますか?」

上記のような質問に対してのクライアントの行動や対処がACTのターゲットです。

セラピストは、クライアントの行動や対処が、問題や症状、生活の質にどう影響するのかを探求するサポートをし、これらの症状に対する現状と異なる反応を試すことを奨励します。

また、ネガティブで悲しい思考と行動を反芻する代わりに、これらを観察するために内省・内観的視点やディフュージョン(認知的分散)スキルを使用することを奨励するかもしれません。

これらは、もしもクライアントに問題や症状が起きた場合でも、自分の価値観に基づいて思考・行動ができるよう機能的に働く可能性を示唆します。

ACTセッションを通して、クライアントは思考や感情について考え、経験し、対応する新しい方法を学びます。

セラピストはクライアントに、充実した有意義な人生とは、あらゆる思考や感情を受け入れ、経験していくことを意味すると伝えていきます。

ACTでは、問題や症状の軽減は通常、治療の副産物なのです。

ACTセラピストとは?

優れたACTセラピストは、様々な状況や問題、症状に対しての経験と教養を持つ人です。

ACTを使用していると口で言うだけのセラピストと、適切なプログラムを受けたセラピストとの間には大きな違いがあります。

・ACTに焦点を当てたプログラム、大学院レベルの教育を受けている
・ACTの専門家からの継続的、専門的な監修を受けている
・最新のACTに関する継続教育トレーニングなどを受けている

ACTは有効性

ACTは現在、SAMHSA(アメリカ薬物乱用・精神衛生管理庁)の国家登録簿や、APA(アメリカ心理学会)による研究支援治療にリストされています。

また、うつ症状、精神疾患、不安障害、強迫性障害(OCD)、慢性的な痛みなどにおける有効性を示す多くの研究データがあります。

他にも、物質(薬物など含む)使用障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)にも有効性を示唆するデータがありますが、より多くの研究が必要です。

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鈴木一弘
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