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『大曲の花火』を生で観る
「大曲の花火」に初めて行ってきた。
1週間前から台風10号が迫っていると知り、花火大会当日に秋田に直撃する進路コースにハラハラした。
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人口およそ6万人の町に、60万人が訪れるという日本三大花火大会の1つ。
幸い台風の直撃は免て、無事に開催されることに。渋滞を恐れて3時間近く前に会場に行ったが、予約していた私設駐車場まではスムーズに行けた。駐車場から虹が見えた。
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予約していた有料観覧席に行ってみて驚いた。
圧倒的な広さで奥が見えない。
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いつかどこかで
「大曲の花火会場みたいに奥が見えないね」
という比喩を使ってみたいと思った。しかしいつ使えるかイメージが持てなかった。行ったことがない大半の人を置いてけぼりにしてしまう好ましくない比喩だった。
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会場ではテレビ中継をするための集音マイクが大事な農作物を守る「かかし」みたいに四方八方に向けられていた。
「昼花火の部」が始まった。
「昼花火」は昔から花火通の粋人が好む花火だったようで、色煙(紅・黄・青・緑・紫など)を駆使して空に模様を描き出す。
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撮影力がないために良さが伝わらない。絵の具の筆洗いバケツが薄気味悪く濁る様のようだ。
途中で大雨にも打たれた。
大雨が来る前には鳥たちが一斉に飛び去るのが見えた。
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自然のことは天気予報よりも早く鳥が教えてくれる。昼の部が終わると雨雲の一団が去り、またもや大きな虹が見えた。会場もさらに人が増え始める。
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夜花火の部がはじまる前には、ディズニーのドローンショーが行われた。一糸乱れぬ動きで3Dのミッキーマウスを空に出現させた。
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ショーの終わりにはちゃっかり「東京ディズニーリゾートに遊びにきてね」と宣伝をしていた。芸術と商売を両立させる大切さを教わった。
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そして、ついに「夜花火の部」が始まった。
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審査員が点数をつけて審査をする。
①高度の高さや開きの揃い具合
②音や色彩
③リズムや総合美
④デザイン性や斬新さ
⑤安全性
など総合的に審査され、最もよかったものは内閣総理大臣賞が授与されるらしい。はじめに「標準審査玉」が打ち上げられ「73点」という具合に点数がアナウンスされた。それが基準になって本番の点数がつけられるらしい。
M1グランプリの審査もトップバッターが不利とされるが、はじめに前説をやって「標準審査漫才」を導入したらいいのになと、謎のプロデューサー視点が生まれた。
「ヒュー・・・・・・ドンッ!!!」
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天空を駆け上がる笛の音と、花開いた後に遅れてやってくる破裂音が心地いい。光と音の芸術。花火玉には、一瞬にして夜空に大きな華美を生み出し、儚く消えていく刹那が内包されていた。
「今のはイマイチだったな〜」
「これのどこがいいかわからんぞ」
「今のはわりかし良かったな」
近くで観覧していたおじいさんが1つ1つ感想を声に出して言っていた。僕もだいたい同じ感想だった。
時には1つ前の演目の煙が残った状態で、ちょうどそれに隠れて打ち上がる花火もあった。
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どんなに準備をしてきても、こういうちょっとしたタイミングの悪さで、残念な結果になることもある。人生も同じだ、と危うく言いそうになったが踏みとどまった。なんでも人生に例える人にだけはなくなりなかった。
煙のせいで最後までほとんど見えなかった演目に対しても会場からは温かい拍手が送られた。人の心を見た。
時に趣向の凝った花火が上がると「おぉ〜」と会場全体から声があがる。シーンとするときはシーンとする。世代を超えて老若男女が1つになって心を通わせているような気がした。
好きな音楽も職業も悩みごともみんなそれぞれ違うだろうに、花火の前ではみんなが息を一つにする。自分が共同体の一部なのだと感じて嬉しかった。
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人は花火に飽きない。そこにはきっと飽きさせない努力を微塵も感じさせない職人さんの情熱と技術がある。伝統を守りながらも革新を続けるその創作魂に心を打たれる。
最後はみんながペンライトやスマホのライトを持ち出して、対岸にいる花火師さんに向かって手を振り始めた。
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このライトは観客から花火師さんへ、心からの「ありがとう」を伝えたいという想いからスタートしたものらしい。なんて素敵な光景だ。
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花火師さんも赤いライトをもって手を振って応えていた。撮影力のなさのせいで文字どおり「対岸の火事」みたいな写真になってしまった。
帰り道では花火の火薬の匂いが残るスモークのなかで人が帰っていく姿がどうにも幻想的で良かった。一夜にして60万人が集まり、そして散っていく。
花火会場もまた華美と刹那であった。
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夜は2時間以上かけて岩手の方の宿に帰ったが、さほど渋滞という渋滞には巻き込まれなかった。
「大曲の花火会場みたいに奥が見えないね」
と言いたかったが、ここでも言う機会を逸した。
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