くらりとジャン=ジャック・ニャン吉がホフマン『牡猫ムルの人生観』(11月29日発売)について、ちょっとだけ語り合う。
東京創元社の公式キャラクター「くらり」とお友達のジャン=ジャック・ニャン吉が、11月29日発売の『牡猫ムルの人生観』について何やら語り合っているようです。
くらり「ねえねえ、いつも悩んできたけど、僕たちも『人生』って言葉を使ってもいいんニャ」
ジャン=ジャック・ニャン吉(以下J=J.N)「ああ、今度E・T・A・ホフマンの『牡猫ムルの人生観』が出るから自信を持ったんだね? くらりくん」
くらり「そうだニャ。ドイツロマン派の鬼才E・T・A・ホフマンがそう言っているんだから大丈夫だニャ」
J=J.N「すごく素敵な本だね。なんとも味のある猫が羽根ペンを持って歩いているカバー。そしてカバーをはずすと、これがまた素敵な猫、裏表紙は音楽家クライスラー。これは素敵な装丁だ。柳川貴代さんの装丁だね!」
くらり「そうだニャ、でも今はカバーまでしかお見せしないニャ」
J=J.N「教養ある天才猫ムルが、波瀾万丈の人生を送る――捨てられていたのをある魔術師に拾われて、そこで読み書きを覚えてしまうんだよ。教え込まれるわけではなく、自発的に学んでしまうんだ。それこそが天才たる所以なんだよ、くらりくん」
くらり「ムルは、本を読んでいるうちに、自分でも詩を書いたりしはじめるんだニャ」
J=J.N「なにしろこの本を出すにあたって、こんなことを書いているんだ。『これで偉大な猫になるにはどうすればよいかを学び、わが輩の素晴らしさをあますところなく認め、わが輩を愛し、評価し、尊敬し、驚嘆し、少しは崇拝する気になるであろう』もっとも、この緒言は、削除することになっていたのが印刷されてしまったという経緯があるらしいけれど。でもムルはそう思っていたということだよ、くらりくん」
くらり「ぼくたちももう少し自信を持つニャ」
J=J.N「生みの親の母猫にも出会ったり、可愛い猫と恋をしたり……これぞ人生というわけなんだ、くらりくん。『猫の恋』っていうのは俳句の季語にもなっているんだよ、初春の季語。『おそろしや石垣崩す猫の恋』なんて句が正岡子規にあったり……」
くらり「『吾輩は猫である』を書いた夏目漱石は俳句を詠まなかったのかニャ?」
J=J.N「漱石にもある。『恋猫の眼ばかりに痩せにけり』っていうのがあるね。加藤楸邨の『恋猫の皿舐めてすぐ鳴きにゆく』とか、長谷川櫂の『恋猫の声のまじれる夜風かな』とか、石田波郷の『はるかなる地上を駆けぬ猫の恋』とか、どれも味わい深いよ、あ、くらりくんにはわからないかな」
くらり「ぼくはリーディングキャットだよ、本の世界に生きてるんだから、わかるニャ!」
J=J.N「そうだった、そうだった……失礼してしまったね」
くらり「ムルは犬とも友達になったりするんだよね」
J=J.N「そうなんだ、プードルのポントだ。このポントのせいで読み書きが出来るようになったことがばれたりするんだけど。かと思えば、猫の友人に誘われて学生猫組合に入ることになり、その集会に出たりもするんだよ、くらりくん」
くらり「ぼくとJ=J.Nもミニ猫組合みたいなものかニャ?」
J=J.N「うーーん。まあ、ある意味ではそんなものかもしれないね。ところでこの本は、ただムルの自伝というだけではなくて、ちょっとした出来事、というのは、近くにあった本のページを引きちぎっては吸い取り紙がわりに原稿にはさんだり下敷きとして使ったりしたことから、他の本のページがあちこちに挟み込まれて印刷されてしまったという、不可思議な本なんだよ、くらりくん」
くらり「ああ! そういうのって、レア物っていって高く売れたりするやつだニャ」
J=J.N「くらりくんも今どきの子だね」
くらり「だってナントカ鑑定団とか見てると、よくそういうものが出てくるニャ。印刷ミスのあるお札とかね」
J=J.N 「うんうん、そうだね。その間に挟まっているのは謎の音楽家クライスラーの伝記なんだけど、そっちの話もとても謎めいていて、奇想天外で面白いんだよ。一冊で二冊分楽しめる素敵な本なんだ。動物小説であり、恋愛小説であり、教養小説であり、犯罪小説でもあり……というびっくりの問題作なんだ」
くらり「心して読むニャ……わくわくニャ」
■著訳者紹介
エルンスト・テオドール・アマデウス・ホフマン(Ernst Theodor Amadeus Hoffmann)
1776~1822。ドイツの作家。現在では後期ロマン派を代表する幻想文学の奇才として知られているが、作曲家、音楽評論家、画家、法律家でもあり、幅広い分野で才能を発揮した。本名はエルンスト・テオドール・ヴィルヘルム・ホフマンだが、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトにあやかってこの筆名を用いたといわれる。『カロ風幻想作品集』、『悪魔の霊液』、『くるみ割り人形とねずみの王様』、『ブランビラ王女』等多くの著作を残した。
酒寄進一(さかより・しんいち)
ドイツ文学翻訳家、和光大学教授。主な訳書として、2012年本屋大賞翻訳小説部門第1位に選ばれたシーラッハ『犯罪』、2021年日本子どもの本研究会第5回作品賞特別賞を受賞したコルドン〈ベルリン三部作〉、ヘッセ『デーミアン』、ブレヒト『アルトゥロ・ウイの興隆/コーカサスの白墨の輪』、ケストナー『終戦日記一九四五』、ノイハウス『友情よここで終われ』、ザルテン『バンビ――森に生きる』などがある。
■『牡猫ムルの人生観』書誌情報
書名:牡猫ムルの人生観(おすねこむるのじんせいかん)
著者:E・T・A・ホフマン
訳者:酒寄進一
判型:単行本(四六判上製)
定価:3,960円 (本体価格:3,600円)
頁数:448ページ
装画:1855年版の原書カバー(おそらくホフマン自身のデッサンによる)
装幀:柳川貴代
発売日:2024年11月29日 ※地域・書店によって前後する場合がございます
■『牡猫ムルの人生観』内容紹介
祖先に『長靴をはいた猫』を持ち、捨てられた子猫時代にある魔術師に助けられ、主人の机の上で、彼が本を音読するのを聴き、文字を目で追い、ドイツ語を習得した牡猫ムル。羽根ペンで自伝を書くようになると、近くにあった『クライスラー伝』のページを破っては、吸い取り紙として挟み込んでいたため、編集人ホフマンがその原稿を出版社に渡して、出来上がってみると、ムルの自伝は『クライスラー伝』とのつぎはぎの二重構造の作品になっていた! しかも『クライスラー伝』の部分は犯罪小説仕立て、という奇怪な物語なのである。