「ここに立派な『蔵』があったなんて」。地元民も知らなかった質屋の秘蔵が、生まれ変わったギャラリー店舗@白楽
●おもしろ物件、「蔵」付き店舗
屋上にバスタブがある物件や緑のツタに飲み込まれた物件、山奥にある教会など、個性的な物件をサイトで日々ご紹介している東京R不動産。
今回ご紹介するのは、立派な「蔵」付き物件です。ここは元々、質屋として使われていました。
現在この物件は、大家さんのリノベーションによって「ロッカクパッチ」という複合施設に生まれ変わり、店舗・事務所・住居の区画に分けて貸し出されています。
しかし大家さんは質屋のリノベーションを終えたあとも、1階にある立派な「蔵」の活用方法については、しばらく考えあぐねていました。
この蔵を今後どうしていこうか。他の区画のように賃貸に出すのか、出すならどう使われるのがベストか。最終的に出した答えは、この蔵を隣接区画とセットにして、「蔵を活かしてくれる素敵なお店」に入ってもらうことでした。
そうして東京R不動産でテナントを募集したところ素敵な出会いに恵まれ、2024年2月にギャラリー店舗がオープン。
店舗の名前は「KURAAK」で、読み方は「クラアク」。つまり”蔵開く”という、この物件に由来した店名が付けられています。
この蔵に命を吹き返し、蔵をまちに開いてくれた「KURAAK」店主の小池さんに、お店や物件についてお話を伺いました。
●コンセプトを持つのは、店ではなく商品
オープンしたKURAAKのSNSを見ると、「コンセプトストア&ギャラリー」との表記が。一体どんなコンセプトを掲げているのでしょうか。
「うちが『店としてのコンセプト』を持っているわけではないんです。店側のコンセプトに沿った商品を集めるのではなく、商品が既にコンセプトを持っているのだから、それを見せる。そんな店なんですよね」
この店を開くにあたって、友人には「せっかく蔵があるんだから、『和』とか何か特定のコンセプトがないと勿体無いんじゃない?」とも言われたそう。
しかし店としてのコンセプトを持たないままオープンした現在、店の中にはなんだか心地よい統一感が生まれています。
「並べているのはどれも、自分で全部買い取ってもいいほど素敵な商品だけ。それで結果的に統一感が出ているのかもしれません」
そう話す小池さんは、大学で元々プロダクトデザインの勉強をしていたそう。キャリア選択の際にグラフィックデザインへと進路を変え、現在は代官山でグラフィックデザイン事務所を営んでいます。
そんな中、デザイン事務所で携わったプロダクトを手に取ったり、大学時代の仲間が作ったプロダクトがリリースされたりするうち、「周りの人の商品を集めて広める店をやりたい」と思うようになったのが、この店の始まりでした。
●「なんか面白い物件出てるよ!」
「店をやるなら物件は、代官山のデザイン事務所にも行きやすい東横線沿いがいいな」。そんな話を奥様にしていたところ、「なんか面白い物件出てるよ!」と見つけてくれたのが、東京R不動産で紹介していたこの蔵付き物件でした。
「この蔵をギャラリーにできたら面白そう、ここは後輩の作ったメガネを置くのにちょうどいいな、などと想像がつく物件でした。元々質屋なのでそのまま店として使いやすいのも良くて。まさか本当にお店をやるとは、という感じですけどね(笑)」
●店づくりは「外から蔵が見えるように」
この物件の見どころはなんと言っても蔵。しかしこの蔵は店内の奥まった位置にあり、外からではその存在に気づきにくいものでした。
そこで小池さんは店の内装を考える際、「外からでも蔵が見えるように」と、見通しの良さを考えながらレイアウトを組みました。
その結果、ショーウィンドウを覗いた人が「あの奥の蔵はなんだ?」と気になって入ってきてくれるのだそう。地元の人はここが質屋だったことは知っていても、中に蔵があることまでは知らなかったみたいです。
蔵に入ると、日光が気持ちよく差し込むエリアの雰囲気とは打って変わって、シックな雰囲気が広がっています。
「店づくりの際、最初はこの壁の板を取ってしまおうかとも思ったのですが、後輩の内装屋に『これはとてもいい木を使っているから取らない方がいい』と教えてもらって、そのまま生かすことにしたんです」
●「こんな店、白楽にないよ?」「だから面白いんです」
「KURAAK」の目と鼻の先に広がるのは、レトロな面影を残す個人商店など170軒がずらりとひしめく「六角橋商店街」。このあたりはお年寄りの方だけでなく、神奈川大学が近いこともあって若者も多く行き交っていました。
小池さんは知り合いのいないここ白楽で開業するにあたり、商店街の店を飲み歩いて「店をやります」と挨拶して回ったそう。
いざKURAAKがオープンして地元の方が来店すると、「いや〜、これはちょっと難しいんじゃない?こんな店、白楽にないもん(笑)」と笑われたと言います。
それでも小池さんは「この店が代官山にあったら馴染みそうだけど、白楽にあるから面白い。地域に無かったものをやってみる方が楽しいじゃないですか」とおおらかに構えています。
オープンから4ヶ月経った今では、地元の方が白楽にゆかりあるクリエイターと繋げてくれたり、すぐ隣で偶然同時期にオープンした古着屋さんと仲良くしたりなど、白楽でのよいご縁が広がっているようでした。
●クリエイティブな大家さんによるリノベーション
東京R不動産について小池さんは、こんなことを話してくれました。
「東京R不動産を知ったのは多分20年前とか、相当前です(笑)。クセのある物件を紹介してくれるので、クリエイティブ色の強い方が見ているサイトかなと思います。物件だけでなく、オーナーさんもクリエイティブだったりしますよね」
小池さんが言うように、ここ「ロッカクパッチ」の大家さんもまさにクリエイティブな方。質屋再生を目指したこのリノベーションは、心意気ある大家さん自身にとってのチャレンジでもありました。
現在、「ロッカクパッチ」の1階にはコーヒーロースターと「KURAAK」が入り、2階は4区画のシェアオフィスになっています。
「入居前、大家さんにここロッカクパッチのイメージを聞いて、いいなあと思いました。シェアラウンジを利用する方やコーヒースタンドのお客さんが店に寄ってくれるのも、この施設ならではですよね」(小池さん)
「蔵のある区画には、ただ事務所として使われるのではなく、お店としてまちに開いてくれる方に入ってもらいたいなと思っていて。KURAAKさんに素敵に活用していただけて、とてもありがたいです」(大家さん)
先日は六角橋商店街の催しである「ドッキリヤミ市場」に合わせて、ロッカクパッチでもイベントを開催。「KURAAK」では蔵を活用し、地元ミュージシャンによるライブイベントが行われました。
「ここでギターを弾くと、蔵がホールみたいになってすごくいい音が響きました。他のアーティストさんにも、ここでライブをしたいと言われています(笑)」
●蔵をまちに開いた先に
取材をしている間にも、地元のお年寄りたちが時折来店。「ここは何屋だね」と尋ねられるたび、小池さんたちは「雑貨屋みたいな感じです」とにっこり答えていました。
このまちで、いい意味で少し異質とも言えるこの空間。地元の人がただ遠巻きに眺めるのではなく、気軽に来てくれるような場所になったのはとてもうれしいことだと感じました。
「今は知り合いのプロダクトがメインだけど、後々は地元の方の物も並べたいですね」と、小池さんは楽しそうに話してくれました。
白楽でカルチャー発信の場となるこの「蔵」。みなさんもぜひ遊びに行ってみてください。
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