「ここ、森にしてもいいですか?」駐車場じゃつまらない...と考えていた土地オーナーに届いた提案とは@代々木上原
代々木上原の住宅街にポツンとある「空き地」。この空き地のオーナーは「駐車場になるのは味気ないよなあ...」と、何かユニークな活用の仕方はないかと考えていました。
そんな中「ここを『森』にしたい」と思いもよらぬ構想が持ちかけられることに。空き地を森にするとは、一体どういうことなのでしょうか。
●代々木上原の「空き地」。駐車場じゃつまらない
閑静な住宅街とセンスの良い店が混在し、ファッションやウェルネスへの感度が高い人が多く住むまち、代々木上原。このエリアに、不動産投資のため空き地を所有しているオーナーがいました。
「元々は小さな飲食店が集まるビルを建てようと、この土地を買いました。けれど昨今の建材費の高騰で、建設が難しくなってしまいまして」(土地オーナー)
そうして「何か別の活用方法はないか」とあれこれ考えている間、オーナーは何度も駐車場業者から「駐車場にしないか」と提案を持ちかけられました。
けれど、駐車場ってなんだか味気ないのでは...。そんな感覚を抱いたオーナーは、この土地を面白く使ってくれる人と出会えないかと、「東京R不動産」で利用者を募集することにしました。
●空き地活用者の募集に「森にしたい」という応募が
この土地を担当した東京R不動産スタッフは、借り手の募集にあたって「キッチンカーやコーヒースタンドを出して、うまく活用してくれる人がいるかも」と期待していました。
そんな中応募してくれたのは、なんと「ここを森にしたい」というComoris(コモリス)のみなさん。
Comorisの共同主催者である渡辺さんは、昔から公園が好きだった一方で、自然との接点という意味では物足りなさも感じ、自分たちの手で都心に森を育てる「Comoris」というプロジェクトを構想していました。
「都市で暮らしていると、なかなか自然の実感って得られないですよね。公園の『制約のある自然』では、花の蜜を吸っていいのかも木に登っていいのかもよくわからないし。それでアーバンフォレストという、都市の中で森を育てる『Comoris』を考えました」
「『シェア畑』や『シェアガーデン』はすでに存在しますし、僕自身もシェア畑を4年ほどやっていました。ただそれらは農作や美観のためといった人間中心の考えが強いですよね。僕たちのシェアフォレストでは、本来この場所の風土で育っていく在来種で森をつくり、他の生物とも共生できる環境を増やそうとしています」
●ぴったりな空き地、そして理解あるオーナーとの出会い
元々数年かけて構想が固められていたComorisは、資料上のイメージをそろそろ実際に再現するフェーズへと移るところでした。
そんな中、Comorisの主催者内で「そういえば気になっている土地があって」と話題に上がったのが、「東京R不動産」で募集していたこの空き地。
すぐに現地を見に来た渡辺さんらは「ここは最初のComorisを実現するのにピッタリかも」とイメージを膨らませ、空き地の借り手として名乗り出ました。
「エントリー時、Comorisはまだ実例がないフェーズだったにもかかわらず、オーナーさんは複雑な構想をすぐに理解してくれ、面白がってくれたのがとてもありがたかったです」(渡辺さん)
「森にしたいと聞いて、めっちゃいいじゃん!と思いましたね。社会的にもローカル的にもインパクトがありますし、資料や実績を見れば面白くなることは分かりました。人通りのあるこの場所で森をやることに意味を見いだせそうだなと、まさしく探していた活用案でした」(土地オーナー)
●空き地を森にするって、不動産的価値的にどうなの?
Comorisの仕組みを、不動産的視点で見てみましょう。
まず土地オーナーは、Comorisから受け取る土地賃料が収益となります。そして土地を借りたComorisは、森を"上物”として、森のシェアメンバーからの会費や、パートナー企業からの研究開発費、イベントの場所代などを売上としています。
今回、Comorisに土地を貸すと決めたことに関して、土地オーナーはこう話してくれました。
「正直、経済合理性だけを考えたら早く建物を建てるのがいいのでしょう。ただそれだとあの土地のポテンシャルを発揮できないし、面白くない。少しの間は何も建てないまま、まちにインパクトを与えられないかと、ちょうど思っていたんです」(土地オーナー)
経済合理性と"面白さ”の間でせめぎ合ったオーナーは、Comorisに空き地を半年間の期限付きで貸すことで、両者のバランスを取ることにしました。
●森をシェアするって?
Comorisは森をシェアするサービス...とのことですが、一体どのように「シェア」するのでしょうか。
「シェアメンバーになるためには、NFTのメンバーシップ(≒森の使用権)を買ってもらっています。シェアメンバーは森に植物を植えたり、森でイベントを開いたりできます」
NFTを活用することで、水やりやイベント企画の対価にもなるComoris内専用の通貨を使えたり、将来的には企業や個人向けにメンバーシップの売買もできたりということを見通しているのだそう。
一見難しそうなNFTですが、ハードルに感じるのではなく面白がってくれる方々がComorisに魅力を感じ、最初のメンバー募集では10人の募集に対して30名近い方から応募がありました。
「メンバー募集の際、プロジェクトの色的に、デザインやアート界隈の方の賛同が多いかなと思っていたんです。でも多くは大企業勤めの方だったのが意外でした。みなさん自然に触れる場を求めていたり、こういった新しい仕組みで得たものを会社で生かそうと思ったりしてくれているみたいです」
2024年の5月にComorisが実際に始動すると、メンバーのみんなで土壌の改善を行ったり、パートナー企業とここでサステナブルな製品開発の実験をしたりしながら、空き地が少しずつ森として成長しはじめました。
「Comorisは、あらかじめ用意した森を提供するのではなく、永遠に完成しない森をみんなで育てるイメージなんです」
●近所の方々もふらりと訪れる森
この森には、シェアメンバーだけでなく誰もがふらりと訪れることができます。 空き地が森に転換され、木々も青々としてきた現在、犬の散歩やランニングで通りかかった方々などによって少しずつ認知が広がり、この森は地域の憩いの場になってきているようです。
「近所の人たちに活用されることで、地域のコミュニティが可視化されたり、新しい繋がりが生まれたりするようになりました。訪れる方には『ここを森にしてくれてありがとう』『半年で終わっちゃうのは寂しい』とよく声をかけていただきます」(渡辺さん)
●駐車場になるかもしれなかった「空き地」が、地域で愛される「森」に
空き地を所有するオーナーにとって、思いつく活用用途は「駐車場」「キッチンカーなどを停める場所」「資材置き場」などではないでしょうか。
しかしここで示されたことは、普通は想像もしないアイディアを持っている人がいるということ。そしてその先にはもちろん、想像しない発見や展開だってあるはずです。
「そもそも、空き地の利用者を『東京R不動産で募集してみよう』と思い浮かぶ時点で、オーナーさんは面白い人ですよね(笑)」(渡辺さん)
「東京R不動産を見ているのは、規格外のものに新しい価値をつけられるような、不動産の本質の分別がある人たちだと思っていて。せっかく磨けば光りそうな物件や土地があるなら、独自の視点でアップデートしてくれる人に出会えたらなと思い、東京R不動産で案を募ってみたんです」(土地オーナー)
森にできる土地を都内で探していたComorisと、空き地のユニークな活用方法を求めていた土地オーナー。しっかりとしたビジョンを持ったお二方の出会いが東京R不動産で生まれたことを、私たちもうれしく感じています。