「閉ざされた団地」が「みんなで育む団地」に @高円寺 @草加
「団地」と聞くと、どんな印象を受けますか。ちょっと古そうで、人がぎゅっと集まって住んでいて、そういえば目の前には用途不明の“ちょっとしたオープンスペース”がある...そんなイメージもあるでしょうか。
そんな団地がもし「綺麗で使いやすく」なって、目の前には「素敵なオープンスペース」が用意され、「同じ価値観を持つ人たち」が集まれば、一気に素敵なイメージへと変換されるかもしれません。
今回は、そんな変貌を遂げた、そしてまさに遂げている2つの団地をご紹介。そこから見えてくるエリアリノベーションの考え方について最後にまとめています。
●JR東日本の旧社宅が生まれ変わった「アールリエット高円寺(高円寺アパートメント)」
高円寺駅の付近にある「アールリエット高円寺(高円寺アパートメント)」をご存じでしょうか。
2棟合わせて住戸44戸、店舗兼住宅4戸、店舗2区画の合計50戸で構成され、芝生に面するテナント区画にはカフェやライフスタイルショップが並んでいます。
実はここ、元々は「JR東日本の社宅」として使われていたのですが、需要縮小や老朽化に伴って2016年から閉鎖されていました。
ここを再び社宅として整備することもできましたが、「この団地を社員ではなく一般向けに貸せたら、自社沿線の人口を増やせるのでは」との目論見から、建物だけでなく用途も一新してみることになりました。
入居者募集に際して、東京R不動産が意識したのは「価値観の重なる層を集める」こと。
このアパートの描く未来像である「自由度の高い住まいで、多様な人や暮らし方が共存する暮らし」をサイト上の募集記事で事前に共有することで、一緒にアパートを育んでいける人々に住んでもらいたかったのです。
そうして集まったメンバーや、その雰囲気に惹かれて引っ越してきた新しい住人の方々によって、現在もアパートは成熟を続けています。
当事者として住み込みで向き合う「女将」
アールリエット高円寺は、企画の段階からこう考えられていました。「住んでからが暮らしのスタート。建物ができたら終わりではなく、運営への注力も重要だ」。そこで、住人や地域の人々との「コミュニケーション促進役」となる方を呼ぶことにしました。
声がかかったのが、コミュニティ運営や場づくりを住宅や地域で行っている宮田サラさん。まちなかでの人々の関係性や、場づくり・仕組みづくりをデザインして育む「株式会社まめくらし」のメンバーです。
宮田さんは、当時の経験値や状況では「いきなり50世帯規模のコミュニティを”育む”のは難しい」と考え、当事者として向き合うために自身もここで暮らすことを決めました。
そんな宮田さんは現在「女将」として親しまれ、アパート内外のコミュニティ形成を担っています。
●今度は東武鉄道の旧社宅が「ミノリテラス草加」に!
JR東日本によるアールリエット高円寺のオープン(2017年)から7年が経った今。今度は東武鉄道も、遊休資産となっていた社宅を整備して一般向けに貸し出そうと、2024年4月に「ミノリテラス草加」のオープンを迎えます。舞台は埼玉県の草加市。東京都足立区の少し北に位置する町です。
「草加ってどんな街?」とミノリテラス草加の運営メンバーに聞くと、「マルシェなどのイベントがたくさん開催されているイメージ。個人経営の素敵な店もたくさんあるし、好きなことを仕事にしてイキイキ暮らしている人が多い」と教えてくれました。
草加市は、暮らす人それぞれが想い描く暮らしを自らの手でつくっていく「リノベーションまちづくり」を、民間と行政が一緒になって進めている街なのです。
子どもの居場所を意識した空間づくり
ミノリテラス草加のプロジェクトでも、建物前のオープンスペースを「広場」として開放することに。
ここではイベントができるのはもちろん、オーガニック農園を目標とするコミュニティファームも設けており、草加駅の近くで有機野菜作りや子ども向けの食育を行っているファーム「Chavi Pelto(チャヴィペルト)」がアドバイザーとして入っています。
居住区画は、郊外ならではのつくりでアールリエット高円寺より少し広め。社宅時代の小分けの間取りからリノベーションして部屋を繋げたことで、子育て世代がゆったりと自由度高く暮らせるようになりました。
それにともない、広場に面した1階部分には「子どもの居場所」を意識したテナントに声をかけ、イタリアンレストラン、シェアスペース、地域とつながる子どものアトリエ、シェア工房が入ることに。住人や近隣の方々が自然と集まる場になりそうです。
草加で広い顔を持つ、頼もしい運営メンバー
ミノリテラス草加を運営するのは「株式会社ソウカブンカ」。
加えて、永田さん・小島さんのお二人が、サポート役として常駐します。
永田さんはもともと、静岡県沼津市で家具作りや内装の仕事をしていました。奥様の地元である埼玉県に移住することを考えていたところ、ちょうど今回のサポート役の募集を見つけたそうです。「僕には3歳の息子がいるのですが、沼津では地域で見守りながら育ててもらっていました。そんな子育てができる場を自分も作りたいなと思っていたんです」
一方で小島さんは去年、草加市谷塚で行われた「リノベーションスクール(※)」に参加した際、対象案件がここ「ミノリテラス草加」だったことからご縁が生まれました。「『目の前でコミュニティが生まれていく仕事』を10年後ぐらいにしたいなあと考えていたのですが、まさかもうチャンスに出会えるなんて思ってもいませんでした」
7人の頼もしい運営メンバーにサポートされながら、ここでどんなコミュニティが育っていくのかとっても楽しみです。(東京R不動産で44世帯の入居者を募集しています。詳しくは募集ページをご覧ください)
●サポート役に見守られ、成長していく集合住宅
ご紹介した2つの団地の運営にあたり、「暮らしを楽しむことに積極的な住人」を支える「信頼のおけるサポート役」はとても大きな存在です。
サポートのひとつとして、宮田さんはアールリエット高円寺でのイベントの際に「さまざまな”関わりしろ”」の整備をしています。50世帯のモチベーションは「企画から関わりたい」「当日だけ手伝いたい」などさまざまなので、誰もが気持ちよく関われるように裏側から支えているのです。
「オープン当初はみんな手探りの状態でした。私から『こんなことできたらいいよね』と提案していくフェーズから始まり、今は住人の方々から『こんなこともできるかな』と声をかけてもらったり、一緒にどんな機会があると良いかを考えたりしています。
現在は子どもがいらっしゃる世帯も増えましたが、子どもメインのイベントと、大人が主役で楽しめるイベントのバランスも意識しています」(宮田さん)
一方、「ミノリテラス草加」はまさにこれからというフェーズ(24年4月オープン)。今後の目指す姿について、サポート役のお二人は「住人の方や地域の方にとって、居場所の選択肢の一つになること。イベントの時だけでなく日常でも、ふらっと気軽に来てもらえる場所にしたい」と話してくれました。
「DIYや農作など、なんでも楽しんでやってみたい!という方に住んでもらえたら嬉しいです。また、例えば1階のお店では『いらっしゃいませ』よりも『おはよ〜』と挨拶できるような、顔の見える関係性を築いていきたいですね」(永田さん・小島さん)
アールリエット高円寺では、日常のつながりをより深めるため大小さまざまな交流の機会がつくられていますが、特に毎年開催されるマルシェは単なるイベントではなく「住人たちでつくる場」へと育ち、まちの風景として定着しているようです。
ミノリテラス草加でも、お二人のサポートと住人・地域の方々によって、地域に根ざしたつながりが育まれていくことでしょう。
●団地再活用の事例から見えてくる、エリアリノベーションの可能性
一般的に、建物の価値は「建てられた瞬間がピークで、そこから経年劣化を理由に下がっていく」とされています。しかしこれからの集合住宅の価値は、「いかに新しいか」だけでなく「どんな価値観の人たちが入って、どう運営されていくか」も鍵になりそうです。
二つの事例から見えてくるのは、団地のリノベーションと再活用によってローカルな人たちがじっくりエリアの価値を育んでいくことが、エリアリノベーションにつながるという可能性。
軸となるオープンな拠点がハブとなり、その場に惹かれたプレイヤーたちがにぎわいを育んでいく。それを想定したリノベーションの施された団地は、素敵なサポート役と住人が揃うことで、これからの小さなエリアリノベーションの一手となるのかもしれません。
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